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サヨナラをもう一度〜夏のフェアリーの物語〜  作者: マナマナ


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あなたの後を追って

 もう少し行くと海が近くなって風景がイッキに見渡せる交差点の手前でラピスは予想とは逆に曲がった。

 そっちは海とは全く違う小高い山が連なる山道の入口になっている。

 その瞬間になってやっと彼女の全身が姿をあらわす。

 真っ白なワンピースが見えた時は少しだけホッとした。


 角度によってはラピスに私の姿が見えると思ったのに気が付かないまま歩いてゆく。それは終始変わらない速さだ。私との距離は離れることもなければ近づくこともない。

 このまま着いていったらラピスの家が分かるかも。

 でも本当にこんなことしてていいのかな?迷ったけどこのまま続けるしかない。乗りかかった船はなんとかってヤツだ。私は自分にいい訳をしていた。


 山の頂上はまったく人気がなかった。

 それも無理ない。この辺りは街の人達の墓地になっている。所々に大小の墓所があってこの季節はどちらかというと夜の方が人気があるみたい。クラスの男子達も夏休みになったら一回は訪れる。いわゆる心霊スポットとして有名なのだ。私はそんなこと一回もしたことないし、しようとも思わない。

 そんな噂は昼にはなんの効果も及ぼさない。むしろ静かで海がよく見える隠れスポットみたい。もちろん私んちのお墓もあって、そこはもっと上に登ったところだ。お盆の時にしか行かないけど一人で来たのって初めて。なんだか気持ちが妙に落ち着く。今は私の足音しか聞こえない。


「あれ??」・・・・私はラピスの姿を見失っていた。


 もしかしてもっと奥の方に行ったのかな?頂上を過ぎたあたりから少し下りになったと思ったらすぐまた今度は違う山に登るための道が続いている。その先に何があるのか、行ったことがないから私は知らない。

 目の前に広がっている景色をじっと見ていると今までより気温が下がったように感じる。肌が無意識にざわつくいてくる。

 アスファルトの道の両側には覆い被さるようにたくさんの木の枝が垂れ込めているせいで日の光はかなり遮られていた。だんだん時間の感覚が分からなくなってくる。

 不安になってスマホを見る。

 時間は間違いなく今の時間を刻んでいるし、電波だってちゃんと届いている。ここは私達の街だけど私が知らない場所。でもちゃんと存在している現実だということにどこかホッとしたんだろうな、さっきまでのざわつきは治まっていた。

 

 この先にラピスの姿があることを信じて私はさらに奥を目指して歩き出した。


 誰もいない道を歩くというのはなんとなく方向感覚を見失いそうになる。それはきっと周りの風景も関係しているのかもしれない。一本道は舗装はされているけど手入れが行き届いていないせいで葉っぱや小枝なんかがかなりたくさん落ちて道を被っているし、枝の間にある蜘蛛の巣は見たことないくらい大きくて、真ん中には黒と黄色の縞模様の大きな蜘蛛がじっと獲物を待っている。もしこんなのが部屋に出たら・・・そんなこと考えただけでサブイボが出た。でも彼らは私の進行に対しては無関心でいてくれているみたいに感じる。おかげでなんとか前に進むことができる。


 上り坂はずいぶん長くてこのまま進んだら一体どこに着くのだろう?

 一歩進むごとに不安は三割増しで心の中を支配していく。おかげで心の支えのスマホを頻繁に確認するハメになる。電波はあるのに電池の残量がだんだん心細くなってゆく。

 

 完全にラピスのことは見失っている。


 なら・・もう引き返そうかな・・・


 そう思い始めた私の視界に大きな蝶がゆっくり、宙を漂っているみたいに横切ってゆく。羽の色が青くてとてもきれいな蝶。


 青色・・・・・・私が彼女の名前を決めた色。


 蝶が完全に横切った後にはさっきまでいなかった、見失ったはずのラピスの姿があった。それはあまりにも唐突で今自分がいる場所が現実なのか夢の中なのか分からなくなった。


「どうしたの?こんなところまで」


 帽子のせいで顔の全体は見えない。初めて会った防波堤の時みたい。

 笑っているのか、それとも彼女の後を黙ってつけてきたことに怒っているのか、そのどちらかなのかは分からない。けどこうやって顔を合わせたならちゃんと言わないと


「さっき見かけた」


 少しだけ帽子をずらす。そんなこと分かっていると言いたそうな顔でにっこりと笑っている。けれどその笑顔は否定してるとか非難しているとかじゃない純粋な笑顔だ。嬉しいとか楽しいとかにも見えない笑顔。不思議。そんな笑顔って存在しているんだ。その笑顔は私に向けられた特別な感じもした。


「気が付いたらラピスの後を歩いていた。気を悪くしたなら謝る」

 けど彼女はそんなことは思っていないのは分かる。気持ちが伝わってくる。


「待てなかった?」


 私は首を傾げる。


「私に会いたいんでしょ。鈴音は何を期待しているの?願いは私が叶えてあげてる。終わらない七月の夏・・・鈴音の気持ちが私に流れ込んでくる」

「あのさ・・・」

「なに?」

「私は・・・ラピスに会いたいって思った。もっと知りたいって思った。本当は何歳で、どこに住んでいて、いつこの町のやって来たとか」

 正直に思っていたことが自然と言葉になっていた。

 

 ラピスはその場で一回クルッと廻る。ワンピースが真っ白な花のように広がってまた蕾に戻るようになってから元の姿に戻る。スカートの裾を両手で持ってから左足を一歩引いて私に会釈する。

「嬉しいな。鈴音がそんなに私のこと気にかけてくれるなんて。私は夏と共にやって来た。この町に来たのは偶然なの。もしかしたら鈴音が私のことを呼んだからかもしれない」

「そんなこと・・・だってあなたに会うまでは知らなかった」

「でも夏を待っていた。誰よりもその想いは強かった」

 そんな風に言われると否定はできない。だって一番好きな季節だから。夏って本当に一瞬だから他の季節、特に冬の寒い朝の時はその想いも強くなる。ずっと夏ならって。


「ねえラピス。確かに私はそんな風に思う時だってあったよ。けどそれは他の季節があるから」

「でもね、おかげで私はずっと存在していられるのよ」

 そして振り返るとさらに上を目指して歩きはじめる。

「・・・まだ話は終わっていない。待ってよ。その先には何があるの?」

 夏のフェアリーってやっぱりラピスのことなのかな?私も遅れながら後に続いた。

 ラピスの歩く速さは一定なのになんで追いつけないの?それに私は息を切らしているのにラピスはまるで羽根でも生えているように軽やかで疲れなんて言葉は似合わなかった。

 そんな姿を見ていると、もしかして本当に?なんて気持ちが大きくなる。呼吸が苦しくて喉も乾く。私の歩きはだんだん遅くなるのが自分でも分かる。足はとっくに痛みで悲鳴を上げている。ビーサンにこの距離は無理・・・・・・・お腹空いたなぁ。


「あ、あのさ、まだ行くの?」

 痛さと空腹と喉の乾きに負けて声を掛ける。ラピスはゆっくり振り返えると手招きをして

「もう少し。あとはここを曲がるだけ」

 いつの間にか道には横に折れる側道が現れる。そこが終わりだと言うなら

「・・・分かった・・・頑張る」

「待ってる」

 一旦止まった足を動かすのはなかなか大変だ。足ってこんなに重いんだっけ。ちゃんと意識して動かしてないと勝手に止まってしまいそうだ。私は手のひらで汗を拭いながら一歩、また一歩と進むしかなかった。


「・・・着いた」

「頑張ったね」

 ラピスは笑うと私の腕を取る。不思議とラピスの手はひんやりとして気持ち良かった。

 それととてもいい匂いがする。夏の果実とか花のような甘い匂いが私を包んでいた。

11月25日。アップ日は給料日です。

読んでいただきありがとうございます。

作品を書いているのと並行して年末調整も書かなくては・・・

正直面倒な作業ですが・・・義務ですので・・・

比べて(それもどうかと)物語を書くのは苦になりませんね。

次も読んでいただけたら嬉しいです。

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