熱さ
どうでもいいけど金平糖食べたい_(:3」∠)_
〈by愛花〉
チャリンチャリンと聞いたことのない音がする。
それはゆーまのポケットから出したもので、とても不思議な形をしていた。
じっと見つめる。そのことにゆーまが気づいてくれたようだ。
ゆーまはそのチャリンチャリンと音を出すものを見た後、わたしの目を見る。
「これは鍵っていって、大切なものを取られたりされないようにするものなんだ。
これでいうと、俺の家に誰も入らないようにってことかな」
「へえ〜、鍵かあ」
わたしは痛みを忘れ、初めて見るものに感動する。
きっと、今まで痛みを感じなかったのは、こういうことがずっとあったからだろう。
ゆーまは鍵をでこぼこした所にさす。
でこぼこというより、穴?だろうか
「これは鍵穴、こういう鍵がかかったものを開けるためにあるものだ。
ここに鍵をさして、こうやって回すと…」
ゆーまは鍵穴にさした鍵をぐりんと回す。
すると鍵穴からカタンと音がした。
ゆーまはドアをひくとガチャッと音を立てて開いた。
「わぁあ!開いた!すごいねえ」
目を輝かせて笑うと、ゆーまも笑ってくれる。すぐには気づけない小さな笑顔だ。
家に入るとそこは、小さな空間だった。
「だだいま〜」
とゆーまは言う。とりあえずわたしは「ただいまあ」と言ってみた。
するとゆーまはさっきみたいな小さな笑顔よりも大きな笑顔で笑う。
「「ただいま」っていうのはな?、家に住んでいる人が、家に帰ってきた時に言う言葉なんだ。
うーん、だから愛花の場合は「おじゃまします」かな」
「ほ〜!!
おじゃましまあす!」
ゆーまはわたしを見てまた笑う。わたしもつられるように笑った。
ゆーま小さな空間に足に履いていたものをぬいで置いた。
「あ、そうそう、これが靴な
これは足を守ってくれるんだ。
愛花の足がそうなってるのは靴を履いていないせいかもな」
「くつ」という言葉は、ゆーまと会ったときに聞いた言葉。しっかりと覚えている。
そういえばとわたしはあることを思い出した。
ゆーまと会ったばかりの時の口調と今の口調が違う。
最初は「〜です」とかそういう口調。
変わったのはいつからだっただろうか…
記憶をたどると、ある言葉が頭をよぎった。
「タメ」
そう、この言葉を聞いてからゆーまの口調がかわった。
タメというのをだんだんだけど、わかってきた気がした。
そしてまた他のことを思い出す。
あの時の感覚、熱くて苦しかった熱くて…
あのことを思い出しただけでまた同じ感じがする。トクトクと胸辺りが静かに暴れ、また身体のあちこちがあたたかい。
特に、ゆーまがずっと握ってくれている手が。
だんだんその手が熱くなってくる。それと同時に胸辺りからする音も大きくなる。バクバクとものすごい勢いで暴れてとても苦しい。
思わず握られている手に力を込めてしまった。
それに気付いたゆーまが振り返る。が、何故かすぐに戻してしまう。
手はもう焼けてしまうんじゃないかと思うほど熱くなっている。
顔だって同じように熱い。
「あの…ゆーま」
「ん?どした?」
「熱い」
「あっ、うっ、ごめん!」
ゆーまは慌てるようにパッと手を離す。
そのおかげで胸辺りの大きな音も熱さも少しずつ消えていく。
でも、ほんの少しだけ、残念な気持ちがあった。気がした。
チラっとゆーまの顔を覗くと、ゆーまは真っ赤で、その顔を片手で隠すようにしていた。
わたしは思わず顔ごと目をそらしてしまう。きっとこれが「無意識」。
あの時、わたしがゆーまの手を引っ張りながら走っていたのもそれだ。
気付かないうちに身体が動いてしまったり、口が開いてしまったり。無意識はとても恐ろしいものなのだ。
「えっと…足、洗わないとだから、その…歩けるか?」
「あっ、うん!平気…だよっ」
おかしい、なんで、おかしすぎる
消えたはずなのに、さっきまで熱くなかったのに、手だってつないでないはずだ。
なのに、なんでまた
「って…」
「ん?」
「あの…まだ…
プツンと何かが途切れた。
身体全体の力が抜けてバタンとその場に倒れてしまう。
その時、一瞬だけど、ゆーまが何か叫んでいるように見えた気がした。