秘密
〈by 高木 優真〉
「ぉぃ」
「……」
「おい!」
「ん?なあに?ゆ〜ま〜」
「いつまでついてくるつもりだ」
「うーん、ずっと?」
あの後、俺らはいろいろな話をした。といっても、愛花の問いに俺が答えていただけ。
時間は夜の7時になろうとしていた。
1.2時間くらいは話していたかもしれない、そう思うと恐ろしく感じる。
時間も時間だしということで「じゃあな」といって別れるつもりだったのだが、どんなに歩いても愛花は俺の後ろにいた。
「お前、帰んなくていいのかよ?」
と問うと、愛花は首を傾げる、その頭からはクエスチョンマークが浮かんでいるようだ。
あんなに話していたのだから、愛花がどんな時にどんな顔をするのか大体だが、わかる
今の顔は、よくわからない時にする顔だ。
「帰っても帰らなくてもおんなじだよ?
それに、帰らなきゃいけないわけじゃないし」
「へえ、お前の家ってどの辺なんだ?」
今度はキョトンとした不思議そうな顔だ、出会ってからずっと見ているからわからないはずがない。
この顔は、俺の言っていること、愛花が見ているものが全くわからない、または知らない時にする顔だ。
「家は…うーん、愛花にとっての居場所だな、今の状態からしたら、お前の帰る場所だ」
「へえ〜!家かあ」
「で、お前の家ってどこなんだ?
もう暗いし、送ってくよ」
そう言った途端、愛花の顔が今までで1番の笑顔で喜んでくれる。
俺もそれを見てなんだか嬉しい。
「流石に場所はわかるよな?」
「うん!!!ばっちしだよ!!!!!!」
元気に答えながら両手でピースサインをして見せる愛花、そしてまた何もないところでコケる。本当に危なっかしい。
痛い痛いと暴れる愛花に手を伸ばす。
愛花は俺の手を取り、そのまま引っ張るように走り出した。
これはもう、俺が送っているのではなく、連れて行かれるといえるだろう。
つないだ手はだんだんと熱くなってきている気がした。でも今はそんなこと気にしようとは思えない。
それよりも、ちゃんと見えないが、愛花の顔が赤くなっているように見えてしまう自分に驚いていた。
愛花の足が止まったのはこの街でとても有名な花畑がある公園だった。
愛花の家への通り道だと思ったが、愛花はそのまま公園の中へと入っていく。
そしてようやく愛花の足が止まる。
そこは、大きくて広い花畑の隅っこだった。
愛花はその場に座り込み、俺に1度だけ見せたあのやわらかい笑顔で言う
「わたしね、お花だったんだよ」
「えっ、はあ?!こんなとこまで来て、冗談はよせ……ょ…」
馬鹿にしようと思ったが、最後の方は小さくなってしまった。愛花がこのやわらかい笑顔をやめないからだ。
その笑顔に嘘があるだなんて思えない。
「ずっとね、憧れてたんだ、人間に」
愛花は笑顔ではあるが、真剣になっていることがわかる。
俺は黙って話を聞くことにした。
「歩いたり、走ったりできる足、想いを伝えることができる口、大好きな人とつなげられる手。
ここからいろんな人をが見えてね、何度も何度も思ったの
『人間になりたい』って
そしたらね、真っ白な洋服を着た、綺麗な魔法使いさんがきてくれたんだ。
わたしに奇跡をくれたんだ。」
そこまで言うと、愛花はうつむいて声もだんだんと小さくなっていった
「あのね、ゆーまと手つないでる時、またここんとこがあったかくなったの、でもだんだんあったかいんじゃなくて、熱くなってきて、手と顔と、ここんとこが焼けそうで、なんでかわかんないけど、ゆーまの顔も見れなくて…」
愛花の声はとても弱々しい声だった。
うつむいてしまっているせいで顔が見えないが、耳が真っ赤になっている。
俺もつられてか、顔が赤くなってしまっている気がした。
俺だってこんな顔みられたくない、すぐに話を代えなければと言葉を探す。
「なあ愛k「みず!!!!!」
「あっ、ぇえ⁈」
「カラカラなの!わたしお花だから枯れちゃうよ!!?」
「ぇえ…っと、水道ならあっちに…」
と言いかけて口を抑える、愛花のことだ、水道のことも知らないだろう。
仕方ないので水道まで連れて行くことにする。
水道の蛇口をひねり水を出すだけで愛花は目を輝かせながら感動したいた。
気づくともう夜の8時を過ぎていた。
前までは家に帰らなければと思っていたが、今ではずっとこの時間が続けばいいのにと思ってしまう。
(そういえば、今日親いないんだっけかな)
俺の両親は、仕事でいつも忙しく、帰りが遅い日が多い、帰らない日もある。
それなら…
「なあ、俺ん家、くる?」