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彼女の知らない裏話

更新が遅くなってしまい、申し訳ありません!


あと数話で終わるです。更新は不定期になると思いますが完結だけはさせる予定なので、どうぞ宜しくお願いします。


 晶とのランチタイムをそうそうに切り上げて、指定した場所に向かう。

 こちらから誘っておいて遅刻するなんてポリシーに反するから、約束の時間五分前にはもう、待ち合わせ場所で待機していた。

 待ち合わせ場所に指定したのは、中庭だ。花壇があって、ベンチもあるからなかなかに素敵な場所だと思うのだけれど、ここで昼食をとる生徒を見たことがない。わざわざ外に出て食べようという学生もいないから、誰も来ないだろうか? そのお陰で内緒話にはうってつけだけれど。

 指定した時間きっかりに、彼がやってきた。

 すでに顔が怒っている。不機嫌さが丸わかりだ。

「話ってなんだよ」

「晶に関することだよ」

「何? とっとと別れてくれるわけ? ……ああ、とっくに別れてたんだっけ? 相変わらず晶の周りちょろちょろしてるから、忘れたけど」

「……もう、しない」

「は?」

「ちゃんと晶の側を離れる。だから、教えてほしいんだ。――――キミは晶が好きだよな?」

 教えてほしいと言いながら、実際それはただの確認だった。

 彼が数回、戸惑ったようにまばたきを繰り返す。

「ああ」

 ためらった素振りを見せつつも、答えはYesだ。わかりきっていることだけれど。

「なら、晶と仲良くな。もちろん、兄弟としてじゃなくて異性として――――」

 大切にしてくれよ。俺が言えた立場じゃないけど。

 続けるつもりだった言葉は彼の怒声によって強制的に飲み込まされた。

「あのなぁ!! あんた何言ってんの?」

「何って……え、だからキミは晶が好きなんだろ?」

「ああ。好きだけど、オレが好きだからなんなわけ? まさかオレが別れた原因だとか言うなよ?」

「いや、あの……」

「………はぁ」

 正面から大きな溜息が聞こえた。完全に一つ年下の後輩に呆れられてしまっている。ちょっとだけ、居心地が悪い。

「バカだバカだと思ってたけど、想像以上にバカだったんだな。晶もあんたも」

 そのセリフに首をひねる。何故そこに晶の名前が入るのだろう。

「まず結論だけ言おうか? あんたたちは両想いだよ」

「そんなわけ……」

 ないじゃないか。

「いや、実際そうだから。てかわかってないのあんたたちくらいだろ? あんたはさぁ、なんで晶と別れたの? どう考えても晶に未練あるよな? お互い別れたくなさそうなのに、別れを決断した理由って何?」

 言っても、いいのだろか? 告げることは、許されるのだろうか? 

 彼は腹を割って話す気のようだ。それなのに自分が言葉を濁すことは許されないだろう。

 ええい、と思った。きっ、と彼の綺麗な瞳を睨むように見据えて。

「晶は」

「……」

「晶はキミの事が好きなんだと思ってた。キミたちが仲よさそうに歩いてるのを見たんだ。覚えてるかは知らないけど、キミがあのとき勝ち誇ったように笑うのを見て、もうダメだと思った。……正直、わからなかった。晶の気持ちがどこを向いているのか。キミにわかってもらえるかはわからないけれど……晶は俺と話すとき、どこか他人行儀なんだ」

 侑にしてみれば、それは一種の意趣返しだった。常日頃、晶の側にいる男への。しかしまさかそれが、引き金になってしまったとは。いや、そもそも。侑が思っている以上に、この二人の関係は脆く壊れやすかったのだ。些細なことでひびが入ってしまうほどの脆さ。

 危ういところがある、とは思っていた。晶は変なところで遠慮する性格だし、第一棗至上主義だから。 なるべく二人を視界に入れないようにして生活してきた。二人の間に広がる穏やかで甘い世界に、嫉妬することはわかりきっていたから。でも、二人の関係は恋人というよりもまるで主と従者だ、と何回か見ているうちに思った。

 棗の言うことは、侑にはよくわかった。晶は棗に対して線を引いている。そしてその線を晶が引いたのは恐らく、晶にとってのNGワードである“あのとき”だ。

 “あのとき”傷を負ったのは棗ではなく、むしろ晶のほうだったのではないかと侑は推測している。

 晶はきっと怖いのだ。彼が再びああなるのが。そして彼女が何よりも恐れるのが、自分が彼を苦しめる原因となること。“あのとき”彼がああなってしまった一端を担っていると信じて疑わない彼女。ゆえに無意識のうちに彼女は彼から距離をとる。

 隣に立ってほしい彼と、常に一歩離れていたい彼女。それは上手くいかなくなるだろう。自分には見せない笑顔を、他で大安売りしていたら、侑だって傷つく。

 ――――奪えるかもと、思ったんだけどな。侑は心の中で自嘲する。

 この男が晶を好きなように、侑もまた晶を好きで。もっと早く出会いたかったと、覆せない現実に何度舌打ちをしたことか!

 別れたと聞いたときは正直ラッキーだと思った。棗という彼氏がいる間は、想いを伝えることはしないと決めていた。棗以外の男が彼氏だとしたら遠慮なくアプローチをしかけただろうが、棗という男が晶にとって特別だとわかっていたからこそ、何もしなかった。

 一番厄介な敵が自ら退場したと喜んでいたら、再び壇上に上がってきた。

 焦って多少態度を変えてはみたものの――――……。

 まぁ今更だ。晶は鈍いわけではないので、侑の気持ちも知っている。知っていても、何も進展しなかった。

 それならばすっぱりと、いい加減ここらで諦めをつけるべきだろう。何年たっても、たとえ目の前の男(こいつ)に「いらない」と言われても、彼が幸せである限り、晶はやっぱり幸せそうに淡く笑っているだろうから。

 聞きなれた声で世界で一番腹の立つ男が続ける。

「俺は晶に幸せになってほしいんだ。一番ツライときに支えてもらったから。だから、晶がキミを好きなら身を引こうと思ったんだけど――――……」

 違うの……かな? 口にこそ出さなかったものの、()は雄弁に語っていた。こくんと首をかしげている。高三男子がやっても似合わなさそうなものなのに。なんだか捨てられた犬みたいだ。

 全く……溜息が出る。

「違う。言ったろ? あんたたちは両想いだよ。ったく……なんでオレがわざわざこんなこと言ってやらなくちゃならないわけ? 晶を幸せに出来るのは今のところあんたなんだから、今すぐ迎えに行ってやれば? で、とりあえずここ数日のあんたの行動を反省して謝れよ。随分悩んでたみたいだったから」

「あ、それは悪かったと思ってる……でも、本当に晶は俺のこと……」

 まだそこで悩むか!

 眉毛をハの字にしてなんだかぶつぶつ言い始めた。そんなことをしてる暇があったらさっさと話しに行ってこっちを落ち着かせろ! 切れそうになるのを必死で抑える。

「大丈夫だって、義弟(おとうと)が保障してやるから。なんなら通行人捕まえて訊いてやろうか?」

「あ、いや大丈夫だ」

 通行人に訊いてわかるんだろうかと棗はこっそり首をかしげる。

「もーいいだろ? 行けよ。あんたが今すべきことはオレと雑談することじゃない」

「ああ」






「ありがとう」

 と、言って棗が去って行ったあと。後ろからがさがさと草を踏みつける音がした。

 振り返れば小内小夜(おさないさよ)が立っている。

「……」

「……」

「……」

「……さっき四条先輩にバカって言ってましたけど、わたしからすると侑くんのほうがバカですよ? 敵に塩を送ってどうするんですか」

「じゃあ、お前だったらどうしてた?」

「わたしですか? わたしは欲しいものは全力で手に入れる主義なので。欲しいものは手に入れますよ? 確実に。……本当はそうしたかったんでしょう? 侑くんとわたしは思考回路が似てますから。奪ってしまいたかったんですよね? ……よぉく頑張りましたね。泣きたかったら、泣いてもいいですよ。……そう言っても、あなたは泣かないんでしょうけど。そういうとこまでそっくりですから、わたしたち」

 平淡な口調。わずかに心配そうではあるけれど。

 泣かない、泣けない。決して泣かない。

 遠慮したと小夜は思っているようだった。本当は奪いたくても奪えなかったのだけれど、そこはわざと黙っておく。

「この話は、広めないであげますよ」

「………もっと他に広げてマズイ話があるだろ。時々思うけど、お前ホントにオレが好きなの?」

「はい。大好きです」

「即答。でも恋愛感情じゃないんだろ? 感情も籠ってねぇし。お前といい、静先輩といい、わかんねぇよな。知ってるか? 文芸部だけは敵に回すなって校内で有名なんだけど」

「……そうなんですか。初耳です。そういえば今、校内で一番旬な話題は、晶先輩がどちらを選ぶかだそうですよ? 敗者は侑くんというのが有力でして。同情票がすごいらしいですよ? 良かったですね、決着がついたあと色んなヒトに慰められるかもしれませんね」

「…………………お前さぁ、絶対にオレのこと嫌いだよな?」

「しつこいですねぇ。大好きだって言ってるじゃないですか。じゃなきゃわざわざこんなところにまで慰めに来たりなんかしませんよ」

 鮮やかに、しとやかに、小夜は笑った。

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