以前よりも甘く
Aランチは、まあそこそこおいしかった。この高校の学食はすべてにおいて味が薄いといわれているけれど、わたしはそうは思わない。でも先輩はもう少し濃い味付けを好むので、時折「味が薄い……」と呟いていた。
「あれ、晶じゃん、ひさしぶりー」
先輩が二人分の食器を片付けるために席を離れたので、一人むなしくぼーっとしていたら、チャラチャラした男が話しかけてきた。井上修司、先輩の一番の親友。わたしとしては、なんで先輩がこんな男とつるんでるのかがわからない。彼と先輩とではそれほどまでに方向性が違う。だが先輩と彼は仲がいい。
彼はわたしの目の前の、今まで先輩が座っていた席に腰を下ろした。そして今し方わたしが食べていたAランチを食べ始めた。お腹いっぱいのときに再びそれは見たくないな。吐きそうだ。
「………お久しぶりです、井上先輩。今日も相変わらずですね」
「お前もな。あっそうそうお前らホントに別れたの?」
またその質問か。最近先輩の親友の方々に会うたび、同じ質問をされてばかりだ。
「別れたんじゃないんですか?っていうか先輩に直接訊けばいいでしょう?仲、いいんですし」
「ばっかお前そんなこと訊けるかよ。……てかあいつは何考えてんだろうな?お前もだけどよ」
井上先輩はそこで一旦言葉を区切った。カラコンでもいれているのか、薄い碧色をした瞳でまっすぐにわたしの顔を覗き込んで、彼は言う。
「別れたはずの男がべったり傍にくっついててお前はそれでいいわけ?」
「いいですよ。別に」
「……あっそう。……ホントわかんねえやつ」
最後の言葉はとても小さくて、わたしに聞かせる気はきっとなかったのだろう。ばっちり聞こえてしまったけど。
わたしはあまり感情が顔に出ない。まったく笑わないとか、怒らないとか、そういうわけじゃない。ちゃんと笑うし、たまにだけれど怒ったりもする。でもたまに言われる。「わかりにくい」と。
「晶お待たせ……って修司どうしたんだ?」
「あー飯食ってるだけ」
「あ、先輩食器ありがとうございます」
一応自分の分は自分で持っていくと言ったのだが、先輩が俺が持っていくと言ってきかなかったのだ。最近の先輩は本当にすごく甘くてびっくりする。……わたしに負い目を感じているのだろうか?
「ああ別にいいのに。俺のわがままだし…」
そう言って先輩は蕩けるように笑った。その笑顔に周りにいた女子たちが色めき立つ。モテますなぁ。
さすが学園の王子様と呼ばれるだけのことはある。ちなみに井上先輩も同様に人気がある。確かに整っているとは思うがわたしの好きな顔ではない。
「お前ら付き合ってた頃よりらぶらぶじゃねーか」
そんな先輩がぼそっと呟いたその言葉に心の中でこっそりとわたしは頷いた。
井上先輩の名前二つ書いてましたね…すみません。
彼の名前は修司です。