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こんにちは、
こんばんわ、
ズドラーストヴィーチェ。
如月 星月です。
今回は、魔術に関する物語を書いてみました。
実はこの小説、とある人の協力によって原案が作られたんです。僕が描いたキャラのイラストを送って「設定を付けよー」って言ったらマジな談義に発展www
その結果なかなかいい設定ができまして。
「よし。書こう」と。
ちなみにこの小説はその友人と僕で作った設定や題名から
「PROJECT BLUE」
という名で進めて参りました。
この場を借りて、設定作成に協力してくれたX氏、
心より感謝申し上げます。
それでは、いつも通り体勢を崩して。寝っ転がって。
楽な姿勢で。
「零」
丸太の家に朝日が差し込む。
毛布の中の少年が起き上がる。
外を猫が通る。
少年は荷物を持ち上げる。
家族は彼を見送る。
カラスが暗闇を掠める。
時計が午後2時を指す。
毛布が干される。
雲が流れる。
何かが走る。
音が響く。
火を吹く。
「陛下!!」
ユクシオン公国支配者、ユクシオン3世の元に伝令が走り込む。深刻な話を持ってきた。
「極南地方防衛隊の者です」
「よろしい。申せ」
「極南国境線魔力壁が突破され、ミューティアが占領されたとの報告です」
「…敵は特定できるか」
「ここに来る道の戦場に、このようなものが…」
伝令は背中の木箱を降ろし、中から汚れた旗を取り出して広げた。円の中でピッケルとライフル銃が交差した模様の旗。
「遂に来たか…フォレジア!!」
国旗を見るなりユクシオン公は憤慨した。やり場のない怒りで国旗を殴り付けた。
怒りに満ちた目で家臣を睨む。
「奴らがその気ならばこちらも応えるまで…わかっているな?」
「承知致しました」
家臣たちがそそくさと部屋を出ていくのを、机に両手を置きつつ下を向いて見送った。
「そうか…そうか…ならば…」
手を握りしめた。
新暦2041年3月19日、
午後4時のことであった。
[スカイブルー・エチュード]
「弌」
新暦2045年、4月5日。
戦争勃発から4年。
王立魔術師院。
「今年は随分と数が多い…」
「まぁー、いいんじゃないですかぁー?」
ニコニコして主任補佐官に答えるのは魔術師院主任のフィガロ・ティレナード、25才。
主任職2年目。
「この中に才のある者はどれだけいるものか…年々ただ[魔術師]の称号を欲して入る者が多くなってきていますから…」
「一応魔法は使えるんですからぁー、いいんじゃないですかぁー?」
「主任…そういうことではなくてですね…というよりいい加減[魔法]という呼び名はどうにかなりませぬか…」
「あらぁ、[魔術]って言うより[魔法]って言ったほうがかわいいと思いませんかぁー?」
「かわいい…ってあなた…」
「まあまあー、エルモンド君、あんまり堅いと女の子にモテないよぉー♪」
「そう…はい…はい…わかりましたから…」
「今日は初めてみんなの前に出るのだからぁ、リラックスリラックスぅー」
「…はい…はい…」
半分スキップのような歩調で輝くような笑顔を振り撒きつつ歩き去る主任の背中を見ているといつも「あの人は実は年下なんじゃないか」などと考えてしまうが、あれでも同い年な上にこの王立魔術師院の主任である。
全く溜め息が止まらない。
「…もうついて行けなくなる日も近そうだ…」
この台詞は今年に入って何回目だろうか。
今年魔術師院に入るのは1570人の魔術師候補者。
去年より211人減。やはり先日の大敗での犠牲者数発表が響いたか。
エルモンドには大体目星がついていたが、恐らくこの中で明確に魔術師になってフォレジアと戦う意思のある者は一握りほどだろう。あとの者は大半が「美少女と有名な主任を一目見たい」だとか「魔術師とかカッコいい」だとかそういった理由だろう。
主任の挨拶も今年は何も起きずに無事に終わり、他の式典も差し支えなく終わった。
エルモンドとしてはこれは「奇跡」に違わないものだった。
神よ、よくぞ主任の暴挙を抑えられたものだ。
本心を言えば去年も抑えて頂きたかった。
エルモンドはその後面会に向かった。主任への面会は多い(とはいえ大半が若い男性)が、エルモンドと面会したい、という者は珍しかった。
約束通りの場所に行くと、そこにいたのはメガネをかけた女性。上半身をマントに包み、そのマントには上下が逆転した十字架。魔術師院引退者の印だ。
「お会いするのは3度目ですか…ストリア=クラッドさん」
「うむ、そうだな」
「今年で74才とは…とてもそうは見えませんがね。お若い」
「失礼な…一応これが老眼鏡だってのもちょっとは気にして…」
「ストリアちゃぁぁぁん☆」
戦慄の瞬間。
ストリアに飛び付く影。
「…主任、彼女の年齢も考えてください…」
「見た目だけなら私より若いしぃー、ねぇー」
「[だけ]とか言うな[だけ]とかァ!!」
何回このやり取りを見てきただろうか。ストリア自身もよく持ちこたえるものだ。
「…えー、ストリアさん、本題に戻りましょうか」
「あ…あぁ、そうだな…離れろフィガロ」
とりあえず主任を乱雑に振り払い、話を続ける。
「今年入った奴の中にな、ワタシの孫がいるから宜しく頼むという話だ」
「お孫さん…ですか」
「一応ワタシが魔術についてはある程度叩き込んでおいた。C判定出たら叩きのめしてやってくれ」
「わ…わかりました…とりあえず、名前だけいいですか」
「おう。エレインという男だ」
翌朝、エルモンドは試験の場に出た。その「エレイン」という少年に会っておきたかった。
教官はコーフェス・マクブライト。実績も経験も豊富ないい教官だ。
人間が魔術を使用するためには「想陣」というものが必要になる。魔術自体が元々「人の想う物をこの世に映し出す」術であるため、小説や御伽話のように手のひらから魔力を出すということは通例できない。その魔術を使用可能な「エリア」を構築しなくてはならない。
そのエリアで身体を覆い、常に魔術が使用できるように必要なのが「想陣」である。
懐かしい単語が出てきた。
「お前たちに実演してもらうのは想陣の展開。最も難易度の低い[サンレッド・ワルツ]を展開してみろ」
ここまでは簡単なことだ。想陣もそこまで入り組んだものにはならない。
まあ入った直後の彼らにとっては難題になるわけだが。
案の定苦戦する候補生が多い印象を受けた。
「うむ…よし。次!」
エルモンドの目にはその少年は何かが違うように見えた。
目は奥底まで暗闇。
髪もその色を映したような黒。
他の者が華美な姿をしているのにも関わらず、彼だけは真っ白な無地の服を着ている。
「称号取り」とは明らかに違う。
「…第917番院属魔術師候補生、エレイン=クラッドです」
「よし、エレイン。始めろ」
その姿からは、余裕が滲み出ていた。まるで暇潰しをするかのように展開に成功した。
赤い円が瞳の奥に映る。
完璧かつ迅速な展開だった。
「…これでいいですか」
一帯から音が排除され、静寂が歓迎される。教官も黙って頷くことしかできなくなっていた。エルモンドの拍手がその静けさを追放する。
「見事だ、実に見事だ」
そのつまらなそうな目が主任補佐官に向けられる。
「ありがとうございます」
感情のこもらない感謝が彼にぶつけられる。怯むことはない。大体予想のつくことだ。
「君がエレイン…か。なるほど、さすがはクラッド家の血筋だ」
「こいつをご存知なんですか」
「ああ、先程彼の祖母に会ってきたところだ。ほら、昔いたストリアのお孫さんだ」
場が騒然とし、ひそひそ話もいくらか聞こえてくる。
天才の孫はやはり素質がある。
経験則からそうわかっていた。彼も例に漏れずそうなのだろう。将来が楽しみになる。
試験では半分以上が落ちた。
勝ち残ったのはわずか328人。魔術師が想陣を展開できない、というのはもはや問題外だから仕方のないことだ。
「どうだったのぉ?エレイン君」
主任が珍しく落ち着いている。
「彼はいい目をしていました」
未来が楽しみな少年だった。彼のことを少しずつ思い返しながら話を続ける。
「想陣展開の迅速さ、正確さ、強度、全て問題ありませんでした…これはストリアさん以来の逸材かも知れません」
「ふぅーん…そっかぁ」
「何か隠していそうな口振りですね…最初から少しわかっていたのでは?」
主任は笑った。
「あはは、どーだろうねぇー」
大きな月を背に立つ主任は、絵画の様に美しかった。
「ちょっとだけ、かな」
目を細め、口を押さえて微笑む姿は、
幼い頃から全く変わらない。