不の感情
〈by 愛花〉
正直、びっくりしている。
まさか、ゆーまの家に誘われるとは思わなかった。
びっくりしているが、何処かで嬉しく想う自分がいた。
人がもつ「感情」は良い時と悪い時がある。
良い時は、始めて見るものを知ったとき、悪い時は、さっきみたいに、いろんな所が熱くなって苦しくなる時
そのことを思い出すと、また、胸辺りの何かがドクンドクンと暴れる。その度に、わたしの何処かが熱くなるんだ。
人って、思っていたよりも複雑で難しい。
でも、それでも今楽しいのは変わりない。
ゆーまからのお誘いも断る理由など思い当たらなかった。
「俺ん家さ、今日親がいないから家空いてるんだよ」
「おや?」
「そう、親、親はー…うーん、お父さんとお母さん…じゃわかんないよなあ…」
『お父さん』『お母さん』
その言葉はわたしが花だったときからよく聞く言葉だ
幼い子供から、今の姿のわたしくらいの年齢の人までのいろんな人がよく言っていたからなんとなくだがわかる。
「ううん、だいじょぶ!ちょっとだけど、知ってるもん!」
「そっ、そうなのか?
で、どうする?来る?」
「行きたい!!!!」
・*・☆・・*・☆・・*・☆・・*・☆・
〈by愛花〉
ゆーまの家は、花畑から少し遠いところにあるらしいが、道も途中からは一本道となり、とても覚えやすい道だなあと思った。
だからといい、すれ違ういろんな人と目が合うたび、ズキンズキンと胸が痛んだ。
足もだんだんヒリヒリと痛んできて、いろんな所が痛くなる。
人の感情は難しい
転んだ時の痛みも辛いけど、心の痛みはもっと辛い
わたしはおもわずトンとゆーまの肩に手を置いてしまった。
ゆーまはわたしよりも背が高い。腕を精一杯伸ばしてやっととどくくらいだ。
「愛花? どうした?」
「…たぃ…」
「え?」
「い…たい…」
声が上手く出ない、痛くて、怖くて、悲しくなる。
こんな感情大嫌いだ
ズキンズキンとわたしの心を苦しめる
ゆーまの服を握る手にだんだんと力がこもってしまう。
「どこ?」
「全部…」
ゆーまは困ったような顔をする。
なんだか申し訳ない気持ちになった。
(だいじょぶ、もうちょっと、もうちょっとのはず、もうちょっと…)
わたしの身体はぐったりと力が抜けてしまっている状態になってしまう。
目を横の方に落とすと、そこにはゆーまの手があった。指先はわたしの方を向いている。
「ほら」とゆーまの声がする。だったの二文字だけだけど、言っていることはわかった
「ありがと」
わたしは小さなかすれた声でお礼をいいながら、ゆーまの手をとる
とても暖かくて心地いい。
まだズキンズキンと痛むが、少しづつ痛みが消えていくのがわかった。
足の痛みは別だけど…
フラフラと歩いて、やっとのことでゆーまの足が止まる
「ここだよ」
そう言われ、顔を上げてみると、そこは花畑から見えた高い建物と似ているものだった。
「…ビル?」
「あはは(笑) ビルね、確かにそう言われれば似てるかもな」
「? 違うの?」
ゆーまは小さく笑ってくれる
「これはマンション、簡単に言うと、沢山の人が住める場所なんだ」
「マンション…かぁ…」
足の痛みに耐えられず、ガクりと体勢を崩してしまった。
「愛花?!おっ、おい、大丈夫かよ!」
「えへへ、ごめん、足がうごかなくて…」
「あっ!そういや、お前裸足だったもんな」
ゆーまはそう言いながらわたしの腕をゆーまの肩にまわし、立たせてくれる。
これならゆっくりだけど、歩けるような気がした。
エレベーターという乗り物に乗って5Fとしるされた所でエレベーターのドアがあいた
そこから少し歩き、509と刻まれたドアの前で止まる
今はゆーまの肩に腕をまわしていないが、ゆーまはわたしの手を強く握ってくれたていた。