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第十五話 間話(★)

 校内にある、F会議室。窓にカーテン、ホワイトボードにびっしり書き殴られた相関図(そうかんず)

 空気は、すでに最高潮(さいこうちょう)に達していた。

 

「私は、見たわけであります!」

 

 オオタ氏が、机をバァンと叩き立ち上がる。紙コップの紅茶が揺れて、オオタ氏の制服の袖を少し濡らす。

 

「そこで雨宮レンが――青戸ユキさんの手を取って……! 自分の、腹に!」

「しっ、オオタ氏!」

 

 ミタカ氏が慌てて立ち上がり、周囲を見回す。

 

「名前を呼ぶのはマズい。ここではただ、本尊と……」

「し、失礼。ミタカ氏、私としたことがつい(たかぶ)って」

 

 オオタ氏は咳払いをして、姿勢を正した。

 

「とにかく、雨宮レン、奴は危険人物だと私も思っていた」

 

 ミタカ氏、と呼ばれた人物が重々しくうなずく。その横で、3人目の人物が勢いよく手を挙げる。


「北条副会長はまあ、許せるんですよ」

「異議なし」

「責任感の塊じゃないですか。王子と姫、みたいな」

「わっかる!タクボ氏!」

 

 どよ、と場が沸く。タクボ氏は、意を得たりとばかりに大きく頷く。

 

「登下校のとき、さりげなくカバン持ったり、図書室まで迎えに行ったり……王子、って感じがする」

「副会長は守護者枠だからな」

「問題は、雨宮レンである」

 

 ミタカ氏がペンをくるくる回しながら、ホワイトボードを指さす。そこには丸で囲まれた「本尊」を中心に、矢印で繋がれた名前が並んでいる。

 

 本尊

 ↔ 王子

 ↔ 雨宮レン

 

「雨宮レン、同じクラスですけど」

 

 タクボ氏がふうと溜め息をつく。

 

「まず目つきがケモノですからね。廊下で目が合ったら、クラスの奴らだいたい道を開けますよ。最近なんか“雨宮さん”ってさん付けされてますからね。それでいて女子には妙に人気があるっていう」

「ケモノであり年下というギャップがまた危険度を増している……!」

「なによりあの、無表情からの薄い笑い!」

 

 ざわざわ、と一同が震え上がる。ミタカ氏はホワイトボードの"雨宮レン"の文字を乱暴に消して、"ケモノ"と書き直す。

 

「ここで、非公認ファンクラブ、全会一致を確認します」

 

 オオタ氏が、プリントをバンと机に広げた。

 

「雨宮レンを、本尊に近づく要注意人物と認定し――」

「異議なーし!」

挙手(きょしゅ)多数により……」

 

 バァン! オオタ氏が机を、さっきよりさらに盛大に叩いた、その瞬間だった。コンコン。会議室の扉がノックされた。

 すっと扉が開き、顔を覗かせたのは――生徒会副会長、北条ライ。その後ろには、いつも無表情で数字にしか興味がなさそうな会計係が控えている。


挿絵(By みてみん)


 「――っ!」

 

 全員の背筋(せすじ)が、一斉に伸びた。

 ライは全員の顔を順番に見渡した。

 

「すごい音したけど、何かあった?」

「あ、いえ、その……!何も……!」

 

 オオタ氏が慌てて紙を裏返す。そこには大きく「雨宮レン危険度AAA」と書かれていた。ライは小さく首をかしげ、会計係からタブレットを受け取る。

 

「F会議室……今は“読書会”で予約入ってるけど」

「は、はい、読書会であります!」

「読書会です!」

 

 口々に叫ぶ面々。ライはゆっくり室内に目をやる。ホワイトボードには、“本尊”を中心にした相関図。ところどころに「ケモノ」「王子」の文字。……に紛れて、「ボクシング入門」などの資料。

 

「本、出てないね」

 

 柔らかい声が、会議室の空気を一瞬で凍らせた。気まずい沈黙。その沈黙を、ライの微笑みがすっと溶かす。

 

「まあ、トラブルじゃないならいい」

 

 ふわっと、空気が明るくなる。ほんの少し目尻(めじり)を下げて、ライは続ける。

 

「熱くなるのはほどほどに。机、大事にしてやって」

 

 王子様スマイル。その一撃に、3人は胸を押さえる。

 

(まぶしい……! やはり王子……!)

 

「盛り上がってるとこ、悪かった。邪魔したな」

 

 ライが(きびす)を返す。すれ違いざま、会計係がくるりと振り返った。

 

「お前ら、余計な仕事増やすなよ。本当、副会長は甘いんだから」

 

 舌打ちをした後、数字を睨むときと同じ目で、会議室を一度だけ冷たくなめるように見渡す。それだけ言って、二人は去っていった。

 扉が閉まる。残された空間に、どっと息が漏れた。


「やっぱ副会長は例外枠ですね……」

「というか、いまのを読書会扱いで流してくれる懐の深さ……さすが王子……!」

「だが、問題はケモノである」

 

 ミタカ氏が、こほんと咳払いをして仕切り直す。

 

「副会長は守護者として当会も正式に認めるが、雨宮レンは別件だ」

「ケモノは、王子の目を盗んで本尊に接近してくる……」

「要注意人物として、引き続き観察・記録を行うことに異議ある者?」

 

 誰も手を挙げなかった。

 

「決まりだな」

 

 オオタ氏が、ホワイトボードの「ケモノ」の文字を二重丸で囲む。

 

「これからも本尊の安全と尊さは、この我々……非公認ファンクラブが見守る!」

「異議なーし!」

 

 F会議室の熱は、再び高まっていくのだった。

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