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色々な設定で書いてみた短編集。

聖人様と呼ばないで!~腹ペコ騎士と異世界トリップしたオレ~

作者: 金鳳花

 オレは自他共に認めるお調子者だ。

 多少意味がわかっていなくても、わかったフリをするのは大得意だ。

 カッコつけたがりとも言う。

 それが、あんなことになるなんて……



***



 その日は、本当になんでもない日だった。

 高校行って、ダチとバカやって、バイトして、家に帰った。

 そんな普通の一日だ。



 現在、夜の八時五十分。

 唐突にアイスが食いたくなった。


 コンビニ行くか~。

 サイフを持って家から五分のコンビニへ向かう。


 “真っ赤な苺”というアイスを買った。

 名前の通り、スッゴい真っ赤なのだ。

 ダチが、「口が真っ赤になって超ウケる」って言っていて、気になっていたんだ。

 ちょっとドキドキするな。


 あとはアメ。

 新作のアメがあるかは常にチェックする。


 オレこそは、千のアメを持つ男だ!


 ……アメ舐めるの大好きなんだよ。


 ん~と、新作は“色が変わる魔法の飴”と“力が湧き出る力飴”と“鉄分たっぷり鉄飴”かぁ。

 新作のアメとオレ特選のアメを十袋買う。



 コンビニ店員の「ありがとうございましたー」の声を後ろに聞きつつ、ほくほくしたまま家路をたどる。

 あの角を曲がれば家が見える。

 アイスを早速食わねば!と思いながら、角を曲がった瞬間────森の中にいた。


 ……。

 …………?

 ………………はぁ!?


 角を曲がったら森?!

 なして?

 オレの家はどこにいった。

 バッと後ろを振り向く。

 今まで歩いていた道路があるはずだ。

 だが、後ろも森だった。


 !!?

 意味がわからん。

 どういうことだ?

 オレは一瞬にして明るい森の中にいた。


 まず明るいのがおかしい。

 今は夜だ。

 時計を確認する。

 九時十分。

 家を出たのは九時少し前。

 てことは……だ。

 いきなり朝の九時になった?

 そんなワケがない。


 あ、携帯!

 慌てて携帯を見るが、圏外だった。

 がっかりした。

 誘拐でもされたとか?

 しかし、記憶に断絶はない。

 それに自分のような普通男子を拉致っても身代金なんて望めない。

 オレの親父はごく普通のサラリーマンだからな。


 記憶を振り返ってみる。

 おかしいところはなかったか?

 だけど、本当に角を曲がったら森だったんだ。


 うーん。……あぁぁああ!!!

 気がついた。

 重大なことに気がついた。





 アイス、溶けちゃう!!






 考えてもわからないことを考えるより、重大なこと。

 アイスが溶けてしまう前に食べなければ。


 溶けかけだが、セーフだ。

 ん! ウマイ。

 あ、真っ赤になってるか見れない。

 どうしよう。


 !

 自撮りしてみるか。


カシャッ


 おぉ! 赤い。

 口の周りも舌も真っ赤だ。

 超ウケる。

 これは是非ダチにメールを……圏外だった。


 うぅーん。

 アイスも食ったし、真面目に考えるか。


 その一、拉致られた。

 その二、迷子になった。

 その三、異世界トリップした。


 ……いやぁ、だってこのあり得ない状況だぞ?

 ネット小説にあるトリップを疑っても仕方ない。うん。


 いきなり森とかだし。

 尋常な事態じゃないよなー。


 まぁ、何が原因だとしても、とりあえずは人を探してみるか。

 なるべく早く帰りたいなぁ。




 森をあてもなく彷徨(さまよ)う。

 通った場所を忘れないように、木に印をつけながら歩く。

 だんだんと森が鬱蒼としてきた。

 進むのを躊躇する。反対側に行く方が、いいのかな?


 そうして歩いていたら、一度動物?魔物?に遭遇。

 毛が逆立ったリスみたいなやつだった。

 威嚇されて、超ビビった。


 お返しに精一杯変顔して真っ赤な口でニヤリと笑ってやった。

 喰われると思ったのか逃げていった。

 ふぅ。危なかったぜ。



 人を見つけた。

 地面に男が倒れている。

 ……まさか、死んでないよな?

 そーっと近づいて呼吸を確認する。

 良かった。息してる。


 どうしようかと思っていたら、ガシッと腕をつかまれた。

 ヒィィィ!

 慌てて振りほどこうとするが、固定されたかのように動かない。

 絶体絶命のピンチか!?と思ったが……


「腹が……減った」

「は?」


 ポツリと男が言った。




 ガリッガリッ


 どうやら男は腹が減って行き倒れていたみたいだ。

 オレも食べ物なんて、アメくらいしかなかったんで、数個あげてみた。

 口の中にアメを放り込んだ瞬間、カッと目を見開き、アメを咀嚼しだした。

 怖いよ。

 それと、アメは舐めろ。



***



「先ほどは大変助かった。ありがとう」


 人心地ついた男は、胸に手をあてて、お礼を言ってきた。

 姿勢もいいし、何だかサマになっている。

 さっきはあんまりちゃんと見ていなかったが、男はイケメンだった。


 銀灰色の髪にアイスブルーの瞳。

 精悍な男前だ。

 年の頃は二十代前半くらいか?

 眼光鋭く、狼を彷彿とさせる雰囲気だな。


「それで、何であんなところで倒れてたんスか」

「突如道が消失し、同じところをぐるぐると回るかのように似たような風景が続き、三日経つ頃には食料も尽き……」

「迷子じゃねぇか」


 イケメンの方向音痴か。

 誰得だ。



***



 話まで同じところを何度もループした。

 わかった。わかったから。


「オレは(のぼる)。名前を教えてもらってもいいスか?」

「これはすまない。私の名はグライス。貴方には一飯の恩義がある。……是非、恩返しをさせてほしい」


 武士か!

 いや、だがこれはチャンスでもあるんじゃないか?

 こんなワケのわからない状況だ。

 味方は多い方がいい。

 でも、お互いに会ったばかりだしなぁ。

 取り敢えず断るか。


「いえ、それには及ばないス。当たり前の事をしただけなんで」


 お、これはカッコイイんじゃない?

 当たり前なんで。フッ。てヤツだろ?

 自画自賛。


「しかし、この魔物も出る森を渡るにしては軽装だが、大丈夫なのか? 剣も持っていないではないか」


 さて、一緒に行くか。

 何、やっぱり魔物とか出るの? 聞いてないよ?


「グライスさん、次の目的地までよろしくお願いしマス」

「グライスでいい。口調も先ほどのように楽にしていいぞ?」


 ……いや、でもそこはホラ、一応ね。


「えーと、それでグライスさんは──」

「グライスでいい」

「……グライスはどこに向かっていたんだ?」

「修行の旅なので、目的地はない。あえて言うなら、仕える主君を探している」


 ますます武士か!

 いや、騎士か?

 仕える主君って……マンガか小説かよ。リアルで初めて聞いたよ。



***



「うわあああ!!」


 悲鳴が聞こえた。

 ヒィ! 何事(なにごと)!?

 断続的に悲鳴が聞こえる。


「あっちか……。ノボル、どうする?」

「ど、どうするとは?」

「悲鳴が上がった方へ行くか、迂回するか」

「え!? 迂回? なんで」

「あちらには、悲鳴を上げるような何かがある。危険かもしれないぞ」


 まぁ、少し考えればわかるよな。

 君子危うきに近寄らず。


 いや、でも確認しないとそれはそれで怖いな。

 ずっと怯えないといけないのは嫌だ。

 それに……今行けば助かるかもしれないと考えると、無視するのは後味(あとあじ)が悪い。

 絶対あとからグルグルする。


 だったら多少危険でも、確認するだけでもいい。

 助けられそうなら助ける。

 よし! それで行くか!


「行くぞ」

「……ほう?」

「気になる。確認するぞ」

「わかった」


 オレとグライスは悲鳴の上がった方向へ駆け出した。



***



 悲鳴の上がった場所では、一人の青年と魔物が対峙していた。

 青年は左腕から血を流している。

 どうやら目の前にいる魔物にやられたようだ。


「大丈夫か!?」


 声を上げ魔物の注意を引く。


 わかってる。

 オレはバカだな。

 こんな魔物にオレは勝てない。

 なのに、怪我した青年をみたら、うっかり声を上げていた。


 もう、なるようにしかならないな。

 こちらへ向かって走ってくる魔物をじっと見る。

 足には根が張り、恐怖でチビりそうだ。

 オレのことなんて、一撃で削りそうな爪を見る。


 その爪が、オレに届きそうになった瞬間、一陣の風が吹いた!!



ザシュッ!!!



 目の前に、グライスの背中がある。

 え、いつの間に?

 魔物は!?

 慌てて目線で探してみると、魔物は真っ二つになっていた。


 うわ、強っ!

 そしてグロッ!!

 オレが吐き気と戦っていると、青年が声をかけてきた。


「あの……アンタたちは」


 青年はフツメンだった。

 よし。仲良くなれそうだな……じゃない!


「怪我は!」

「え? ああ、このくらい別に……」

「何言ってんだ! こんなに血を流して!!」


 止血! 血がいっぱい出てる。

 あ、包帯とかないよ。どど、どうする?

 オレは半泣きで上着を脱いで、下に着ていた長袖の袖部分を力一杯引きちぎった!


「うぇええ!?」

「ちょっと、うるさい。黙ってて」


 さらに細長く引きちぎる。

 即席の包帯の出来上がりだ。

 だが、ここで問題発覚。

 包帯を上手く巻けなかった。

 いや……見よう見まねで巻いてみたけどさ、何か違う。


 ユルい。

 これがゆとり教育の弊害か。……んなわけない。

 頭の中でメチャクチャパニクっていたら、スッと即席包帯をとられた。


「私がやろう」


 マジすみません。

 グライスさん、器用ッスね!

 オレのぐだぐだなのとは違って、キュッと綺麗に巻かれてた。

 うーん、スゴいな。見てたのに同じように出来る気がしない。


「ありがとう。グライス」

「いいや。構わない」

「あの……どうもッス」


 青年がもごもごっとお礼を言った。

 オレは血を流した青年のために、鉄飴をあげた。

 ……いやほら何もないよりかいいかなと。


「これ……は?」

「まぁいいから舐めてみなよ。噛むなよ~」

「はぁ……。……!!?」


 何かスゴいびっくりしてるな。

 あ、味がアレだから?

 そこは我慢してくれ。


「こ、コレなんスか」

「鉄飴なんだけど、味嫌いだった?」

「いやいやいや、そういうワケじゃないッスが」


 青年は何やらスゴく狼狽えている。

 そのせいか、顔色もちょっと赤みが差してきた。

 味が嫌いじゃなければいいか。


「ノボル……その“アメ”ってなんだ?」

「? あぁ、鉄飴舐めたことない?」

「違う。私も貰ったが、“アメ”というものを初めて見た。しかも“効き目”が凄い」

「はぁ? 効き目ってなんだ?」

「限界まで空腹状態だった私が、たった数個その“アメ”を舐めただけで回復した」


 な、なんだと!?

 なんかヤバい雰囲気?

 グライスはその狼のような瞳でこちらを射抜く。


「ノボル。ソレは何なんだ?」


 どうやらアメさんに、不思議な能力が付いたようだ。

 しかし、実際問題オレにもどういうことかわからん。

 なんて言うかなぁ……。



「これは、魔法のアメだ。

 オレが対価を出して手に入れたモノ。

 舐めることによって力を得ることが出来る」



 舐めると元気が出るよね!


 ど、どう?

 ウソじゃないよ?

 でも言いワケ的にはキツイ?

 心臓がドキドキする。一秒が長い。

 でも絶対に目は反らさない。


「そうだったのか。……そのように稀少な物なのに躊躇(ためら)いもなく分けるとは」


 後半が聞き取り難かったが、二人から突っ込みは入らない。

 何とか誤魔化せた……か?



***



 とりあえず、青年の事情を聞こう。


「えーと、オレは昇、こっちはグライス。それで何でこんなところにいたんだ?」

「俺はアズ。“深淵の森”開拓村の一人ッス。食料が足りなくて森に入ったんスけど、逆に魔物に喰われるところだったッス」


 ハハハと笑って言うアズだが、オレは笑えない。

 “深淵の森”って何。

 名称が超恐いんですけど。


「準備はしてなかったのか?」

「勿論してたッス。でも物資も無限じゃないスし」

「そうなのか」


 いや、そうだよな。

 つい日本の感覚になっていた。

 足りないものはすぐに買えばいい。

 足りていても新しいものが出たら買ってみたり。

 必要のないものだって、いっぱい買った。


 ……ここでは、違うんだな。

 何だか、自分が恥ずかしかった。



「よかったら、村に来てくれないスか? お礼もしたいッス」

「……いいのか?」

「こちらが招待したいんス。是非来てほしいッス」

 

 

 

 

 このあと……


 開拓村に案内してもらって村を見て回った。

 流石開拓村だな。

 体力自慢っぽい少年~壮年くらいの村人ばっかりが、二十人程いた。


 しかし栄養状態が悪いのか、どことなく元気がない。

 なんだか気になり、しばらく滞在することにした。

 頬がコケた少年がいた。

 試しにアメを渡してみた。少年は元気になった。


 そうなると気になるのは他の村人。

 オレは全員にアメを配った。

 そうすると、翌日にはみんな元気になった。

 とても感謝された。


 グライスは魔物や動物を狩ってきた。

 開拓村の食料事情がだんだん良くなってきた。

 一週間も経つ頃には、村人は元気になり、目の輝きが変わってきた。




 最近オレには悩みがある。

 それは──


「聖人様、これ畑で取れた野菜です。どうかお納め下さい」

「聖人様、これ魔物の肉の一番美味しいところです」

「聖人様、お話聞かせて下さい」


 ……どうしてこうなった?



 ちょっとアメあげたり、

 グライスが狩ってきた獲物を分けたり、

 保存食を作るの手伝ったり、

 畑を手伝ったり、

 オレの武勇伝を語ったりしただけだ。


「聖人様」

「聖人様」


 やめろ。やめてくれ!

 むず痒い! 恥ずかしい~!!


 何だよ、聖人様って。

 オレはただの俗物だよ!

 聖人様なんて呼ばないでくれ。



 早く、早くもとの世界へ帰らねば!!

 やめて! オレのライフはもうゼロだーーー!!!


ここまで読んで頂きありがとうございました。

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