金色の髪の転校生
私は姿勢を正して葵さんの言葉に耳を傾ける。
「この前、鈴音が言っていたことだけど」
思わず唾を飲み込んだ。何か分かったのかな。分かったから今こうしてここにいるんだよね。一体何が分かったのかな?
妖精には良い妖精もいれば悪い妖精もいる。夏のフェアリーはどっちなのだろう。
私はじっと葵さんを見つめたまま言葉を待った。
「昨日おじいと話していたらふとこんなこと言ったんだ。この世界には季節を司る妖精がいると。その妖精は季節と共にやって来て季節と共に去ってゆく。去った後には次の季節の妖精が世界に腰を下ろすって。なんで急にそんなこと言い出したか分かんない。その先を聞こうとしたがおじいは口を閉ざしてしまった。今は夏だから鈴音の探している夏のフェアリーがいると仮定するとその妖精は季節のためだけに存在意義がある。基本的に人間と交流を持つことはない。稀に波長があった人間が近くにいたら姿を現す。今回は鈴音の波長がたまたま妖精とリンクしたんだろうな」
「あ、あの、それって、マズいことなのでしょうか?」
恐る恐る聞いてみる。今までは悪いことなんてない。私はラピスのことをそういう目で見たくはない。だからもし明確な答えがあるなら知りたい。
「さて、ここからはあくまで昔話だと思って聞いて欲しい。おじいも六十年以上前のことだからどこまでが真実でどこからが記憶の掛け違いかが分からない。まあ、本人は絶対忘れることのできないことだったって言い張るから、その辺は尊重するとしても老人の記憶ほど遠くなればなるほど美化されていると私は思っている。でもなかなか興味深い話が聞けたことは確かだ」
葵さんはお茶を飲み干すとミヤさんがすぐに新しいのを注いでいた。カップから立ち昇る湯気は静かに空に吸い込まれてゆく。
「おじいが鈴音くらいの歳に転校生がこの町にやって来た。金色の髪をした異国の女の子が。戦争が終わってそんなに経っていない時だったから、クラス中、いや学校中恐れと興味でなかなかの騒ぎになったらしい。その頃の日本人は戦争に負けた背景もあって外国人に対してはかなり偏見を持っていた人が多かったからな。おじいのおじいも戦争に行っていたから余計にいろいろなことを聞かされて育ったせいもある」
金色の髪の女の子?
すぐにラピスの顔が浮かぶ。これって単なる偶然だよね。今時金髪なんて珍しくなんてない。けど当時はやっぱり相当珍しかったんだろうな。
戦争のことって言葉は知っているけど、私から見たら遠い昔のことだから現実にあったこととして感じることが出来ない。歴史の教科書の中の出来事としか受け止めることができない。
たくさんの国がたくさんの人を・・・考えたくもないけどやっぱり現実のことなんだろうな。夏になれば必ず終戦記念日のニュースが流れている。けれどそれすらなくなったら完全に忘れてしまうだろう。私にとってはそれくらい希薄なことにしか感じられない。
「最初は誰も声を掛けられなかった。というのも英会話なんて誰も出来なかったから仕方なかった。でも問題はすぐに解決する。その子は日本語を話すことが出来たから。あとで分かったことだけどその子は日本生まれの日本育ちだったんだ。戦時中その子のおじいさんが技術者として日本やって来た。そして終戦になり彼はアメリカに帰らずにそのまま日本で人生を終えた」
葵さんは前の時と同じオランジュリーを迷うことなく選んで自分のお皿に置いた。余程気に入っているのだろうな。もし葵さんが取らなかったら私が取ろうと実は狙っていた。
「あの、それって葵さんが調べてくれたんですか?」
「まさか。全部おじいから聞いた。私も同じこと訪ねたんだ。偏見は多少あったけど、おじいの場合は興味の感情の方が強かった。新しいクラスメイトができたんだ。初めて間近で見る金色の髪。仲良くなりたい気持ちがあったんだ。だから日本語が話せると分かった時から積極的に話しかけたらしい。まあ、あの性格だし。納得したよ。
でも他はそうじゃなかった。ある日その子のお弁当がなくなったんだ。クラスの誰かが嫌がらせで隠したかしたことは分かっていた。でも誰も言い出すことはしなかった。お昼にはその子はじっと席に座っていたんだって。事情は分かっていたしおじいはそういう行為が嫌いだったから真っ先にその子のところに行って自分のおにぎりを分けてあげたんだって」
「うわ〜、なんかいい話」
ミヤさんは手を合わせて言う。私も田中のじいさんならそうすると思う。
「まあ、ここまで聞けばそうなる。けど、そのことをきっかけに彼女の風当たりはだんだん厳しいものになった。おじいも一人だと庇うことが難しくなった。協力してくれそうな仲間もいない。そして体育の時間、みんなで野球をしている時に事件が起きたんだ。誰かが故意に彼女にボールじゃなくて石を投げた。それに気がついたおじいは体を張って防いだんだ、けど当たった場所が悪かった。頭に直撃して切れて血が流れた。その結果イジメの事実がやっと先生に届いたんだけど・・・次の日から彼女は学校に来なくなった。おじいの方は、まあ、血がたくさん出たってだけで怪我は大したことはなかった。石頭で良かったなんて笑ってたけど、ほんとはすごく怒っていたと思う」
良かった・・・彼女に怪我がなくて。田中のじいさんには悪いけど・・・女の子にそんなことするなんて許せない。っていうかそういった行為自体が平気で行われていたことに時代を感じる。
私はいつしか彼女とラピスの姿を完全に重ねていた。もし同じことが起こったなら私だって田中のじいさんと同じことをすると思う。石頭じゃないけど。いじめなんて最低。そんなことをする理由なんてどこにもないのに。
「それでどうなったの?」
ミヤさんは心配そうな顔で聞く。
「三日くらい経って、おじいは担任に彼女の家を聞いて訪ねたんだって。その子の家は町から離れたずっと山奥にある大きな洋館だった。今はもう誰も住んでいなくて廃墟になっているみたいだけど、この町の人ですら知っている人はほとんどいないだろうって」
もしかして、それって。
心臓がトクンと音を立てた。
廃墟のような大きな洋館。それは間違いなくラピスの家のことを言っているよね。
「おじいの話だとお母さんは日本人だったって。だから彼女自身はハーフかクォーターってことになるのかな。父方の血が色濃く出たから見た目はほとんど外国人だったし金髪だったけど瞳の色は黒かったみたい。学校じゃ前髪でよく見えなかったみたい。彼女の家で会った時前髪を上げていたからはっきり見えたって」
それだと違う。ラピスの瞳は海や空のように青い。ちょっとだけ私の中で距離ができた。
「葵のおじいちゃんって真っ直ぐだよね」
「今はただのじじいだけど、写真で見る限り若い時はそれなりにイケメンだった。歯もちゃんとあるし髪だってある。ミヤも写真みたことあるよな」
「あるある。確かにね。でさ、二人はその後どうなったの?」
「どうなったか・・・何期待しているか分かんないけど、現実は漫画のようにはいかない。彼女は・・・・・・」
葵さんは少しだけ目を閉じる。聞いた話をそのまま伝えるための儀式みたいに。
私もミヤさんも葵さんは話し始めるのを無言で待った。
星の瞬きはさらに強くなって私達を優しく照らしている。
どうか。幸せな結末が待っていますように・・・私は密かに星に願っていた。
ついに今月も残り半分になりました。今年もカウントダウン間近です。
読んでいただきありがとうございます。
これから幾つかの天体ショーが待っています。
空気が澄んでいてきっとよく見えることでしょう。(晴れていれば)
これまで流れ星に願い事をしても叶ったことがない私です。(願いが強欲過ぎた)
でも今は一人でも多くの人に読んでもらえたら・・・
星に願うなんて他力本願かもですが、願い事をするってなんか素敵です。
次回も来てくれたら嬉しいです。あ!流れ星・・・間に合わないのが玉に瑕。




