7月12日土曜日
美術部の休日部活は土曜日の午後からなので、今日はゆっくり布団で安らかに眠ることにした。
そう決めて数秒後、電話のベルが古臭くジリリリリーンジリリリーンと鳴り響く。
休日の家は俺だけの城。誰もいないので、もちろん電話に出る人もいない。無視することにする。
さあ、もう一度寝よう..................。
そう決めて数分後、今度は玄関のインターホンのチャイムがピーンポーンピンポーンと鳴る。
どうせスーツを着たセールスマンか、数人でぞろぞろくる宗教団体ということは、分かっている。
俺以外誰もいないので、結局誰も玄関には出て行かない。
それでもなり続けるチャイム。
それでも出て行かない俺。
なぜなら今はパジャマだ。俺はオシャレな奴らとかと違ってルームウエアなんぞ着ていない、誰かもよくわからない人のために早着替えとかもめんどくさい。ということで居留守を使用。
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン......。
人は何回ピンポンしたら、諦めるのだろうか?
よっぽど営業能力のないセールスマンなのか?それともしつこいレベルMAXの宗教だろうか?
どちらにしろ、寝よう。
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン........
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン........
ピンポ.ピンポー.ポンピー......ピ.ピピッピッピッピッピピ――――――――――――――――――
今インターホンのチャイムがお亡くなりになる音がしたようだ。俺は知らねえぞ。
ゴンっガンガン!ガンガンガン!!
チャイムを殺した奴は今度はドアを破壊するつもりのようだ。
さすがに無視はできなくなってくる。とりあえず、ジャージに着替え
インターホンの画面越しに
「はい、九条です。」
ガンッガッガンガンガンん
気づいてないのかまあ、近所迷惑以上にドデカい騒音が響く
今でる一番の声で
「はいっ!!!九条ですっ!!!」
「あーえっと、どうも隣に越してきました。木下と申します!あの、お蕎麦どこに置いておけばいいでしょうか?」
「ちょっと待ってください」
どうやら困った人が越してきたらしい。でも、蕎麦を持ってきてくれるだけマシか
ガチャっ
「えっ.............!!」
「えっとあのう何か?」
目の前に見たことある、銀色の髪がふわっとなびいた。
「メ…イル?」
「え?なんで知っているの?まあいっかな。私っお隣に引っ越してきました!!
木下メイですっ!
昨日まで海外に居たのであんまり日本わかんないので教えてくださいね!あっでも日本語は分かるからダイジョウブでぇす。」
銀色に染まる長い髪、桃色に染まる瞳、小さな体。誰が間違えるもんか
「メイルっメイル!!」
そう、この前別れたばかりのメイルに、そっくりなキノシタメイに思わず抱き着いた。
きっちり3秒後殴り飛ばされた。
「メイルってなんなんですかメイですぅ!抱きつくなんて私のこと子供だと思ってるでしょぉ?これでも中2なんだからね!」
なんだと、そっくりさん?ここで?しかも同い年なのか?えっ!?
「あーそうだお蕎麦です。どーぞ。」
「あ、ども。」
「あ、私ぃお兄ちゃんと暮らしてるんだから、襲っちゃダメだぞ?私のことが大好きなシスコン野郎が殺しに来るからね☆」
テンションの移り変わりが早い子だとみた。苦手だ。
「ねえ、あんたも中2でしょ?九条すずすけクン☆」
「俺はりょうすけだ。なんで名前がわかるんだ?」
「だって学校指定ジャージにくっきり書いてありますよぉだ。九条すずすけクン。」
「だから、りょうすけだっていってるだろ。」
「まあ、それは置いといて、中2なら私を月曜日学校まで連れて行ってくれるよね!」
いきなり命令口調の女の子にびっくりしつつ、なんかこれがリア中なのかと勘違いしながら
「なんで?」
「だってお兄ちゃんが言ってたもん!この家の同い年の男の子はとってもいい人だよ、なんてったって僕がプレゼントした制服を受け取ってくれたんだよ♪って」
ボクガプレゼントシタセイフク.....................。
「お前名字は?」
「木下だよぉ」
ミョウジガキノシタ.................................。
「お兄ちゃんはなんていう名前かな?」
「裕也!!」
ユウヤ...........................................。
「なんか、お兄ちゃん目立つことやってる?」
「うんっ!生徒会長っていうのやってるよ!」
セイトカイチョウ................................。
土曜6時頃の少年のように俺はこう叫んだ。
「お前の兄貴は木下裕也!俺の中学の生徒会長!!真実はいつも1つ!!」
「うんっそうだけど、どうかしたの?」
隣の家に生徒会長が引っ越してきました。これってありですか?
なんとなくなショックに襲われていると、聞いたことのある声が近づいてきた。
「メイいぃいいぃぃぃいいいぃぃぃいいぃぃぃいい!!!」
「あ、おにーちゃん」
「メイぃ会いたかったよう。」
目の前に現れた見慣れた会長とは違う会長は、とても気持ち悪かった。
この空気から逃げるために、俺は自転車にまたがり学校に向かうことにした。
部活だ!部活だ!!部活に行くんだ!荷物は一つもないが、大丈夫!どうせ今日は俺が女装させられるだけだから~
ペダルに力を入れた...................。進まない。もう一回力を入れる......進まない。
後ろを振り返る。ニコニコ顔の会長が自転車の荷台をつかんでいる。
「放せよ。」目で訴える。
「それが僕に対することなのかな♪」目で返される。
一瞬の静寂の後、俺はダッシュで学校に向かった。