他の男なんて見れません
「ってかさぁ晶はさ、美形が好きじゃん?」
わたしにびしっとスプーンを突きつけて、何を思ったのか二人で夕飯を食べているときに侑が突然そんなことを言いだした。
「好きだよ」
言いつつ、カレーを一口分すくってスプーンの上に乗せる。ちなみに今日の夕食はカレーに、レタスをちぎってトマトと一緒にしただけのサラダだ。
「晶の周りにはさ……このカレー甘すぎじゃね?オレ辛いほうが好みなんだけど」
「今更けちつけるか」
侑もう半分以上食べてるじゃん。
「甘口のルーしかなかったの。で、何?」
「次はちゃんと辛くしてよ。あ、でさ」
「うん」
「晶の周りって美形多いじゃん。他のやつに乗り換えようとは思わないわけ?」
「……何乗り換えてほしいわけ?」
義弟よ、君はいきなり何を言い出すんだね?おねーちゃんはびっくりだよ。
「いや、そういう意味じゃなくて……晶言ったじゃん?オレがあいつのどこが良かったの?って訊いたとき、顔だよって」
「……なんかわたし最低なやつだね」
事実最低だけどね。先輩に告白されてオーケーした一番の理由は顔だからね。……いや、ちゃんと先輩の性格とか顔以外の部分も好きですよ?でも、でもね?
「…だけど顔はやっぱり重要だと思うの」
先輩はきっと顔でヒトを選んだりしないな、うん。だって先輩がヒトを顔で選んでたらわたしは絶対に先輩の隣に立ってなかったよ。それは百パーセント自信を持って言える。自分の容姿が平凡だから、わたしは美しい人たちに憧れを抱くのだろう。綺麗な人たちはキラキラしていて、眩しい。綺麗なものはいつまでだって近くで見ていたいでしょ?
「いいんじゃね?そこまでいくとすがすがしくて。でも顔が良いのだったらあいつ以外にもいるだろ」
「そりゃね。ありがたいことにわたしは美形の方々に囲まれて幸せな毎日を送ってますよ。……だけどねぇ先輩の顔が一番好みなの。多分先輩が世界で一番わたしの理想に近いの。あの顔に出会ってしまったら…」
「出会ってしまったら?」
「他の男なんて見れないよ……」
しっかしホント甘いねこのカレー。わたしも侑と同じでどちらかといえば辛口だから、これは少しツライかな。ちゃんとスーパーまで行って辛口のやつを買ってくれば良かった。そういえば何故家に甘口があったのだろう?家で甘口を好むヒトはいないのに。
「オレは?」
「うーん不思議。……え?」
ごめん今考えごとしてて聞いてなかったよ。
「オレは?オレもダメ?」
「……侑もダメだよ。それに侑は義弟でしょ?」
わたしの困った顔を見ておどけたように侑は言った。
「冗談だよ。晶とオレはキョーダイだしね。まあ血は繋がってないけど。……オレの顔とあいつの顔タイプ的に似てるから、どうなのかなって思ったんだよ」
「ああなるほどね。安心して!ちゃんと侑の顔も好きだから」
侑がわたしをどう思ってるかは知ってる。知ってて知らないフリをする。…ひどいおねーちゃんだね。ホントに。
ヒトにひどいことをしているから罰が当たったのだろうか。だから先輩はわたしと別れたのかな?あのね先輩、先輩が『別れてくれないか』そう言ったとき。ホントはわたし、悲しかったんです。なんでもないことのように振る舞うことしか出来なくて。
――ずっとあのままで、いたかったんです。
別れてから、先輩は前よりもわたしを甘やかすけれど、でももう彼氏彼女じゃないから。不安なんです。この間までわたしがいたそのポジションにいつ誰かが座るのかなって考えただけで怖くなる。
でもね。いつか誰かがその席に座っても、わたしは笑って先輩を祝福するだろう。心の中で泣いたとしても先輩にはわからないようにするから。
だから先輩。早く次の一手を打って。