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サヨナラをもう一度〜夏のフェアリーの物語〜  作者: マナマナ


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妖精と吟遊詩人

 昼前の商店街はたくさんの買い物客で溢れている。この場所は海岸の熱さの三割増しって感じがする。

 持っていた小さめのタオルでは汗の全てを受け止めることは不可能に近い。なんでもっと大きいタオルを持ってこなかった、って少し前の自分に忠告したい。

 なるべく日陰を探して歩く。だが太陽は真上にあるからそんな都合の良い影はそうそうあるものではなく、熱々の炭火の上に置かれたウナギの蒲焼きみたいな気分がする。というのもちょうど目の前がウナギ屋さんで香ばしい匂いに惹かれていたからだ。

 あ〜、もうすぐ土用の丑の日”だよ。お母さん、用意してくれるかな?


 そんなことを考えていたら目的の本屋さんに到着していた。自動ドアをくぐるとそこは外とは別世界。汗がイッキに冷やされる。


 ・・・あ〜・・・・気持ちいい


 奥にある文庫本のコーナーに行って“銀河鉄道の夜”を探す。作者のコーナーを覗くとたくさんの本があるのに

「あれ?・・・ないなぁ」

 何回かその場所を目で往復して確認する。けれどやはりそれだけない。仕方なく他の本を手に取って見てみる。もしかして他のタイトルに入っているかも、なんて期待しただけ無駄だった。まさかの売り切れ。

 こうなったら今度は図書館にでも行こうかな。ここからそう遠くないよね。私は自動ドアの前で気合いを入れて再びウナギの気分になる覚悟をして

「行くか・・・・」

 小さく独り言。そしてまた真夏の太陽の元に足を踏み出した。


 図書館もクーラーが程よく効いていた。私は持っていた小さな水筒をカバンから出して程よく冷えた麦茶を一口飲んでから本を探し始めた。

 微かな足音とページを捲る紙の擦れる音。図書館の中にある音のほとんどがその音に支配されているみたい。思わず自分の足音も慎重になる。案内板で場所を確認して二階に向かう。

 そこも一階と同じような光景が広がっている。あいうえお順になっている棚から『み』を見つける。今度は一目で見つかった。つい小さな声で『あった』と出てしまう。けど周りにはさほど影響はなさそう。

 受付カウンターに行こうと振り返った時、背中側の棚が視界に入る。そこは文庫本じゃないちゃんとしたハードカバーの本が並んでいる。ほとんどが外国の本の翻訳だ。その中で私の視線は吸い込まれるように一冊の本を見ていた。


「妖精・・・伝記・・・」 つい言葉になる。


 本は私に読まれたがっている。不思議とそう感じた。私は衝動のまま手に取る。結構重いし立って読むにはいささか不向きみたい。どうせ時間はある。表紙だけ開くとどうしても読みたいという気持ちが強くなった。

 閲覧席は学生がほとんどだ。みんな受験生だよね。空いてる席ってあるのかな?そんな中見回してみると、窓際で一番奥のカウンター席を見つけた。

 隣りにはイヤフォンをしてパソコンで何かを書いている若い女の人がいた。この人も受験生?それにしてはちょっとだけ大人な感じに見える。髪は真っ黒でポニーテールにしている。そこから見えるうなじは白く、掛けている眼鏡は顔に対しては大きくてフレームの色は真っ赤だった。両側には本がたくさん積まれていて、そのほとんどが英語のタイトルで私には何の本なのか見当すら付かなかった。

 軽くお辞儀をして、けど気付いてない、隣りに座った。カウンターは私には少し高いけど、椅子の座り心地は良い。これなら長時間座っていても平気だろうな。それと目の前にある窓は大きくてとても解放的だ。疲れたら景色を見てリフレッシュして勉強に集中できるね。


 私は一息ついてから持ってきた本を開く。まずは軽くパラパラとページを捲ってざっくりと全体を見る。所々挿絵が入っているみたいだけど、ほとんどは文字で埋め尽くされている。こりゃそう簡単に読み終えられそうにない。とりあえず目次を見て気になったモノだけを抜粋して読むことにしよう。最初の一枚を開くと次のような文句が書いてあった。


『ここに集められた文章たちは口頭伝承によって言い伝えられたものである。だからと言って物語自体が時代と共に変化をしているということはない。代々この物語達を頑に伝承してきた吟遊詩人達の言葉を我々は正確に文字としてここに残した。

 物語はとても古いものだが、文字という形にすると今まで私達が知り得てきたファンタジーの起源になっているような錯覚を起こす。ここには言い伝えによって育まれた魂が宿っているような気がする。

 もしかしたら聞いたことのある話に出会うかもしれない。それはきっとあなたにとって運命的な出会いをもたらすかもしれない。もう一度言う。ここにある魂の言葉に耳を澄ませて欲しい・・・・・』


 という注釈が最初にあった。言葉だけでずっと物語りを伝え続けたことにちょっとした衝撃を受ける。ということはこの話しがあった場所には文字が存在していないということになる。そんな古代文明があるなんて私は初めて知った。

 そんなことを想いながら何時しか私はページを綴っていた。この文字の一つ一つを正確に言い伝えるなんてことが本当に出来るのかな。なんて少しだけの疑問を残して。けれど確かにどこかで聞いたようなニュアンスの物語があった。特にそう思ったのは、背中にコブがある男の話だ。


 ある日背中に大きなコブのある男はうっかり森の中で居眠りをしてしまい目が醒めたのはもうすっかり日が落ちた夜だった。男は帰ろうとしたが岩の影から楽しそうな音と歌が聞こえて来た。男はつい好奇心に負けて岩陰を覗き込むと、そこにはたくさんの妖精が楽しそうに宴をしているではないか。それを見ているうちに男は自分も楽しくなってしまって一緒に踊り出した。妖精達は最初は驚いていたが男の躍りがあまりにも面白くて、その宴の参加を許した。やがて日が昇る時間になるとその宴も終わりを告げた。妖精達は楽しませてくれた男に何か一つ願いごとを叶えると言うと、男は背中のコブを取って欲しいと言う。これを妖精達は了承して晴れて男の背中からコブがなくなった。


 これって日本で言ったら『コブ取りじいさん』のことだよね。日本ではコブは背中じゃなくて頬っぺたにあるけど。なんか不思議。こっちが先にあったとしたらこの話は少しだけ形を変えて日本に定着したことになる。

 ということはこの国にもいわゆる“吟遊詩人”がいたことになる。その時って一体どんな感じだったのかな。はっきり言って江戸時代より前の時代は私にとってはほとんどファンタジーの世界でしかない。ま、どんな形で辿り着いたかは分からないけど、もしほんとにこの物語りがどこかで繋がっているとしたらなんか面白いな。

 こんな話ばかりなら正直全部読みたくなる。けど残念ながらこの本は禁帯出みたい。ならまたここに来ればいっか。そんなことを思いながら窓の外を見る。よほど掃除が行き届いているのかじっくり見ないとガラスの存在が分からないくらい。カウンターと外の境界線なのにそれはあまりにも曖昧でその意味を成していないみたい。手を伸ばせばすぐそこに夏の光を感じることができるみたいだ。


 夏。そうだ。私にはもっと知りたいことがあるんだった。ページをさらに進めてどの物語もさわりだけを読んでみる。けれど私の知りたい妖精のことについてのモノはなかった。どうやら彼らにも知らない存在があるのかな。とにかくこの本にはない。なら他の本なら。

 私は席をキープしたまま再び同じ本棚のところに行って今度は一冊一冊じっくりとタイトルをみていく。こんなにたくさん本はあるのになかなか同じような本を見つけることができない。最後までいってどうやら不発に終わったみたい。もっと大きな図書館にならあるのかな。どうしよう。電車に乗って行くべき?どうしようかと迷っているとポケットの中のスマホが震える。見るとお母さんからでお昼ご飯だから帰れって内容だった。もうそんな時間か。確かにお腹は空いているのにも気が付いた。ならここは一旦仕切り直してもっと計画的に考えよう。

 席に戻ってカバンを取って、目的の本を借りて外に出る。ここにはさっきみたいな境界線は存在しない。私は真夏の中に放り出された。同じ景色なのに本物は容赦なく私のことをまた炭火の上のウナギにしようとしている。あ〜やっぱりお腹減ってる。そして家路に着いた。


 今、私の頭の中は吟遊詩人が繋いできた物語のことで一杯だ。きっとあの本以外にもたくさんあるよね。それにいろんな妖精がいることだって知った。良い妖精もいれば悪い妖精もいる。幸福になれるか不幸になるかは出会った妖精によって決まる。別に夢のことを気にしているわけじゃないけど、もし本当にラピスが夏のフェアリーというならそれはどっちなのだろう。あの笑顔に嘘はないならそんなことないって思いたい。でもホントは違うかもしれない。

「・・・・あ〜・・・・暑い・・・」

 つい言葉が漏れる。何考えてんだろ私って。そんなことあるはずないじゃん。いるはずない。かなり影響を受けているみたい。でもこんなに気になるのは何でだろう。きっとそれはラピスのことを知らな過ぎるってのもあるし、最近見る夢がとてもリアルなせいもある。私は信じるの?それとも信じないの?どっちがホントの気持ちなんだろう。


 夏が本気ではっりきっている。やっと家に着いて汗だくで部屋に戻ってカバンの中から借りて来た本を出そうとして、えっと、こんなことってあるのかな。きっと偶然だよね。一体いつ間違ったのか。たまたまきっとカバンの中に紛れ込んだだけだよね。私の手には真っ黒な表紙で年代もかなり古くて持っただけで本の過ごしてきた時間が分かるくらいだ。

「・・・あ、これ」

 背表紙には禁帯出のシールが貼ってあった。なんでこんなのが?きっと本探しで夢中で本棚から落ちたの気が付かなかったのかも。ご飯を食べてからこっそり返しに行こう。またウナギになるのか・・・今の私は本気でウナギが食べたい。

 せっかくだからページを開く。一体何の本なのかな?少しほこり臭い表紙を開いた瞬間

「・・・英語?・・・読めない(涙)」

 諦めて本を閉じる。同時にご飯が出来たことを知らせる声がする。本を机に置いて部屋を後にした。

 ウナギ気分だったが冷やし中華だった。現実とはこういうものだよね・・・いや、頭も体ものぼせている私にはむしろありがたい。いただきます。

まったりゆっくり読んでいただき感謝してます。

今年の夏は暑かった。エアコン代もハンパなかった。

来年の夏って・・・やっぱり暑くなるのかな?

今年もあと少し。頑張ろうって気合い入れてアップしていきます。

次回もまったりゆっくりよろしくお願いします。

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