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サヨナラをもう一度〜夏のフェアリーの物語〜  作者: マナマナ


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24/37

もう一度あの場所に


 昨日は一体どこまでが現実でどこからが夢だったのか。

 それとも全部が現実で全部が・・・そんなこと考えたら考えただけよく分からなくなる。でも私はそのどちらも今は望んでいない。

 私は本当のことを知ってしまうのが怖いかもしれない。


 朝になって目が醒めてぼんやりと窓の外を見ている。

 この分だと今日も昨日と同じなのかも。私はそのことがだんだん受け入れられていく。きっと今だって防波堤ではびっくりするくらい魚が釣れているはずだし、波乗りの人達だってご機嫌な波にその身を任せていることだろう。

 最近の私はこの時間にはもう海に行っているのに今日はなんだか足が重い。気持ちでは行きたいのに、足の方が意思に反して嫌がっているように感じる。


 ラピスは今頃私のこと探しているのかな?それとも一人で海を見ながら物語のことを考えているのかな?それとも・・・夏のことを考えているのかな?

 スマホを手にして地図アプリを見る。そして昨日自分がピンをしていた場所を見る。

 もしかして消えているかと思っていた。けどそれはちゃんと記録として残っていた。ちょっとだけスマホを持つ手に力が入る。私は思いきって

「・・・あ、あの、もしもし」

 遠くで波の音が聞こえる。


「おはよう、鈴音。どうしたの?こんなに朝早く」

「あの、おはようございます。今って忙しいですか?」

「忙しいと言われればそうかもしれない。でももう今日は切り上げようと思っていたところ。だから電話にも出れた」

 私は『そうですか』とだけ言って次の言葉を探す。一体どこから話し始めようか。その間もスマホの向こう側では波の音が続いている。それに葵さんの微かな息づかいも。


「今日時間あったら・・・えっと、今から会えませんか?」

 すぐに答えは返ってこない、けど何かを感じて考えているのはスマホ越しに伝わってくる。

「確かめたいことあるんです」

 まだ答えは返ってこない。耳に入る風の音はとても澄んでいた。それはとても気持ちが良い感じがする。

「いいよ。私が迎えに行った方がいい?」

「いえ、私がそこまで行きます。その方が早いですから」

 葵さんは『わかった』と言って電話は終わった。


 私はお母さんに話してからいつものように麦わら帽子を被って海に向かった。なんとなく自分の周りを見回してみる。

 私は何を気にしている?そんなこと分かっている。

 ラピスの姿はないことに自分でも驚いている。けど、ホッとしてる。今日はまだ彼女と顔を会わせるにはまだ早いと思う。

 もう一度だけ周りを確かめてから葵さんの元に向かった。


 海岸に到着しても私はずっとラピスの視線を気にしていた。けれど出会うことはなかった。

「お、お待たせしました」

 葵さんの方はすっかり着替えも終わってすでに準備が整っていた。

「いやいや、思ってたより全然早いから。で?すぐ出るの?」

「できれば」

「分かった。じゃあ行こう」

 並んで駐車場まで歩く。その間は特に会話はなかった。

 それよりも気になったのは昨日はこの時間にはもうラピスと会っていたのに今日はいない。それとも私のことをどこか遠くから見ているのだろうか。いや、そんなことしないと信じている。そんな姿は彼女には似合わない。理由はそれだけ。


 真っ赤な車はもの凄く目立っている。葵さん曰くスポーツカーはワザと目立つための色をしているそうだ。理由を聞いても免許のない私にはイマイチピンときていない。

 車の屋根には役目を終えたボードがあった。風に運ばれた砂がボンネットに薄らと積もっていたけど、そんなことしても真っ赤なボディはとても隠せそうにない。葵さんはフロントガラスの砂だけ軽く手で払ってから乗り込む。私も同じようにして助手席に座った。スターターを入れると重低音サウンド気味のエンジンに火が入る。それはうなりのようにも聞こえるし、体にも重たい振動を響かせている。

「それで行き先は?」

 私はポケットからスマホを出して画面を見せると葵さんはカーナビに入力する。葵さんは特に何も聞いてこない。今のところ。

 カーナビのセッティングが終わると車は動き出す。窓からはまだ生まれて間もない太陽があって空は同じように青い。

 まだ朝早いせいなのか、葵さんの運転はずいぶん穏やかだ。それは朝早くマラソンをしている人のように。


 海岸線に沿った道路に出てもその運転は変わらない。私は穏やかに流れてゆく景色を見ていると

「今から行くところって、もしかして昨日話した場所?」

 そっか。気が付いていたんだ。

「・・・たぶん」

「よく場所が分かったね」

「・・・実は私、昨日そこにいたんです。でもよく分からなくて。だから確かめたいんです」

 言葉通り確かに私はその場所にいた。そこはラピスの家だ。ちょっと殺風景だったけど、そこには彼女の生活があるはず。お茶を一緒に飲んだし、私が持ってきたどら焼きだって食べた。最初にアールグレイ、その次は緑茶。でもそれからの記憶がない。次に私が認識しているのは葵さんの顔だった。抜けている空白はどこか靄がかかっているみたいに不透明で、私は記憶を取り戻すためにも行かないとならない。一体あの後彼女との間に何があったのか。それは絶対に知らなければならないんだ。


 やがてカーナビが曲がる指示を出す。この先は山道になっている。それは間違いなく私の歩いた道だ。葵さんはギアを落とすとエンジン音は一オクターブくらい下がって坂道をどんどん登ってゆく。歩いていると結構な距離だったけど車ならあっと言う間だ。進んで行く中であの横道も出てくる。この先に何があるのかは知っている。そこから眺める景色は葵さんは見たことあるのかな?


「もうそろそろ着くよ」

「はい。右側です」

 カーナビは目的地に到着したことを伝えて案内は終了した。目の前には昨日と同じ洋館がある。朝日を受けて明るいはずなのにそれは昨日以上に古くて荒びれているように見えた。

「ここか・・・来たの初めてだ。というかこんな場所にこんなのがあるなんて知らなかった」

「葵さんでも?私も昨日までは知りませんでした」

 車を降りて二人で見上げる。窓にはカーテンがあったりなかったり、ガラスはところどころ割れていた。あらためて見ると庭だって雑草で被われているし、玄関は何年も開くことを忘れてしまったみたいに固く閉ざされている。ホントに昨日ここにいたのだろうか?自分のことなのに確信が持てない。


「もうずいぶん長いこと放ったらかしているみたいだね。鈴音はそれでどうしたの?」

 葵さんにもそんな風に映って見えるんだ。ここには私の大事な人が住んでいる。とは、なかなか言い出せない。どう紹介したらいいのだろう。とりあえず昨日のこと話す。

「中に入りました。友達の家だから」

 葵さんは私のことをじっと見てからまた建物を見ると今度は玄関に向かって歩き出す。

「そっか・・・ところでお腹空いてない?その友達誘って朝ご飯食べに行こうってことで」

 葵さんは扉に付いている金具でコンコンとする。けれど反応がない。もう一度同じことをしても同じだ。

「誰もいないみたいだね」

 私は思いきってノブに手を掛けてみるとそれは簡単に動いた。

 少しだけ開けると中からは古い空気の匂いがする。その隙間から葵さんが覗き込んで今度は声で呼び掛けてみる。けれどやはり何の反応もない。もしかしてラピスはもう出掛けてしまったのだろうか。いくら人が来ないからって鍵を掛けないなんてことあるのだろうか。そんなことに思いを巡らせていると

「・・・どうするか。入ってみる?」

「でも・・・もしラピスがいたらびっくりさせるかも」

「・・・ラピス。それが友達の名前?」

 葵さんには言ったことなかったかもしれない。いや、あえて言わなかった。だってそれは彼女の本当の名前ではないのだから。だから頷いて答えるだけにして

「入ろう。葵さん」

 ドアをイッキに開けると昨日と同じ風景なのに時間の流れが全然違う。

 窓から差し込む光に反射する埃が私達とは違う時間を形勢しているみたいにチラチラと穏やかでゆっくりと空間を漂っている。

 廊下に敷かれている絨毯は昨日よりももっと綻びている。よく見ると床に穴が開いているし板が剥がれているところもある。どう見てもここは忘れられた場所みたいに見える。


「やっぱりただの廃屋みたいに見えるけど、鈴音は本当にここに来たの?」

 葵さんは近くの壁を擦ってみる。指は黒く汚れていた。

「うん。でも今よりは少しだけどまだ人が住むくらいにはきれいだった。絨毯は古かったけど汚くはなかったし、床に穴なんてなかった。二階にも行ってみたいです」

 葵さんはちょっと考えてから一旦外に出るとすぐに戻ってきて

「ここから先は危険かもしれない。だから行けるところまでってことなら。でいいかな。怪我なんてしたくないしね」

 見ると右手には庭で拾ってきたのだろう。腰くらいの長さの木の枝がある。それで床を軽く叩くとコンコンと乾いた音がする。

「こうやって床の状態を確かめながら行く。そして私が危険と判断した時は引き返す。約束出来るよね、鈴音なら」

 頷いて同意する。もし怪我なんてしたらどんなに私が説明しても葵さんのせいになってしまう。そのことだけは避けなくてはならない。ただでさえ時間を作ってもらって連れて来てもらったのだから。それにこれは私の個人的なわがままなのだから。

「よし。じゃあ二階を目指そうか」


 先に枝で床を叩いて問題ないなら進む。ゆっくりと数歩ずつしか進めないから階段に辿り着くまでに時間がかかった。昨日と同じで立派な手摺がある。けれどそこには埃がたくさん降り積もっていた。指でなぞるとはっきりと後が残る。それから一段ずつ慎重に登る。今のところここまでは何の問題もなかった。

 無事に階段を登りきると左に方向を変える。一度だけ閉ざされいる扉に手をかけると昨日は開かなかったのに簡単に開いた。覗くと何もないがらんどうの空間でしかなかった。

 そして突き当たりの部屋。ラピスに部屋だ。私は手を伸ばす。けれど

「あ、あれ?開かない。鍵が掛かっているみたい」

 今度は葵さんがドアノブをガチャガチャ音をさせながら動かしても変わらない。昨日とは真逆みたい。ドアの外側から私は声を掛けてみる。

「ラピス。私、鈴音。ねえそこにいるの?ねえ」

 ドアをノックしてみても何も返ってこない。多分そうだと思った。

 でももしドアが開いたら・・・私は一体どんな顔をしていたらいいのだろう。これで良かったんだ、むしろどこかホッとしている自分がいる。もうここまででいいよね。私は自分自身に言い聞かせてこれ以上ここに留まることを諦めた。

「帰ろう、葵さん」

「もういいの?」

「うん。昨日はこの扉は開かれていた。でももうこの部屋は昨日とは違う」

 来た道を戻ろうと振り返った時、どこからか風が入ってくる。それは夏の風とは真逆の冬の風のように冷たくて乾いていた。思わず身を縮めた。

「な、なに?急に?さむ・・・急ごう」

「待って葵さん!誰かいる」

 私を視線で捕らえているいるのはラピス?それともフェアリーなの?

 今、自分はどっちを望んでいるのか、答えなんて分からなかった。

来年の目標は何にしようかな。

読んでいただきありがとうございます。

やっぱり健康かな・・・年末珍しく体調を崩しております(泣)

咳をする度にキーを打ち間違えてストレス1000パーセント。

『君は1000パーセント・・・』懐かしい曲です。

風邪にも負けずアップは続けていきますので

次回もよろしくお願いします。


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