別れたはずの二人
わたしと先輩が別れたという噂はすぐに広まった。……広まったのだが、その噂はすぐに消えてしまった。
「晶は、今日何を食べるんだ?」
なぜなら先輩がわたしにべったりくっついて離れないから。別れたんじゃなかったのか、わたしたち。
「……そうですね、じゃあ今日はAランチで」
「そうか…じゃあ俺はBランチにしよう」
先輩はあまりべたべたくっついてくるタイプではなかったので、ちょっと戸惑ってしまう。別れてからのほうが、よっぽど恋人らしいことをしている気がする。これだけくっついていたら、噂が消えるのも当然だろう。
それにしても。ああ今日も先輩は素晴らしく綺麗な顔をしている。先輩の顔はわたしの今までの人生の中で、一番美しい。そして一番わたし好みなのだ。そして、先輩は性格もいい。やっぱり、顔だけよくてもだめだよね。
別れを切り出されたとき、もうこの顔を間近で見ることが出来なくなるのかと思い悲しくなった。……いや今まで誰よりも近くで拝見出来ていたことのほうが驚きか。わたしの顔はお世辞にもかわいいとはいえないから。どうせ十人並み。
でも告白は先輩からだった。まるで少女漫画だ。……別れ話も先輩からだけど。
今まで結構上手くやれていたと思うのに、先輩は突然どうしたんだろう?考えられる理由は二つ。その一、わたしに飽きた。その二、別な女の子を好きになった。うーん、どちらもあり得る。
「……晶? 具合でも悪いのか?」
「あ、大丈夫です。ちょっと考え事してて……」
へらりと笑ってごまかす。
別れた理由を考えるのは置いといて、とりあえず今はその麗しいその顔を観察することにしよう。
………もうすぐで見納めになるかもしれないのだし。




