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サヨナラをもう一度〜夏のフェアリーの物語〜  作者: マナマナ


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真っ赤と真っ白

 朝は何食わぬ顔をしてやって来る。それは一日経った朝なのか、昨日と同じ朝なのか。

 私にはどっちだっていい。結局は同じ七月の夏の朝なのだから。


 今日も同じように麦わら帽子を被って海を目指す。昨日よりも早い時間。お母さんもお父さんも夢の住人だから静かに玄関を閉めて外に出る。ラジオ体操だってまだ始まっていない。

 町は夜の続きのような静けさで満ちている。ときおり鳥が啼いていないと月と太陽が入れ替わっただけの世界のようにも感じる。ビーチサンダルがアスファルトに擦れる音がこの世界に響いている唯一の音のように感じる。なんだか世界にたった一人、取り残されたみたいに感じる。

 そう思っていたのも束の間だった。

 海に着くと既に何人かの波乗りの人達が準備を始めている。その光景を見ていると一際目立つ色を見つける。

「あれって・・・」

 私の目には間違いなく知った顔が映る。向こうも近づいてゆく私の姿に気が付いたみたいで

「おはよう。早いね。散歩?」

「おはようございます。まあ、そんなところです。それより葵さんってサーフィンするんだ」

 車の色と同じ赤いウエットスーツに赤いサーフボード。間違いない。この人の好きな色は赤色だ。なんてことを今さらながら口にすると

「いまさら?ま、そういうこと。ここの波は最高だよ。毎年楽しみにしてる。鈴音は?やらないの?」

「ええ、私、運動はイマイチなんです」

 誤魔化すために笑った。本当は小学生の頃お父さんに無理矢理やらされたことがあった。あの時は怖かったし溺れた苦い経験が蘇る。もうあんな経験はしたくない。それに波に乗れないからといって人間の評価が下がるわけでもないよね。


「楽しいよ。教えるからやってみない?」

「いえ、ほんと大丈夫です。それにしてもみなさんホント朝早いですよね」

「まあね。海水浴客はいないし、朝の方が波がいい」

「それじゃ私行きます」

「ええ。またね」

 手を振ってその場を後にする。葵さんはボードを抱えると波に向かって海の中に入ってゆく。バドリングしている姿は海の中で真っ赤な金魚が泳いでいるみたい。

 防波堤に視線を向けてみると昨日と同じように何人かの釣り人がしきりに竿を上下させている。今日もよく釣れているのかな。ここからじゃよく分からないけどラピスの姿は見えなかったしタナカのじいさんの姿もいないような感じがする。

 ・・・行ってみよう。

 こうすることが最近の日課になっているみたい。それに約束したんだ。今日もどこかでラピスに会うことができる期待を胸にして歩き続けた。


 防波堤に着く頃には釣りをしていた人達はそろそろ引き上げ時だと言わんばかりに片付けを始めていた。辺りには釣った魚やエサの臭いがする。みんな口々に今日も釣れたとか、最近は釣れ過ぎてちょっと変だ、なんて会話が聞こえる。田中のじいさんが聞いた通りみんなはあまりにも釣れ過ぎているこの状況にかえって不安な気持ちになっているみたい。

 確かに昨日の今日がまた昨日なら同じことの繰り返し。そんな風に思うことができる。

 けど私は、ううん、私達はちゃんと昨日の記憶を持ったまま次の日を迎えている。だから同じような日が続いているだけで決して昨日と同じ日なんてことはありえない。私はラピスの言葉に縛られているだけなのかもしれない。

 タナカのじいさんの姿はなかった。


 ほら、昨日とは違う。今日は今日で新しい一日になっている。それは間違いのないことだよね。昨日の記憶だって私にはちゃんと残っている。どんなことをして誰と喋って・・・ちゃんと憶えている。

 自分に言い聞かせても空の色とか風の匂いとか、釣りの人達・・・見ているとよく分からなくなってくる。ホントに一日経っているのだろうか?一体どこでリセットされているのだろう?


 気が付くと防波堤には私の姿しかなかった。そこから見える波乗りの人達。葵さんはすぐに見つかった。あんなに派手な色、他にいないからね。どうやらこっちに手を振っているみたい。だから私も手を振って答えた。


「おはよう鈴音」

「おはよう・・・ラピス」


 こうなることが分かっていたからいきなり声を掛けられても驚くことはない。むしろ今日も会えたことに安心感を覚える。


「今日は早いね」

「そっちこそ。いつもなの?」


 向かい合うと自然と笑顔になる。

 相変わらずの真っ白な帽子に真っ白なワンピース。昨日と何も変わっていないのに真っ白なワンピースにはどこにもシワも汚れもない。下ろし立ての新品のように。毎日洗っているのか、それとも同じのを何着も持っているとか?

 私だって麦わら帽子とビーサンは毎日同じだけど、服は毎日洗濯しているから違うのにラピスはこの格好も含めて彼女の存在のような感じがする。だからもしジーンズとか履いていたら私はきっと動揺してしまうだろうな。


「今日は何するの?」

 笑顔はずっとそのままで私の答えを待っている。

「今日はラピスの家に行きたい」

 笑顔のまま軽く頷いて

「いいよ。今から?」

「今からでもいい。でも一回帰って朝ご飯食べたい。それに本だって持っていきたい」

「じゃあ、一時間後にしましょう。鈴音の家に迎えに行くね」

「家に?いいよわざわざ。どこかで待ち合わせしない?」

「いいの。私がそうしたいと思ったから。それとも私が行くと何か具合が悪いの?」

 そんな真っ直ぐな瞳で言われたらこれ以上はもう何もない。ただホントにいいのかなって思っただけだし、それに具合の悪いことなんてない。


「いいよ。待ってる」

「うん。じゃあまた」

 ラピスは一人で歩き出す。私はその場から見送ることしかできなかった。

 後ろ姿を見ていたら急に緊張してきた。一体どんなところに住んでいるのかな?両親はどんな人なのかな?弟とか妹とかいるのかな?それともお兄さんとかお姉さんとか。妄想は膨らむばかりだ。

 今の私はどうしてもラピスのことを現実的に見ることができないからだ。でも今日は少しだけかもしれないけど求めている現実の姿を見ることができると思うと武者震いしてしまった。


 朝ご飯を食べ終わるとお母さんに、これから友達が迎えにくるから、とだけ伝えて部屋に戻った。

 時間が気になって時計を眺めているとなんとなく落ち着かなくなってくる。持っていくカバンの中身を何度もチェックした。

 時間の経ち方が遅いようにも感じるし、気を抜いたらあっという間に速度を上げて過ぎていってしまっているような気がした。

「ねえお母さん、なんかない?」

 家にあるものでいいのでお菓子でも持っていこうと階段を降りてゆく。そして台所仕事をしているお母さんの元に行った。

「こんなのしかないけど、これでいいなら」

 そう言って差し出されたのはどら焼きだった。あれ?たしか家の分はないって言ってたよね。なんで?これがここにあるの?

「なんで?これがここにあるの?」

 今度は口から言葉になって出ていた。

「ほんとは買ってあったわよ。欲しがると思ったから。でもこれは今日のおやつに用意したものだから昨日言っていたら昨夜のうちに食べちゃったでしょ、あんたなら」

 何事もないような表情で言う。ふむ、全てはお見通しってわけだ。あなどれないなぁ、けどおかげで良いお土産が出来た。私は四個あるうちの二つを手にして

「ありがとうお母さん。もらってくね」


 ピンポーン


 玄関の呼び鈴が鳴った。心臓が跳ねるほどびっくりした。

「は〜い。ちょっと待って」

 慌てて二階に荷物を取りに戻る。急いで階段を降りてゆくと玄関にはラピスの姿があった。


「お、お待たせ」

「そんなに慌てなくても私は消えたりしないけど」

 ラピスは笑って言う。そりゃそうだろうけど、私としては待たせるのは嫌だから

「じゃあ行こっか。お母さん、行ってきます」

「二人共気をつけてね」

 声だけのお母さんに見送られて外に出る。あ、いかん。

「ごめん、忘れ物。ちょっと待ってて」

 急いで玄関を開けてお母さんに麦わら帽子を持ってくるように頼む。すぐに持ってきてくれて私に被せてくれた。

「今日も暑いから気が付いて良かったね。それで?どこまで行くの?」

「え〜と、私も初めて行くんだ」

 お母さんはもう一度『気をつけて』と言って送り出してくれた。玄関を閉めて振り向くとラピスはそのまま同じ姿で待っていた。

「今度こそお待たせ」

「うん。じゃあ行きましょう」

 ラピスは私の手を取る。急過ぎて驚いたけど私も繋いだ手を握り返した。

 夏の日差しは昨日と同じ。

 ラピスの真っ白なワンピースは太陽の光をたくさん反射してより白く見える。

 眩しくて思わず空を見上げると真っ赤な太陽がもっと眩しく世界を照らしていた。


 今までのことを考えると雲の形一つとっても昨日と同じような気がしてくる。

 けどこれはきっと気のせい。

 ・・・・・・・私はそう思いたかった。

12月か・・・まだまだ2025年の中にいます。

読んでいただきありがとうございます。

まだまだ未熟な私ですが10月に投稿を始めて楽しく日々を過ごしております。

最初は恥ずかしいって思っていた私です。けれど・・・

物語が進むともっとたくさんの人に読んでもらえたら・・・

なんてことを図々しく思ってしまうのは人間の性なのでしょうか?

これからも挫けずアップしていきます。

残り少ない今年ですが、よろしくお願いします。

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