[2]
スカイブルー・エチュード、第2巻で、ございます。
眠いです。いまチラッと見たら23時終盤…仕方ないのでベッドの中からお送りします。
ガラケーだとカチカチカチカチ五月蝿いんですが、今のところ他の人には見つかってなさそう…ですね(周囲を確認しつつ)
では、とりあえず読んで下さい。ちょっと長くてすみません。
仕 様 で す 。
『弐』
「…兄貴!兄貴!しっかりしてくれ!返事してくれよ!」
少年が焼け野原の村で体を揺さぶる。涙も気化するような場所で、兄が息を吹き返すことを必死で祈る。
「頼む…なんでだよ…兄貴…」
背後から破裂音がした。
背中に衝撃を受け、身体が宙に浮き上がる。放物線を描くように地面に叩き付けられる。
「助けて…助け…て…」
少年はただ、息絶える彼を見ていた。
「…!」
目を覚ました。
またあの悪夢だ。
燃える故郷を夢で思い出す。
「あぁ…クソッ」
連日、この夢で目が覚める。
毎晩違う夢を見ていたのが、最近は昔を思い返すような悪夢だけしか見なくなった。
エレインはあの光景はもう忘れようと努めていたが、あの夜だけは忘れられなかった。
弟たちを見殺しにしたあの夜。
凄まじい罪悪感と後悔、敵国への敵対心だけを糧にして訓練を積んだ。
そして今、ここにいる。
「悪夢続きのようだな」
「…補佐官…なぜ…」
「顔に書いてあるぞ、一本線で」
エルモンドは彼が袖で頬を擦るのを見つつ、紙袋に入ったパンを机に置いた。
「無理もない…あの惨状は私もよく知っている。君の感情の暗さは計り知ることはできないだろうが…」
「俺は…なんで…」
「まだ実戦は計画されていない。今は力を蓄えるのが先決だ」
彼は肩を軽く叩き、振り返らずに部屋を後にした。
「絶対…絶対に…」
低く掠れた声が小さく響く。
「根絶ヤシニシテヤル…」
養成施設の教練はエレインにとっては退屈そのもので、教官に任命されたコーフェスも「彼の教育を辞退したい」と申し出たほどだ。
エレイン自身にどれだけの才能があるのかは未知数だが、少なくともストリアから物凄い訓練を受けていたことは容易に想像できる実力だった。
エレインは交友関係を断つ方向に向かっていた。自分は自分の目的のために魔術師になった。その実現に他人の協力は不要と判断したからだ。元々人と話すのは苦手な部類に入っていたので、その点から見ても好都合だった。
しかし、孤高生活は突然終わりを告げた。
夕暮れ時。午後5時半くらい。
何をしたい訳ではない。教練も終了し、魔術師院の屋上で太陽を見ていた。
「エレイン君…だよね?」
背後をとられるとはまさか思っていなかった。驚きのあまり背筋が伸びる。
背後には、くすくすと笑いながら立つ少女の姿。
「今びっくりしたでしょ?」
「そりゃするだろ…」
「ごーめんごめん」
笑いながらベンチの前に来る。
「隣、いいかな」
彼女はシオン・アヴィゲイル。エレインより2つ年上の16才。魔術師院に合格するまでに2回落ちたという努力家で、明るい性格から男子人気もそこそこ高い。
彼女は魔術師の家系ではなく、普通の街育ちという身分で魔術師院に入ることは周囲からも不可能と言い続けられていたらしい。それを乗り越えて入ったことが彼女のプラス思考に繋がっているのだろう。
「エレイン君ってさ、なんでそんなに何でもできるの?」
「[何でもできる]んじゃない、[何でもやる]だけ。上手くいくのは偶然」
「何でもやるっていうのも十分すごいと思うけどなー」
「とりあえず手を出してるだけなんだが…」
「…お婆ちゃんがあのストリアさんなんだって?」
「まぁ…そうだな」
「魔術については天才に教えてもらえるんだもんなぁ…ちょっと羨ましい」
シオンが姿勢を正し、エレインの方に向き直る。
「そこでね」
手を合わせて少し上目遣いになっている。
「私にも"講義"、やってくれないかな?勿論エレイン君がね?」
「おっ、俺か!?」
「そりゃそうでしょ?一番身近な秀才だし。その天才直伝の講義、私にもやってくれない?」
「…ま、まぁ、いいけど…」
一気に表情が明るくなったのがわかった。ここまで表情の変化がわかり易い人は久々だ。
「じゃあじゃあ、いつにする?私はいつでも大丈夫だよー」
「…この後、暇か」
「ちょ、こ、この後!?突然!?」
「いつでもいいんだろ?」
少しニヤッとして言ってみる。
「はい!宜しくお願いします!」
結局、その後は訓練施設が閉館する時間まで「個別講義」をやっていた。さすがの学習能力。覚えるのが常人の数倍早かった。
実地戦闘訓練に入ったのは半年も経たない頃のことだ。ここでは訓練とはいえ普通の武装で通常の魔術師が派遣されている戦地に送り込まれる。
エレインは第17奇襲部隊に配属された。奇襲のターゲットとなったのはフォレジア共和国北部山岳地域。ここには製鉄所や兵器工場などが密集しており、襲うべき場所と見られている。
「あの場所は知っての通り、ミューティアを襲撃した部隊が拠点としていた場所だ。たくさんの憎悪や敵意が向いている場所であろう。彼らの無念を晴らすためにも、君たちの活躍に期待する」
部隊長は「雷神」の異名で知られるブライアン・ストールフォート。その閃光のような早さで繰り出される連撃は敵に反撃の機会を与えず、師院内でも作戦遂行スピードは最速と言われる。
エレインも含め合計14人の仲間たちと共にあの国境を越えるのだ。
同時刻、フォレジア共和国。
北部、トリヴェクシア市。
「ラスコー、本当にやるのか?」
「はい…僕はもうこの国には居られませんから…」
「まさか亡命するなんて…お前は敵国に行くんだぞ?それが何を意味するかはわかるだろ」
「わかってますよ…それくらいは…でもやらないと…」
「…そうか。それがお前の[理論]なんだな?この学会員として最後の」
「これでお別れです…この理論は文書化されませんが、記憶の奥底にでも是非」
「よし。わかった」
「…お元気で」
「お前こそな」
地下鉄が出発した。
風が会長の顔を撫でる。
鉄道は北部山岳地域、アリシアックグラートに向かっている。
午後6時。
「奴らの重要拠点はこの近辺だけで2箇所ある。出撃前に割り振った通り、Aは私に続け。Bは西側外周を迂回して兵器庫へ」
静かに頷き、B班が歩き出す。
エレイン含むA班の面々は彼らの姿が見えなくなるのを確認して逆方向へ歩き出す。
夕暮れの街の外周を歩いていく彼らの姿は、敵兵の目に映ることはない。この夕闇の中を歩く黒い集団は、ステルスを使うまでもなく視認はほぼ不可能と判断された。
敵の奇襲が発覚したのは数分前のことだ。兵士たちが休息に入っていた時間帯というのもあり、もう発電所がやられたという話が舞い込んだ。
「早くしろ!外道どもを一掃するぞ!」
「了解!」
「了解しました!」
ライフルを持ち、魔術師どもを討伐するべく施設を出た。
散開探索して見付け次第射殺しろ、との命令だった。
去年からLC-28という歩兵銃が採用されている。新暦2028年に採用された銃だが、これまた品質も性能も素晴らしく制式使用も頷けるものである。
これを作ったのが少年であるというのだから驚かされる。ラスコー・クレヴィシックという兵器学者の少年が設計したというが、真偽は未だはっきりしないままだ。
手によく馴染むLCの照準器を覗き込み、対夜襲用装備に身を包んで街中を北へ向かう。
[N16へ中央伝達]
「了解」
[君たちの近辺でN11との通信が途絶した。厳重に警戒せよ]
「了解しました…」
N11が殺られた?
ありえない。彼らは最重装部隊だったはず。これまでも数多くの魔術師と激戦を繰り広げ、勝利を勝ち取ってきた男たちだったというのに。
背後に気配を感じ、空間異常スコープを装備する。
何も見えない。ステルスはいないらしいが、確かに周辺に何かがいる。人間、しかも魔術師であることは間違いないだろう。
シールドを構えてはいるものの、こいつがどこまで耐えられるかはよく分からなかった。背後だけを覆う形で背負うため、前面があまりに無防備な点も不安感を煽る。
周囲の仲間がいないと気づく。
ふと、首に何かが触れた気がした。
次の瞬間には視界が暗転し、地に仰向けに倒れていた。
どこから?どうやって?
その問いに答えがもたらされることは、永遠になかった。
エレインは兵士を討ち取ると冷徹な目で死体を見つめた。
「ライトステルス(光学ステルス)でそこまで近寄って殺せるとはな…」
「ステルス時間が大体13秒。まさか姿を消さずにフットステルス(足音ステルス)だけで寄るなんて思い付きもしなかったよ」
部隊の面々がエレインを称賛する。
「足音だけを消して気配をかすかに感じ取らせれば、こいつのように不安感に駆られている奴は姿を見落とすことがあります。恐怖感を利用する方法はかなりの高等テクニックですね…それもお祖母さんから?」
「…はい…」
「天才の孫」として成り上がったエレインを攻撃する同僚が出ると予想されたが、少なくともこの部隊にはいないようだった。
能力者の末裔は大概その能力の道に進むと顰蹙を買うものだが、それがこの部隊では起こっていない。
西側から進む分隊から、兵器庫を制圧したという信号である火球が空に放たれた。
「火球確認、合流するぞ」
兵器庫まで到着すると、街側が騒がしくなった。本軍が来たらしい。
エレインは兵器庫内部を見ている間の外側の見張りを任された。鉄壁の門番とするつもりだろうか。
「エレイン、聞こえるか?」
「何がです?」
「さっきからこのの近くでうめき声みたいな声が…そこだ」
別の兵器庫を指差す。
「俺が行きます」
「気を付けろよ」
兵器庫に近づくにつれて、確かにうめき声が聞こえるようになった。足音を消し、慎重に近づく。いつでも距離をとれるように警戒する。
「そこに誰かいるのかよ」
「ひっ…」
「両手を上げ、武器を置いて出てこい」
「はっ…はい…」
出てきたのは少年だった。銃は足元にあり、やはりフォレジアの人間だった。
「民間人…?」
「ちっ、違いますよ!もももう少しでっ国境を越えれたのにっ」
「待て、国境を越えると言ったか?」
「そうだよ!僕は亡命するんだ」
「フォレジアからユクシオンへ?」
「そうだよ!もうこんな国御免だ!」
「別の部署を通さなくてはならなそうだな…」
「…はい、お願いします」
遠隔通信が切れる。
「何だって?」
「すぐに保護班が来ると。それまで俺が護衛しておけとさ」
少年は安堵のため息をつき、その場に座り込んだ。
彼は、ラスコー・クレヴィシックと名乗った。エレインと同い年で兵器学者として活動しているらしい。LC-28という小銃を設計、それが軍の制式装備になった件で研究室内でいざこざがあり、結局第三者が武力介入したために国外脱出を図ったという。
「大変だったんだな…」
「いやほんとに…冗談じゃないよ…ただの嫉妬がこんなことにまで発展するなんてさ、ちゃんちゃら可笑しいよ」
ラスコーは頭を抱えつつ真下の銃を見下す。
「なんでこんなもん思い付いちゃったんだろ…」
「…仕方ないことだろ?お前だって学者だから、それが仕事なんだから。お前が悪いんじゃない、周囲の汚れた心が悪いんだ」
「汚れた心…嫉妬の事だろ」
「それもある」
「嫉妬させた僕にも非がある」
予想外の返答だった。
まさかそういった言葉が返ってくるとは…
「嫉妬は人間の本質だ。他人を羨んではそれを追い越そうとして、争って、そうしてここまで文明を栄えさせた」
「…そう…だな」
「嫉妬される人間こそ、周囲を巻き込んで世界を変えられる人間なんだ。決してそれは非じゃない。ある意味重大な功績だ」
「重大な…功績…」
それから、エレインはただラスコーを元気付け続けた。ラスコーも自ら色々なことを話してくれるようになった。
彼は元々、ベルネスという王国の貴族の家系だったらしい。
彼の父はベルネス王国が現在のユクシオン公国となる区域を割譲した際に、損失分の税金を補う目的で行われた新規課税に抗議した貴族団の一人だったという。そして最終抗議として貴族の身分を捨ててフォレジア共和国に兵器学者として移民。
後にラスコーにも兵器学の知識が詰め込まれ、現在に至る。
迎えは早かった。
手続きも手早く済まされ、護送者の管理下に身柄を移された。
「エレイン」
去り際、彼は振り向いて声を上げた。
「また会えるよな」
「勿論だ」
作戦終了後の街の中で、ただ彼の歩き去る様を見ていた。
嫉妬される者は、世界を変える者。
彼は例外とは思えない。
まだまだ続く蒼練!(突然の公式略称)
まだ2つ目ですよー
疲れてないですかー
大丈夫ですかー
まだあとエベレスト登頂くらい道ありますよー
頑張ってくださーい
それでは、また。