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サヨナラをもう一度〜夏のフェアリーの物語〜  作者: マナマナ


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30/36

暗闇の中のさいわい

 とてもよく晴れた気持ちの良い平日。田中少年はバスに乗って病院に向かった。

 手には花束がある。これは先生の提案だ。

 何も持っていかないのは失礼だし、もし補導されそうになっても危篤の親戚に会いに行くとでも言えば見逃してくれるだろうと。おかげで何事もなく病院に辿り着くことができた。


 真っ白で大きくて無機質な建物。少年は今まで見た中で一番大きな建物だと思った。

 そこは絶えず人の行き来があり、少年は人混みをかき分けて中に入ると受付で名前を告げてアリアの病室を聞いた。

すし詰めのエレベーターに乗って三階に上がるとそれだけでゲンナリしてしまう。けれどやっとここまで辿り着いた。会えるんだ。緊張と期待で胸が張り裂けそうだった。


 アリアの病室があるフロアには人がほとんどいなくてひっそりとしていた。少年は部屋の番号を確かめながら進んでゆく。そして廊下の突き当たりのある部屋。ここが彼女のいる。心臓の鼓動がさらに速くなる。


 少年はなかなかドアを開けることが出来ないでいた。顔を合わせてなんて言葉を掛けたらいいのだろう?そんな考えが頭の中を巡っている。もしかしたら自分が来たことで嫌な気分になってしまうかもしれない。そんな恐れも芽生えていた。


 だからと言って何時までもこうしているわけにもいかない。


 顔を見たらすぐに帰ろう。


 そんな風に思うことでやっと少しだけ勇気が出てきた。そしてドアに手を掛けようとしたところでいきなりドアが開いた。少年はびっくりしたがドアの向こう側にも同じような驚いた顔があった。


「あ、あの何かご用?」

 少年の姿を見て声を掛けてくれた。見ると優しそうな女の人がいる。

 初めて会ったけれど咄嗟にアリアのお母さんだと思った。目の表情がとてもよく似ていたからだ。

 少年は唾を飲み込んで

「あ、あの、アリア・・さんの部屋はここでいいのですか?」

 声が心なしか震えていた。

 女性が答える前に少年の声に反応したアリアの声が耳に届く。


 視線をずらすと姿が見えた。ベッドに座っていてこちらを見ている、いや向いている。目には真っ白な包帯がある。心が痛む。少年は言葉を失った。


 あの時の光景がはっきりと浮かぶ。少年は反射的に頭を深々と下げた。

 続く言葉が見当たらない。だけど元気そうでいてくれたことが、それだけが嬉しかった。


「頭を上げてください」

 言われるまま素直に頭を上げた。

「田中くん、ここに座ったら」

 アリアはベッドの近くにある椅子を正確に指差した。きっとそこがお母さんの定位置なのかもしれない。


「嬉しそうね」

 母親は少年を案内した。

 椅子の前に立ってあらためて周りを見るとアリア以外誰もいない。

 真っ白な壁、真っ白な天井。真っ白なシーツそれに真っ白な包帯。そのせいかアリアの金色の髪が良く映えて見えた。椅子に座る前に

「こ、これ」

 持ってきた花を差し出した。アリアは匂いで分かったみたいで

「いい匂い。ありがとう。ママ、もらっちゃった」

「キレイなお花、ありがとう」

 母親はアリアから渡された花を花瓶に移し替えるため部屋を後にした。


 ドアが閉まると少年と少女二人きりになる。

 少年はうまく彼女の顔を見ることができない。だからしばらく黙っていた。少女は少年の気持ちを雰囲気でなんとなく察していた。


「お見舞いに来たんでしょ。なんでそんなに静かなの?」


 少女に言われるとなんだか自分の方が励まされているような気分がする。

 違う・・・俺が落ち込んでいる場合じゃない。

 両手で頬っぺたを叩いて気合いを入れ直した。

「そうだ。お見舞いに来たんだ。ここは先生から聞いた」

「うん」

「転校のことも聞いた」

「うん」


 そこでまた話題が途切れてしまう。


「他には?もっと聞きたいことあるんじゃない?」


 そうだ。もっと聞きたいことある。

 けれどそれは聞いてもいいことなのだろうか。でも聞かないとならない。

 そう思うのになかなか言葉が出てこない。でもこのまま黙っているわけにもいかない。

「・・・良い天気だね」

「そうみたい。ねえ、そんなこと分かるわ。もっと田中君の知りたいこと聞いて欲しいな」

 アリアは自分の方からは言わないことを決めているようだ。

 

 いずれ聞くことになる。いや、ちゃんと聞かないとならないんだ。でもまだ準備ができていない。

 今は会話が途切れないように言葉を繋ぐことに集中した。


「君とお茶が飲みたかった。本当に楽しみにしていた」

「ちょっと待って。また君って言う。私は君って名前じゃないんだけど」

「ご、ごめん。アリア・・・こんなことになって・・・俺はどうしたらいい?」

「ちゃんと言えるようになった。私もあの日は楽しみしていた。パパに頼んでイギリスから美味しい紅茶を用意してもらっていたの」


 あんなに辛いことがあったのにどうして笑っていられるのだろう。少年は不思議だった。


 もし自分が同じ目にあっていたら笑うことなんてできない。

 絶望の中で誰かを、何かを恨んでいるかもしれない。

 

 アリアは俺が不安にならないように振る舞っているとしたら、俺は、自分がどれだけ小さくて意気地なしなのか。痛感してしまう。

俺は彼女の誠意にちゃんと答えないといけない。現実は残酷だ。この事実は変えることなんてできやしない。だから向き合うんだ。ちゃんとアリアの目を見て


「・・・・・俺は今から本当に聞きたいことを聞く」

「うん・・・田中君には知っておいてもらいたい」


 まだ笑顔は保たれている。けれど何かの加減で簡単に壊れてしまうような気がしてならない。それが痛いほど分かるから少年は少しだけくちびるを強く噛む。最初の一言を出すための生け贄みたいに。血の味が口の中に広がってゆく。


「・・・・目は治るのか?」


 やっと出た言葉だった。

 現実を見ているからその希望は叶わないのは分かっている。答えは彼女の言葉でちゃんと聞かないといけないんだ。


「やっと聞いてくれたね」

「アリアは俺を庇ったから、だから大きな傷を負った。すぐに言葉にできなかったのは俺が本当にただの意気地なしだから。・・・怖くて聞けなかった。ほんとは真っ先に聞けば良かったのに」

 少女は笑顔のまま首を横に振る。それを見た瞬間、分かっていたけど体から力が抜けてゆく。

「もう二度と?」

 同じ答えで返ってくる。

「・・・ごめん」

「なんで謝るの?」

「分からない。俺には他の言葉が思いつかないんだ」

 溜息が出る。もう二度と彼女は自分の目で世界を見ることができないんだ。


俺に一体何ができる?何もできやしない。

突きつけられた現実が何もできない事実がただ辛い。

この気持ちは一体どこに行けばいいんだ?やり場のない気持ちはずっと心の中を彷徨っていた。


「ごめんね」


 え?なんで?

「・・・な、なんで?アリアは謝ることなんてどこにもない」


 初めて少女は声を振るわせる。包帯が涙で滲む。少年は立ち上がって思わず彼女の手を取った。


「アリアが謝る理由なんてどこにもない」


 しばらくそのままでいた。音は静かに流れてゆく。二人の間には世界に溢れている音という音がかき消されてゆく。今はお互いの呼吸の音がやけに大きく聞こえる。


「・・・今は・・ずっと・・真っ暗。でも・・・・・それでも今の私は幸せを感じている」


 その言葉の意味は理解できない。

 君の目はもう二度と光を映すことがないのに、何故そんなことが言えるのか・・・分からなかった。


 急に電話が鳴って私はビックリした。そして話は掻き消されるみたいに唐突に終わった。


 電話から戻って来た田中のじいさんは続きは次の機会に。ということになった。私は明日でも良かったけど。


「悪いな。ちょっとやることができた。今度はこっちから鈴音ちゃんのところに行く」

 田中のじいさんはそう言ってくれた。私も了承するしかなかった。

本日も季節外れの暖かさ。まさに小春日和。

読んでいただきありがとうございます。

梅がチラホラ咲いているとニュースで見ました。

春にはまだ遠い。でも季節は確実に移り変わってます。

いつだって幸せはすぐ傍にあるのにね。

こんな日には深呼吸しよう。どう?気持ちいいでしょ。

次はもっと軽やかな気持ちでお会いしましょう。

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