~第二の錦織圭たちに贈る言葉(5)~ 『ネットダッシュは出球を感じてから走れ』
〜第二の錦織圭たちに贈る言葉(5)〜
『ネットダッシュは出球を感じてから走れ』
1. まえがき
2016年、全米オープンで錦織圭選手はベスト4に入った。
この大会で錦織選手はたびたびネットダッシュを見せていた。ストロークラリーで勝てない対戦相手にはネットプレーでポイントを取る必要に迫られる。しかし、緩い出球を打ってネットへ出て行ってもパッシングショットやドライブロブで頭越しにパスされる。あるいは足もとにボールを落とされ返球をネットさせられたりする。
このような事が錦織選手にもたびたび見られた。
ポイントを取るには、相手からの返球がネットより高く、甘く帰ってくるような厳しい出球を打ち、しっかりしたボレーを決める必要がある。
緩い出球になったのか、厳しい出球が打てたのかを判断し、それからネットダッシュする習慣を身につけなければ勝利は遠い。
2. 贈る言葉(5)
まず、ベースラインでのグランド・ストロークからネットダッシュする場合を考えよう。
ネット高さよりも高く弾んだボールを相手コートのコーナーを狙って、強く叩いてネットに出る場合が通常であるが、この出球がベースライン中央で待機する対戦相手に有効に働くかどうかが不明のままネットに出ると、パッシングショットなどの洗礼を受ける場合がある。
まず、相手からのストロークによる返球が強く打てるタイミングになっているかどうかを感じ取らなければならない。相手からの返球が早くなくても、自分のリズムに合ったタイミングで強くボールを叩けるかどうかを感じ取れなければならない。
ストローク練習や練習試合でこの感覚を養う必要がある。
自分のタイミングに合わないボールは強く叩くとネットするかバックアウトする。
① ストロークラリーをしながら相手のリズム、自分のリズムを感じ取れているのかどうか。今、打つべき瞬間なのかどうかを感じ取る。
上記のことが瞬時に「OK」と感じられたら、出球を打つ。
よくよく『観の眼』を磨くべし。
(注記):
バックハンドでの出球は打たないほうが良い。なぜなら、バックハンドスライスやフラットストロークは打球のスピードが遅くなり、相手に返球のチャンスを与えることになりやすい。トップスピンは着地後高く弾むので出球には不向き。
フォアハンドのフラットショットの早い打球はコート面で滑り、高くはずまないので、相手は返球しにくい。これがベストの出球である。
トップスピンのドライブショットは着地後ボールが高く弾むので、相手は返球しやすいし、ドライブのかかった返球がネットを越えた後、足元に落下してくるのでボレーするのが難しくなり、ネットさせられる確率が高い。
自分のリズムとタイミングで出球を打った瞬間、すなわち、ラケット面からボールがリリースした瞬間に感じなければならない事がある。
② 手の感触から『気』の乗った勢いのあるボールが放たれたかどうかを感じ取る。
(臍下丹田に力を込めてストローク出来たか。手ごたえを感じたか。)
③ 相手の立っているポジションとボ−ルの落下点までの距離がボールに追着ける距離なのかどうかを、それまでのラリー経験から感じ取る。
④ 相手のリズム・呼吸は放たれた出球とタイミングが合っていないことを感じ取る。
上記3項目が瞬時に「OK」と感じられたら、ネット中央に向かってダッシュする。
よくよく『観の眼』を磨くべし。
次に、サーブアンドボレーについて考えてみよう。
サーブは空中でインパクトするが、身体が前方に向かって移動している必要がある。
贈る言葉(1)で述べたように、ボールと身体の衝突問題を考えれば、時速190Kmのサーブを打つなら、身体は後の方向に120Kgfくらいの反力で押し返される。そうすると、サーブスピードが遅くなると同時にボールのインパクトの場所がスイートスポットから少しでも外れている場合、ラケット面が狂うため、サービスを失敗することになる。
それを防ぐために、毎秒3mくらいのスピードで身体を前方に蹴りだす必要がある。
さて、正しくサービスボールを叩いたとして、ストロークでのネットダッシュと同様に、リズム、タイミングをサーブリリースの瞬間に感じ取り、『NO』であるならば、ネットダッシュは中止し、ストロークからのネットダッシュに変更する必要がある。
3. あとがき
表題の『ネットダッシュは出球を感じてから走れ』を言い換えると、
『ネットダッシュでのポイントは出球で決まる』である。
出球がノータッチエースになれば、それに越したことはない。
出球が良ければ、浮き球が返ってくるので、ボレーで簡単にエースが取れる。
出球の悪い対戦相手のネットダッシュなどは何も怖くない。
コート上でインプレーに入ったら、論理的に考えることは忘れること。
感じるままにプレーすること。すなわち、『心は空なり』である。
頭脳の前頭葉前野で論理的に考えるのは、ベンチでの休憩中かポイント毎の合間に行うこと。
よくよく鍛錬すべし、である。
サービスでもストロークでも攻撃的ショットを放つ時は、
『いぶき』の呼吸法で声を発しながら打球することをお勧めします。
4.余談(追記)
贈る言葉(3)で話したウィニイングショットとなったバックハンド・ドライブのパッシングショットには余談がある。
対戦相手からのアプローチショット(出球)は甘く、ベースライン中央から2~3歩走ったコート内でバウンドした。そのボールをライジングでインパクトし、ラケット面からリリースした瞬間、
『あっ、ネットした。』と私は思った。
しかし、ボールの行方を追って見ると、対戦相手の左膝横に向かって飛んでいるのが目に入った。
『あれ、ネットを越えた?』と私は不思議に思った。
ボールがリリースした瞬間に手が受けた感触は、今までの練習や試合では必ずネットしていたものであったから。
『何故、ネットを越えることができたのだろう?』と思いながら、私は対戦相手と握手するためにネットに向かって走った。
その時は、ボールがネットを越えた理由が解らなかった。
間の抜けた話だが、それから1年後くらいにその理由に思い至った。
それは、試合をした場所の標高が1000メートルと高かったからであった。
普段は標高が数十メートル以下の低地で練習や試合を行っていたので、自分の感覚は低地でのものであった。
標高が高いと空気中の気圧が低いので、ボールが飛んで行くときに受ける空気抵抗が小さいのである。
そのため、同じ力でボールを打っても、高地では低地に比べて遠くまで飛ぶのである。
だから、いつもはネットの白いベルトに当たっていたボールがネットを越えることができたのであった。
メキシコシティなどの高地で試合をする場合には気圧の大きさにも気を配る必要がある。
プレースメントで狙う場所をいつもより2メートルくらいコートの内側に設定する心がけが必要になることを諸君は記憶に留めておくと良い。
『諸君の健闘を祈る』
〜目賀見勝利より第二の錦織圭たちへ(5)〜
2016年9月14日
2016年9月29日 4.余談を追記
参考文献:
宮本武蔵五輪書 神子侃訳 徳間書店 1963年8月 発行
わが空手五輪書 大山倍達著 講談社 昭和50年11月 第一刷