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サヨナラをもう一度〜夏のフェアリーの物語〜  作者: マナマナ


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田中のじいさんと田中少年

 麦わら帽子を手にして田中のじいさんの家に向かう。

 私は冷蔵庫にあったゼリーをお土産として持ってゆくことにした。これはお母さんには内緒で持ってきている。後で怒られるかもしれないけれどその覚悟はできている。


 呼び鈴を押すとインターフォンからじゃなく大きな生声ですぐに返ってくる。けれどなかなか姿をあらわさない。ということは葵さんはもういないんだ。車がないからすぐに分かったけど。


「は〜い・・・ちょっと待ってね」

 ようやく人影が磨りガラスに映る。ゆっくりドアが開く。

「お〜鈴音ちゃんか。葵なら今さっき東京戻るって出て行ったばかりだ」

 目の前には半袖にサルマタ姿がある。

「あの・・・葵さんじゃなくておじいさんに聞きたいことあります」

 私は紙袋を出して頭を下げた。田中のじいさんは何か考えるように頭をポリポリ掻いて

「分かった。上がりなさい」

 声は何時になく冷静だ。何を聞きたいのか分かっているとでも言っているみたいに。

 『はい』と言ってから私は玄関に入った。


 私は玄関脇の部屋に通された。奥ではテレビの音がしていたが、麦茶を持ってくると言って奥に行くと同時に音は消えた。

 部屋は畳だったけど藤でできた椅子とテーブルが置いてあって窓は全開でそこから風が優しく入ってくる。手前の椅子に座って戻って来るのを待っていた。

 ふと思う。今日は昨日なのだろうかと。


「お待たせ」


 私の目の前には麦茶とお土産で持ってきたゼリーがお皿に盛られてスプーンと一緒に置かれた。さっきまで冷蔵庫に入っていたからとてもよく冷えているのが見ていて分かる。

 田中のじいさんも私と同じように自分の前に置いてから向かい側に座った。

 何から聞いたらいいのかな。それとも何から話した方がいいのかな。

 とりあえず

「い、いただきます」

 私は麦茶を一口飲んで口の中を潤す。

 田中のじいさんは手を付けることなく私のことをじっと見ている。それはいつになく真剣な眼差しだった。


 どこから切り出そう。そんなことを考えていると蝉の声が妙に大きく聞こえてくる。聞き慣れているはずなのに、蝉の声ってこんなに大きかったっけ?

「葵から聞いたんだろ?」

 最初に口を開いたのは田中のじいさんだ。やっぱり・・・私の目的がなにか分かっている。

「はい。聞きました。私が知りたいのはアリアさんのことについてです」

 私は葵さんから聞いたところまでを簡単に話した。それに付け加えるように

「今日、彼女の家だった洋館に行ってきました」

 田中のじいさんは麦茶を手に取って一口飲んだ。

 少しでも言葉が途切れるとなんでこんなに蝉の声が気になるのだろう。


「確かに大きな洋館だった。どこもかしこも見たこともないくらい豪華で、それにとても明るかった。けれど今はそんな面影はない。ワシは年に一度、必ずあの場所に行くことにしている。年を重ねる度に荒廃は進んでゆく。あと何年かしたら完全に崩れてしまうだろうな」

「毎年・・・・・・」

 田中のじいさんは遠い昔を思い出すために目を閉じて大きく深呼吸をした。

 けれどそんなことをしなくても、そのことはいつも隣りにあるような感じがする。これはきっとそのことを口にするための儀式のようなものかもしれない。



「中でお茶でもどう?」

「いや、君が学校に来た時に取っておこうと思う」

「また君って言う」

 少年は少し顔を赤くしながら名前でちゃんと言い直した。

「私が学校に行ったら一緒にお茶を飲んでくれるのね。ということはまたここに遊びに来てくれる。そう思っていいのかしら?」

 嬉しそうな顔をしているのは何故だろう?少年はそんなことを思っていた。けれどそのことに同意することで彼女がまた学校に来てくれるならお安御用だと思った。

「いいよ。それで。ア、アリアがそれでいいなら。俺もそれでいい」

 まだ照れがある。どうしても彼女の名前を言う時、緊張して素直に言葉に出来ない。少女は少しだけ考えているようだ。そして

「えっと・・・学校に行くことって私にとっては割と大変なことなの。でも田中君がまた遊びに来てくれるなら・・・頑張ろうって今は思えるの。でも明日は駄目、それに明後日も。理由は聞かないで欲しい。だから行くなら土曜日になると思う」

 土曜日。それは三日後だ。少年は頭の中で計算する。なんで木曜日や金曜日では駄目なのだろう。でも余計なことは今は聞かないことにしよう。せっかく学校に来るという気持ちになったのだから。とりあえず今日の目的は果たした。

「分かった。土曜は半ドンだから学校が終わったらここに来る。それでどうかな?」

 少女は『うん』と言って笑顔になる。その瞬間少年の心臓は思いっきり脈打つ。その笑顔をいつまでも見ていたい。そんなことばかり頭の中を駆け巡る。俺は一体何を考えているんだ?少年は正気に戻るために両手で顔を叩く。おかげで冷静さを取り戻すことができた。

「分かった。土曜日に待っている。それに安心して欲しい。・・・・ア、アリアは誰にも苛められないように俺が守るから」

 少女は少年の両手を取って顔を近づける。あまりにも近くて思わず目を閉じる。少女の甘い匂いがどんどん強くなって、やがて頬に柔らかな感触を覚える。少年は自分がされていることを理解する。けれど目でちゃんと確認することは出来なかった。

「約束のおまじない」

 そして離れてゆく感触。なんだか体中の力が抜けてゆくみたいだ。

「ねえ、聞いてる?」

 ゆっくりと瞼を開くと少女は元の位置に立っている。少年は踏ん張って

「ああ。聞いてる。約束だ」

 少女は頷いて

「じゃあ土曜に」

 玄関にいるアリアの姿が見えなくなるまで少年も見ていた。それから振り返えるとまた静かな山道を来た時と逆に歩いて帰っていった。


 ここで一旦休憩。くちびるを無意識に触っていた。

 私・・・なんだか照れてる。男の子にそんなことをすることは今はまだ想像することだって出来ないのに・・・

 氷がすっかり溶けてしまった麦茶を一口飲んでから暑さでぐったりしているゼリーを食べた。けれど味なんてよく分からなかった。


 土曜日。

 少年は彼女の姿が見えるまでずっと校門で待っていた。なかなか姿を見せない。もしかしてなんて思いも心の中を過るようになっていたとき、遠くからでも目立つ彼女の金色の髪が見えた時は安心したのもあったがほっぺたに受けた感触が蘇ってきた。

 実はここ何日かは気が付くと頬を触っている自分がいた。その度に耳が熱くなる。少年は思いっきり深呼吸をして気合いを入れて彼女の元まで走った。


「お、おはよう・・・ありがとな来てくれて」

 少年は少しだけ照れくさく言う。

「うん。約束したから」

 アリアはずっと不安そうな表情をしていたが少年と会えたことで少しだけ笑顔になる。

「行こう。大丈夫」

 少年は教室に行こうと振り向く。けれど

「な、なんでシャツを引っ張るんだ?」

「ホントは・・・まだちょっと怖いの・・・」

 今度は少女は手を差し出した。この意味を少年は理解した。みんなが見ている前ではその期待に答えることはできそうにないけれど彼女の不安一杯の目を見ていると少年は決心した。

「わかった」

 指先だけで繋がれただけのお互いの手だけれどもアリアがホッとしているのが伝わってくる。

 こうなったからには少年も覚悟を決めた。しっかりと手を握り直してから真っ直ぐ前を見て歩く。歩調は彼女に合わせているから自分のいつのもペースよりは少しだけ遅い。でも確実に教室に向かっている。

 同級生とすれ違う。何か言われるだろうと思っていたが意外にもそんな視線を向けられることがあっても誰一人彼らをからかったりする者はいなかった。


 教室の扉の前に到着するとアリアの指先に力が入るのが分かる。少年は大丈夫という想いを込めて同じように指先に力を入れて答えた。

 お互い顔を見合わせて教室に入った。その姿に誰もが彼らに視線を集中させている。

 多分俺達がいない間にいろいろ噂していたのだろう。それまで騒がしかったのに今では水を打ったように静かだった。

 少年はすでに腹を括っていたから何も怖くはない。冷やかしたければすればいい。俺のことは何を言っても構わない。でもアリアには絶対そんなこと言わせない。

 少年の決意は再び強くなった掌でアリアに伝わっていると願っていた。

社会は通常に戻りました。次は節分か?それともバレンタインか?

読んでいただきありがとうございます。

ちょっと昔(どれくらい昔かは感覚による)花園神社の節分は良かったな。

いろいろな企業がいろいろ持ち寄って福袋を作って来た人達に配っていました。

何が入っているかはその時のお楽しみ。

物語もどんな風に進んでいくか。それは私にも未知で楽しみです。

次も読んでもらえたら・・・そう思って書いています。

展開どうなる?それは次回に。

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