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憂鬱なランチタイムの始まりは

 ―――ああ、わたしは、やってしまったのかも知れない。

 先輩の凍りついた表情に、胸がきりきりと痛み始める。ひどい顔をしているのが、自分でもわかる。

「……せ、先輩」

「………それ、誰にあげるんだ?」

 ゆっくりと吐き出されたそれは、いつもの柔らかな先輩の口調とは違い、硬さを帯びていて、そしてわずかに悲しみが混じっていた。

 まるで浮気が発覚したような気分で、わたしは先輩の前に立っていた。

 クラスメイトたちが、ざわざわとこちらを見て騒いでいるのが聞こえる。でも、誰もわたしたちには近寄らない。厄介事に首を突っ込むのが大好きな静でさえ、完全に傍観者になっている。

 二度目となる質問に、どう反応していいのかわからない。侑ですと、再び告げるべきなのだろうか?

 ちょっとだけ、泣きたくなる。

 わたしが平和でいられたのは、四時間目が終わってすぐの間だけだった。




 四時間目は、数学だった。授業が始まってすぐ、大久保先生に体調は大丈夫なのかと尋ねられたときは焦ったが、それ以外はいつも通りだった。

 お弁当を作るのに必死で、課外を欠席することを連絡し忘れていたのだが、侑が「(あね)は体調不良です」と、わざわざ先生に伝えてくれていたのだ。……というのを、静から聞いた。静が誰からその情報を得たのかは、大体察しがつくだろう。正解は小夜ちゃんだ。

 普段真面目に出席しているのが功を奏したのか、何のお咎めもなかった。怪しまれることもなくて、良かったと素直に思う。内心びくびくしてたので。

 大久保先生は時間配分が上手いので、チャイムと同時に授業が終了する。

 チャイムが鳴り終わった。級長が号令をかけ、挨拶をする。

 机の上の道具を片付けていると、とんとんと肩を叩かれた。

水上(みなかみ)さん、四条先輩が呼んでるよ」

「あ、ありがと。(ひいらぎ)さん」

「いえいえ。じゃ」

 にっこりと笑い、去っていく柊さん。今日も美しいですね。そして手間をとらせてごめんよ。

 教室の前の廊下に、先輩がいた。綺麗ですね、本当に。まるで美術館の芸術品ですよ。綺麗で、うっかり接し方を間違えると、途端に壊れてしまいそうで。簡単に触れてはいけないようなそんな気がする。

 手早く片付けを終え、先輩のもとへ行こうとして、はたと気付く。侑に届けに行くの忘れていた。机の横にかけていた、お弁当を入れた黒のバッグを掴んで、教室を出る。

「すみません、お待たせしました」

「いいよ、今来たところだから。じゃ、行こうか」

 お昼は毎回、先輩と一緒に、カフェテリアでとることになっている。先輩が迎えに来て、それから二人でカフェテリアに行くのが、一連の流れだ。

「あれ、今日お弁当なのか? 珍しいな」

 どのタイミングで、届け物をすることを先輩に告げようかと迷っていたら、歩き出す前に、先輩が黒のバッグに目を止めた。

 ナイスタイミングです。素晴らしいです、先輩。

「はい。ちょっと、頼まれまして」

「……頼まれた?」

 空気が、変わったような気がした。

 おかしい。予定ではここで、配達があるので、先に行ってて下さい、と伝えるはずだったのに。心なしか先輩の目が怖い。

「……誰に頼まれたんだ?」

「ゆ、侑ですけど…」

 侑の名前が、わたしの口から零れおちた、その瞬間。

 ―――先輩が表情を失くした。


 そして冒頭へと戻るわけで。


 決して短くはない付き合いだから。大丈夫だと、高をくくっていた。

 詰まる所わたしは、先輩のことを全然わかっていなかったのだ。

遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。

昨年はたくさんの方々にこの作品を読んでいただき、大変嬉しく思っています。どうもありがとうございます。

まだまだ未熟なわたしですが、今年もよろしくお願いします。

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