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サヨナラをもう一度〜夏のフェアリーの物語〜  作者: マナマナ


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矢が放たれたら

「やっと来た。待ちくたびれちゃった」


 言葉と一緒に振り返る金色の髪は薄らと赤い色を染み込ませて不思議な色となって風に緩やかに靡いていた。


 彼女の姿を見てホッとしたのと同時にもう一度聞きたいことがある。


「あたなは誰なの?」


 そんなこと分かっているみたいな顔で


「最初に会った時にも聞いたよね」

「私とあなたは出会った時から何も変わっていない。それに毎日だって。あなたは変わらないって言った。今はそれもよく分からない」

「だって鈴音が望んだことでしょ。私はあなたのおかげでこの世界に留まることができるの」


 彼女の後ろに広がっている大きな空は駆け足で夜を運んでいるみたいに星の数がどんどん増してゆく。そして見つける赤い星。心臓の鼓動に合わせているみたいに明滅しているように見えた。


「鈴音はまだ夏を望んでいる?」


 心臓を見ている私にラピスは聞いてくる。そんなの答えるまでもないのに、答えが変わることがあるなんて思ったこともなかったのに、なんて答えたらいいんだろう。


「うん。もちろん。けどね・・・今はちょっと違う・・・かな」

「彼女のせい?」

「・・・そうなのかな。ねぇ・・・・・・ラピス。私はあなたの家で彼女に会った。でもその時彼女はアリアじゃなくて夏のフェアリーだった。ラピスとウリ二つの姿をしていて。本当のアリアの目の色は青じゃなくて黒なの。私と同じ色」

「そして鈴音は彼女のことを思い出させてしまった」

 確かそんなことを言っていた。それからこうも言っていた。

「夏が終わるって・・・・・」

 ラピスは微笑んだまま頷いて

「そのことに気が付いてしまった。彼女の夏は終わる。でもそれにはまだ足りないものがある」

「足りないもの?」

「私はずっと彼女のことを見守っていた。夏が訪れると彼女は夏のフェアリーとして世界に存在していた。そして夏以外の季節は眠りに就くの。とても深く」


 ラピスは防波堤ギリギリまで歩いてゆく。私も後に着いてゆく。


「ねえ。見えるでしょ」

 見上げると空一面に星が散りばめられている。

「一緒に乗れるといいな」

「・・・銀河鉄道?」

「そう。鈴音がジョバンニで私がカムパネルラで。天の川に沿って汽車は走るのよ。素敵だと思わない?先ず最初はどこに停まるのかな。アルタイル?それともベガ?デネブでもいい」

「知ってる。夏の大三角形」

「うん。でもアルタイルとベガは天の川を隔てている。もしかして行きか帰りのどちらかでしか行けないかもね。そして蠍座は夏で一番大きな星座」

「アンタレスは心臓。そこはきっと大きな駅だと思う」

「そうかも。鈴音も分かってきたみたい。さあ、私達の旅はまだまだ続くのよ。でも気をつけて。射手座の矢は蠍の心臓を狙っているのよ」

「そうなんだ。知らなかった。矢で射貫かれたらどうなるのかな?」

「それは射貫かれてみないと分からない。もしかしたら花火となって宇宙に大きな華を咲かせるかもしれない」

「そしたらパレードの始まりだね」


 私達は顔を見合わせて笑った。けど、まだ終わっていない。私はラピスと・・・でも

「ううん。私には全然分かっていないよ。ねえ、あの後二人はどうなったの?」

「そんなに気になる?」

「だって・・・私は・・私の記憶の中にはまだ続いているから」

「ねえ、座らない?」

 防波堤から足を海に投げ出すように並んで座る。ラピスの髪は海からの風で軽く揺れている。夜なのに微かに太陽の匂いがするし金色の粒子が彼女の周りに散らばっていて、本当に同じ女の子だとは思えない。コンクリートはまだ熱を持っていてほんのり温かい。


 ラピスは、こっちを見ないでね、と言ってからゆっくりと話し始める。


 次の日。少年は教えられた時間に合わせてアリアの家に向かった。その日も昨日の続きのような青い色が空にある。海岸を通って山道に入る。家を出る前、庭にあった百合の花をもらって自分で花束を作ってみた。それと自分の連絡先を書いた手紙も添えた。やがてアリアの家が見えて来た。けれど遠くから見ても妙にひっそりとしていた。少年は思わず走った。


 時間まではまだあった。それなのにそこにはもう誰の姿もない。そのことが空気で分かる。少女は予定より早くこの地を後にしたみたいだった。


 分かっているのにドアをノックする。


 当たり前のように返事はあるはずもなかった。ドアは鍵で固く閉ざされていた。残されたのは庭に咲いているたくさんの花だけだった。少年は急に力が抜けてその場に座り込んでしまった。


 こうしていても汗はじっとりと全身から出る。いつまでもこうしていてもアリアに会えるわけでもない。そう自分に言い聞かせてからやっと立ち上がることができた。


 もう一度会いたかった。でももう二度と会うことができない。こんな現実があるなんて思わなかった。最後になにも言葉も掛けることができなかった。それだけが心残りとしてある。仕方のないことだ。受け入れるしかないんだ。そんな思いが何度も頭の中をグルグル廻る。


 そして歩いている内にあの場所にやって来ていた。


 ここがアリアと会えた最後の場所だった。ここは彼女と約束した場所でもあった。


 昨日のことが鮮明に蘇る。アリアの顔、声、それから真っ赤な血。その全てがここに残されているような気がしてくる。少年はあの約束の石のところまで行ってその目の前に持ってきた百合の花を置いた。

 本当は会って言いたかったことがある。けれどその言葉は今は心の奥底に閉まっておくことにした。その想いと共に石を触ると昨日とは違って中からほんのりした温もりを感じる。不思議なことだ。昨日はあんなにひんやりとしていたのに。よく見るとアリアの血が薄らと残っているのか赤い色の着いたところがある。


「・・・・・アリア・・約束だ」


 それから時は流れた。結局少年はその想いを胸に閉まったまま今に至る。


 毎日釣りと、釣った魚を近所に配ったり干物を孫にあげることが老後の楽しみになった。

 夏の海を見ることで彼の心は少年に戻って、あの頃のことを今も自問自答しているなんて誰にも分からないだろう。

 いつか会える。でもこの歳だ。もう会えないのは重々覚悟していることだった。だから近所の中学生の女の子がアリアと同じ特徴をした女の子のことを訪ねてきた時はこれ以上ないくらい心臓がバクバクした。

 まさかな。

 分かっているけど彼女はアリアじゃない。


 けれども彼の心は釣り針がヒットしたような気がしてならなかった。


気がつくと30回以上アップしていた。

読んでいただきありがとうございます。

でも物語は終わる様子を見せない。

ということはまだまだ続くということ。

これからは忍耐と気合いです。

私も皆さまも。

飽きられることないよう意気込みは人一倍。

次も見に来てね。

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