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サヨナラをもう一度〜夏のフェアリーの物語〜  作者: マナマナ


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赤い血と青い瞳

「風が気持ちいい」

「・・・うん。夏なのにいい風だ」


 もしかしてあの話の続き?

 

 ずっと気になっていた。これが真実かどうかはわからないけど私はこのまま夢でも見ることにした。

 けれど

 こういうのって照れるね。いつか私もこんな風に男の人と手を繋ぐなんてことあるのだろうか。


「田中君と一緒にいる・・・やっと叶った」


 アリアは笑顔なのに田中少年はただ頷いているだけ。

 あ、あれ?何も言ってあげないの?


「ねえ。何が見える?」

「・・・海が見える。町も・・・見える」

「素敵な場所でしょ」

「・・・知らなかった。ここにはよく来ていたの?」

「ええ。ここは私にとって特別な場所なの」

「そっか・・・そうなんだ」


 今って会話が弾んでいるってことでいいのかな?

 私はすごく気になる。特別って一体どういうこと?


「明日にはお別れだね」

「うん。見送りに行く」

 何かをじっと考えているみたいに見える。アリアは少年と同じ方向に体を合わせそれから眼鏡を取る。

 傷なんてどこにもないキレイな顔がある。けれど瞳の色はずっと薄くなっていた。


「もう一度見たかったな」

 少年は答えられない。何か言ったところで過去は変えられない。

 そんなこと分かっている。今言うべき言葉があるなら誰かに教えてもらいたい。

 けれど繋いだ手から彼女が言葉を求めているのが分かる。

「・・・俺がアリアの代わりにずっとこの景色を守る。俺はアリアの目になる」

「ありがとう・・・私・・自分がこんなことになるなんて思わなかった。私は田中君と仲良しになれて嬉しかった。心からそう思った。だから体が勝手に動いた」

 また俺の方が励まされている。そう思うと涙が浮かぶ。けれど泣いている場合じゃない。懸命に押さえ込んで呼吸を整える。


「・・・いつかまた・・・会うことってできるかな?」

「田中君が心から望むならきっと叶うよ。実を言うと私もなの。だから今はさよならは言わない。そう決めていたの」

「だったら俺も言わない」

 二人は海を見ている。沈黙なんて気にならない。このまま時が止まってしまえばいい。二人は同じ想いの中にいる。


「明日のお昼頃には出発の予定なの。きっと来てね」

「うん。約束する」

「ねえ、その辺りに小さな石があるの」

 少年は少女が指差す方を一人で確かめに行く。雑草に覆われていたけれどそれは確かにあった。小さくて丸くて表面は少しザラついていて、ほんのり冷たい。


「あったよ」

「お願い。私をそこまで連れてって」

 少年は言われた通り手を引いて石の目の前で屈むと


「今からおまじない」


 少女はいきなりくちびるを強く噛む。血がすぐに滲んできた。その血を指で拭って石の表面にそっと付けた。

 少年には少女の思いを籠めた行為のように見えた。ただ黙って見ているしかなかった。


 私は息を殺して静かに見守る。

 少女は何度か少しずつ血を拭っては石に塗ってゆく。


 やっと終わったのか。ゆっくりと立ち上がろうとする。

 少年は少女が落ちないように手を取って一緒に立ち上がる。少女は笑顔で返してから今度は少年の顔を手でなぞる。血の付いた指が触れると少年の頬には微かに少女の血が付いた。


「田中君。忘れないでね。私はこの夏のことは絶対に忘れない」

「俺は忘れない。絶対に」


 いつの間にか空は茜色に染まっている。少女の流した血の色のように濃く深い赤。

 

 私は一歩も動くことができずに見入ってしまう。


 急に視線を感じた。


 今まで向かい合っていたはずの二人なのにアリアは私の方をじっと見ている。

 そんなことあるものか、そもそもこれは夢のはず。

 でも・・・確実に視線が合う。私は驚く。


「・・・・あ・・青い」


 色を失っていたアリアの瞳には今では夏の空のような青い色が宿っていた。


「・・・夏のフェアリー」


 アリアは何も喋ることなく私のことを微笑んで見ている。

 そこだけが切り取られた景色のようになっていて、今ならお互い触ることだってできそうだった。


 いやむしろそうしたのはフェアリーの方だ。ゆっくりと私に方に歩いて来る。さっきまでの二人は写真に閉じ込められた思い出のように身動き一つしていない。私も同じように動くことができない。


 目の前まで来てもフェアリーは笑顔のままじっと私のことを見ている。視線はどこか懐かしんでいるようにも見えるのは気のせいだろうか。


 この色の中で彼女の青い瞳の色はまるで青く光る星のように煌めいて・・・心を奪われそう。


「鈴音・・・やっと会えたね」

「え?・・・ラピス・・・なの?」

「ねえ持っているでしょ?」

 ラピスは手を差し出す。でも私にはなんのことかは分からない。戸惑っていると

「彼女が失くしたもの」

 彼女?それは誰のこと?もしかして夏のフェアリーのこと?それとも・・・アリアのこと?


 二人を重ね合わせると答えは自然と見つかる。二人が失くしたもの。


「・・・・・・これ?」

 ポケットの中には都合良くあの時の砂の入ったお守りがあった。

「返してあげて欲しい」

「え?これはただの砂・・・・・」

 その先を言おうとしたけどお守りは急に熱を帯びてくる。人肌よりは温かい。

「これは彼女のもの。これで願いが叶う」

「願い?」

「とても大事なことなの。私にとっても、鈴音にとっても」

 大事なこと?私にとって?それってどんなこと?

「・・・分かった。返すね」

「ありがとう」

 ラピスの手にお守りを渡すとこれ以上壊れてしまわないように両手で包んでから元の場所に戻った。

 物語の続きは再生される。けれどその先を知ることはなかった。何故なら目が醒めてしまったからだ。


 ベッドから飛び起きて急いで防波堤に向かった。今なら会えそうな気がした。けど確信はない。でも今は自分の勘を信じる。


 海には海水浴をしている人はほとんど残っていない。


 真っ赤に染まった空。その色を反射させている海。東の方角からは薄らと星の姿だって見える。

 

 今は走るしかない。会えるかも。会いたい。そんな小さな希望を抱えたまま。直走った。

やっと冬だなって・・・寒波。都内は寒過ぎです。

読んでいただきありがとうございます。

こんな時は身体を動かして汗をかこう。

私はあることで定期的に汗をかいています。

皆さまも寒波に負けずお過しくださいませ。

次回お会いできる時は少しは暖かくなっていればいいな。

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