勇者よ、死んでしまうとは情けない
どうも、伊庭です。アイディアだけ出来たものの、上手く描けなかったネタを今回短編小説にしてみました。小説というか、コント番組の台本みたいになってますね…初投稿ですがやはりものを書くのは難しいです
「おお勇者よ、死んでしまうとは情けない」
神父の声に勇者は目を覚ました。後ろを見るとずらりと並んだ棺桶。仲間たちである。ただでさえ金が半分も減っているのにこれからさらに三人分払うと思うと気が滅入る。炎神の剣がもうすぐ買えたのに
「…すみません、神父様」
「あなたは世界の期待を一身に背負っているのです。本当なら死者蘇生とか、普通に禁止魔法なのですからね」
今日の神父は機嫌が悪いのか説教がましい。やぶ蛇とわかりつつも、ついふと思ったことを口に出してしまう
「…な…てもいいじゃないですか…」
「はい?」
「そんな、怒らなくてもいいじゃないですか…ボクらが死ぬから、蘇生代で神父様だってお金が入るんでしょ。神父様はいつも教会で立ってるだけだし…」
ビキッという声が聞こえた
「ほう…するとなんですか、神に仕えるこの私が…いつもいつもただ教会で突っ立って人を生き返らせてお金をもらう楽なお仕事で?人の死を、金稼ぎの機会と喜ぶ死の商人だと、勇者様はそう言いたいわけですね…?」
表情は変わっていない。が、メガネの位置を直す手が震えている
「いや、死の商人とかそこまでは言ってませんし…」
「言っておきますけどね勇者様。いつもいつもダンジョンで死んでから教会まで、どうやって自分が運ばれてるか知ってます?」
「え?…い、いえ知らないですけど…え、ひょっとして?」
「そのひょっとしてですよ?ええ、私がいつもいつもダンジョンまで行って、勇者様たちを棺桶に入れて、教会まで戻ってるんですよ。結構な肉体労働なんですからね」
「えー…大変ですねえ」
「別に!子羊のために身を砕くのが聖職者のつとめですからね。神の思し召しですから、別に人に知られようとしてやってるわけではありませんから。でもね、いろんな勇者を何度も生き返らせてきたけどあなたみたいのは初めてでしたよ、ええ。他の方々は生き返ったら感謝と労いの言葉はくれましたから」
他に勇者がいるなら一身じゃないよな、とはギリギリ口に出さずに済んだ
「いやそれは…知らなかったからで…」
「それでも普通察するでしょう。魔物が別にわざわざ城に送ってくるわけないんだから」
「ええ、ええ」
「それであなたの話ですよ。いい機会だから言いますけどね勇者様。あなた、新しいダンジョンいくと必ず一回は全滅するでしょう?で、ボスがいたら必ず一回は負けてそれで最低二回!あれ本当困るんですからねいつもいつも!」
「ああ、ごめんなさい。いや…いつもなんかテンパって…レベル上げんのは宝箱取ってからでいいかなとか…それでボスとばったりみたいなね…」
「レベル上げてから宝を取りなさいよ!ていうか、レベル上げてからダンジョン行きなさいよ魔物楽に呼べる技やアイテム最近はいくらでもあるんだから!しまいには暗黒将軍ドラゾーグさんでしたね、あの人に15回以上全滅させられて」
「あいつマジ初見殺しでしたよ…第一形態だけでくそ強いのに回復抜きで龍に変身とか…」
「初見ってレベルじゃないから!15回はもう初見じゃないから!私なんか毎回あの人の元まで死体回収しにいったから名前覚えられちゃってね。あードラさんすいませんまたーって。いやいや気にしないでいいよーって。お茶まで出されちゃって」
「け、結構フレンドリーなやつだったんすね」
勇者は漆黒の鎧を身にまとったドラゾーグの姿を思い返した。オレにはお茶なんか一回も出さなかったのに
「あのね、そりゃ普通の洞窟とかなら私だっていくらでもいけますよ?でもあなた普通の冒険者じゃないんだから!勇者なんだから!特殊なダンジョン多くて入るのだけで苦労するんですよ」
「えっ、例えば…?」
そんなのあったかな、と記憶を遡ろうとする
「例えばあれ、精霊の末裔の血族しか扉が開かない塔」
「あーあーあー」
「精霊の末裔限定って何!?私は普通の神父なんだから!精霊の末裔の見分けかたとか知らないし知り合いにもいないから!困ったから求人誌に出しましたよ。精霊の末裔求むって。全然来ない!全然来ない!来ても自称の嘘つきだけ!」
「まぁまぁ、ボクの仲間のソーニャも自分が精霊の末裔って知ったの最近でしたからね…あの子孤児だったし…」
「まあ最終的には精霊そのものを捕まえて開けさせましたけどね」
「それすごいっすね。てかそのほうがすごいっすね」
「他にも海底要塞とか天空の闘技場とか。いけないから!そんな技術ないから!」
「あー、技術者さんも飛空挺作った後世界にまだ一隻だけとか言ってましたねー」
「もう今二隻ですよ。私がいろんなダンジョン行って材料また集めて依頼して作らせましたから。おかげでもうあなたがどういう経路で冒険したかすべて空で言えますからね私」
「世界旅行出来てラッキーだったなーって思ってくれれば」
「思えるか!!何回ミイラ取りがミイラになりかかったと思ってんですか。…でもね、そんなあなたが魔王の居場所突き止めて魔物の本拠地に乗り込もうとした時は、さすがに感慨深いものを感じたものですよ…」
「神父様…」
「なんでそこまで進んでまた死んでんですか!何回同じ過ち繰り返してんですか!」
「ですよねー」
「しかもですよ。勇者様が全滅した場所…【根幻世界フェノメノ】どこだよ!もはや異世界だよ!!技術って問題じゃないよ!!」
「いやー、まさか魔物が異世界から侵攻していたとは」
「異世界にまで乗り込んだから気を引き締めなさいよ!死ぬなよ!しかもですよ、あなたの仲間の装備!」
神父がおもむろにソーニャの棺桶の蓋を開ける。そこには死体とは思えぬ美少女がその豊満な肢体を薄手の布だけで隠していた
「なんで水着!?ねえなんで水着!?しかもなんでよりによってビキニ!?」
「嘘みたいだろ…そいつ死んでるんだぜ…」
「そういうの本当にいいから!何を仲間の女の子にラスダンで羞恥プレイさせてんですか!」
「いや、それが総合的に一番防御力高かったんですよ」
「しかもあなたこれで町中も歩かしたでしょう!?町で噂になってましたからね!もうね、あなたと知り合いって知られるの本当に嫌でしたからね!可哀想だとは思わなかったんですかこの子孤児なんでしょ!」
「まあソーニャ本人が猛烈に着たがってたんですけどね」
「ソーニャさぁん!?」
「最近になって自分が…ふふ、そういう気があるって気づいたみたいで」
「この子自分の人生についていろいろ盲目過ぎでしょう!あと何笑ってんの気持ち悪い!」
「まあ、でもなんとか魔王倒しましたから」
「それは素直に凄いと思いました」
そう。ラストダンジョンには三回全滅させられたが、肝心の魔王自体には勇者たちは初めて初見撃破を成し遂げていた
「でもね…」
問題はその後だった
「その後また全滅したって聞いたからなんでと思って行ったら、ですよ…」
「はい…」
魔王をも裏で操っていた最後の敵は、世界と人類の創造主たる神そのものだった
「アイデンティティー・クライシスっ!!!」
神父は冒険の書を地面に投げつけた
「わー、何してんですか中身消えたら怖いでしょう!」
「いっそもう世界すべてを消し去りたいですよ!こんなくっだらない仕事でも神の意志ならばと一心不乱にと出掛けたら、最後の最後でものすごい気まずかったですよ!」
「あー、ボクらはなんかこう、魔王よりさらに上がいたかーみたいなテンションで連戦余裕…いや負けたけどテンション的には?余裕でしたけど、神父様からしたら気まずかったですよね…」
「死体を回収に行っていざ姿見たら五分くらい固まりましたね。今まで信仰に全人生捧げてきたのに何これと。なんかもう、存在レベルで裏切られたっていうか」
「それで今日なんか不機嫌だったんですねー。いや、でもあいつ悪いやつですよー自分の暇潰しのために魔物も人間も弄んだんだから」
「それは本人にあの場で聞きましたね。っていうか聞いてもないのにベラベラ喋ってましたね」
「別に話さずに不意討ちでよくね?とか死ぬ前に思いましたよ…あー、神父様とボクらの仲だし神父様が気持ちに折り合いつくまでは神討伐延期でもー」
「いや、いいです、大丈夫です。もう折り合いっていうか、可愛さ余って憎さがなんとやらっていうか。なんかもう、じゃんじゃん、神、殺っちゃってください」
「いいんですか?」
「いやいいですいいですもう。ほら、今回はもう無料で残り三人生き返らしますから」
棺桶から三人が起き上がる
「うわラッキー、これで炎神の剣買える。よしみんないくぞー!」
「お気をつけて、勇者様!」
後日
「…おぉ勇者よ…死んでしまうとは情けない…」
「いや〜…」
「…神は殺りましたよね?」
「なんか、今度は宇宙から生命体やってきて…時空転送で新世界に?みたいな。まだまだ冒険、続きそうです」
「…もうやだこの仕事!」
最初はもう少し、ファンタジー世界の中で死者を蘇らせる神父という職業や、死んだ主人公たちをダンジョンまで拾いに行く仕事を位置付け、本格的に描きたいと思っていたのですが、どうも筆が進まず漫才、コントのノリで書いたらなんとか最後まで書けはした…という感じですね。もっとたくさん書いて趣味としては、ゆっくりペースでいいから上手くなりたいなあ…