第一陣:出会い、其れ即ち災厄の始まり。
「英雄って誰のためにある言葉なんだ?」
ふいに、俺は思った。その次の時点で、俺は行動を開始していた。
昔からの行動派。思ったことはすばやく実行。これが俺のポリシーであり、親父への誓い。
急いで家の押入れに上半身を入れる。……懐かしいにおいがした。
そして長年愛用していた木刀を取り出す。机の脇から大きめのリュックを取って、さらにクーラーボックスを入れる。中に冷蔵庫から取り出した飲み物や、おにぎりなど非常食を詰め込む。
折りたたみ式寝袋も端のほうに入れ、一応金も寝袋の中に。袋に入れた木刀をリュックの背中にあたる部分に縛り付ければ、完成。
そのまま鍵を持って、これまた長年の愛用品、ランニングシューズを履く。靴紐をしっかり結び、立ち上がる。
直後、台所方面から母がやってくる。
「どこ行くの……って、その格好は……」
母は俺の見慣れた格好を見て、ため息を吐く。
「……旅してくる。いつ戻るか分かんないけど」
そう言って、俺は玄関のドアを開けた。そして出ようとしたのに、後ろから母に手を掴まれる。
「ちゃんとしなさいよ? 旅先でなんかあったら知らせなさい。それと、お金に困ったら、すぐに戻ってくること。いい?」
「……ああ」
多分、お金に困っても戻ることはないだろう。そこら辺で魔物を捕まえて、売るだろう。そうすりゃ何とかなる。
と、言う事で。
「行って来ます」
俺は、外へ出た。朝の風が、身を包む。後ろで、母が心配そうに手を、離した。
もう、会えないなんて事はないだろうけど。
その手放しは、どこか寂しかった。
「……で、どうすんだよ、俺?」
住宅街のど真ん中、一人立つ俺。周りには一戸建てが立ち並び、乏しい明かりが窓から見えている。
現在位置、ブヘム住宅街B地区。とりあえずブヘム街から出て、シャスナの平原へ向かうとしよう。
話はそれからだ。
ということで、俺は歩き始めた。
……のだが。
「いやぁっ!」
突如、ここより東二十五度の方向から、若い少女らしき叫び声が聞こえてきた。とりあえずそちらの方向へ目を向けた。
……どうやら神社のところで、何か起こってるらしい。行ってみるの? 俺?
「……」
行かなきゃ駄目だろう。じゃなきゃ俺の男としての誇りはどこにある? プライドが廃れるってもんだ。
俺は、急いで神社の鳥居を目指した。
「やめて……。こないでっ!」
神社の鳥居のところで、見たところ俺と同じぐらいの年の少女が、熊らしき姿に模した魔物に襲われかかっていた。
……後三分ぐらいで、喰われるだろうな。
別に見なかったことにしても良いんだが。少女がこちらに気付いている気配は微塵もない。
だがしかし、先程も言ったとおり、これは助けなきゃいけないだろうな。
ザッ――!
俺は背中の木刀をすばやく抜刀し、熊の魔物目掛けて駆け出した。
「……救助隊が来たぞ」
「……え?」
俺は目の前の少女を飛び越え、魔物と対峙する。
後ろの少女に気を配りながら、俺は魔物に威嚇する。
そして、魔物が隙を見せた一瞬。
バンッ!
魔物の脳天に木刀を素早く振り下ろす。強烈な手ごたえの後、さらにひるんだ魔物のわき腹に木刀を叩き込む。
グォォォォォ!
断末魔の叫びと共に、熊の魔物は怪しげなもやのかかった虚空に消え去った。
……退治完了。
「ふぅ」
一息つきながら、木刀を背中の袋にしまう。……否、この場合袋が木刀をしまったと言うべきだろう。なんとも高性能な袋だ。
「おい」
「……え?」
俺は振り返りざま、しゃがみこんだ少女に言う。
少女は、見た目からすると可愛い。セーラー服に、青い眼、髪は結んでいないようだ。その顔立ちはまだ幼げが残っている。
――気のせいだろうか。こいつと似た奴、どこかで見たことがある気が……。
「こんなところにそんな格好でいたら風邪引くぞ? さっさと家に帰った方がいい」
「え、でも……」
「そんじゃ、俺はこれで」
そういう勘がある奴とは関わらない方がいい。そう思い、鳥居をくぐって外に出ようとした。しかし、思ったとおり、後ろから手を掴まれる。
うぁぁ、デジャヴだ。
「待って。お礼言わせて」
「……礼なんていらねぇ」
「えぇー。ずいぶんとキザなんだね」
初対面の相手にその言葉はないだろう。まあ別に傷つきもしないが。
「五月蝿いな。本当に礼なんていらないから」
俺が手を振りほどこうとしながら言う。だが、俺の手を掴んだ手はまったく離れない。むしろ段々掴む手の力が増してきている。
……怪力か? コイツ……。
「旅、してるんでしょ」
少女は、上目使いで俺に尋ねる。
「……これから出るがな」
「連れてって」
「……何を」
「私も、その旅同行させて?」
「……は?」
さてさてさて、これはもう少しこいつと話し合う必要がありそうだ。
何なんだよ、一体。
という訳で、再び姿を現しました、カルテットです。
この作品は、以前投稿されていた同名作品のリメイク版です。リメイクと言うほど大したことはやっておりませんが、各部に修正の跡が見られるようです。多分。
評価感想や、誤字脱字等の報告もしてくださると嬉しいです。
それでは再び、のらりくらりとよろしくお願いいたします。