だから何も言わないで
今回は少し短めです。この話が一番時間掛かりました…。
侑は先輩がキライだ。侑がはっきりとそう言ったことはない。でももう四年も義兄弟をやっているのだ。侑の言葉の端々や態度からそれくらいのことは読み取れる。
「……オレはさ、心配なの。晶があいつに遊ばれてるんじゃないかって」
わたしから視線を外して不機嫌そうに侑が言った。
「……先輩はそういうことするヒトじゃないよ」
そういうことをするヒトじゃない。そんなの、よく知っている。だからこそわからないのだ。以前よりも甘くなった先輩の言葉と視線。それから行動。それらがどういう意味を持つのかがわからなくて。でも、それでもいいのだ。それで先輩が幸せなら。笑っていられるのなら。
『別れたはずの男がべったり傍にくっついててお前はそれでいいわけ?』
『いいですよ。別に』
カフェテリアで井上先輩に質問されたとき、返した言葉は紛れもないわたしの本音だった。
別に構わない。だってわたしにとって大切なのは先輩だから。…だから。
「じゃあ―」
「侑ごめん」
だから何も言わないで。どう続くかわからないこの日々をただ黙って見守って。
何を言っても無駄だと思ったのだろう。長い長い溜息をついて、侑はゆっくりと言葉を紡いだ。
「…………わかった。晶が頑固なのは知ってるから、もう何も言わない」
「…ありがとう」
ねえ侑、またわたしが落ち込んでたら慰めてくれる?
そう言うと。
「当たり前だろ」
と少し呆れたような声が返ってきて。それがとても、嬉しかった。
自分で思っていた以上にたくさんの方々に見て頂いているようで嬉しいです。ありがとうございます。
休日更新を目指していますが、不定期更新になるときもあるかと思います。気長にお付き合い頂ければ幸いです。