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サヨナラをもう一度〜夏のフェアリーの物語〜  作者: マナマナ


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13/37

さいわいってなんだろう

 列車は静かに真っ暗な場所に辿り着く。

 銀河の果てってこんな感じなのかな?星もないただ真っ暗な空間。

 今まで通過してきた楽しくて明るい場所とは似ても似つかない暗くて深い空間。

 ここには本当のさいわいがあるとカムパネルラは言う。その場所に引き込まれ行くのが当たり前のように。その闇の先は読んでいてもさいわいのある場所には思うことはできない。その場所は彼にどんなさいわいをもたらしてくれるというのだろう。


 私は彼が死んでしまう結末は知っているし、物語自体もだんだんそんな雰囲気になっていくから、どんなに本当のさいわいがあると言っても想像なんてできなかった。


 それは死者だけが感じることの出来るさいわいなのかもしれない。


 結局ジョバンニは彼を見送ることしかできなかった、追いかけることもできないまま気が付いたら彼は元の場所にいた。そこはいつもの場所のはずなのにカムパネルラだけがいない世界へと変わっていた。

 銀河鉄道ってすごく素敵なのにすごく怖いとも思う。死者の魂を運ぶ列車なのか、夢や空想を運ぶ列車なのか。


 読み終えて本を机の上に置いてそのまま床に横になる。天井が見える。窓からは風が入ってくる。そして耳をすますと微かに聞こえる波の音。蝉の声の方が遠く感じる。

 私は静かに目を閉じる。瞼の奥にはたくさんの星空が見える。車窓からの景色を見ているみたいに。物語は終わったのにやっぱり受け入れることができない結末が頭の中をぐるぐるしている。彼がいなくなったことで主人公の孤独が一層際立ったからかもしれない。


 ひとりぼっちって、私は嫌だな。


「鈴音、寝てるの?」

 お母さんが部屋に来なかったらきっとこのまま寝ていただろうな。けど

「寝てないよ。なに?」

 ゆっくりと起きて答える。

「なら良かった。これから夕飯の買い物行くけど一緒にいかない?」

「いいけど。なに買うの?夕飯?」

「今日はしょうが焼き。夕飯の買い物じゃないの。タナカのおじいちゃんにいろいろもらっているからそのお礼を買うの。今から受け取りに行くからその荷物持ち」

「いいよ。そういうことなら。もらってばかりじゃ悪いからね」

「じゃあ駅向こうの商店街行くよ」


 太陽はまだ頑張っている。もうすぐ六時なのに世界はまだ明るい。商店街は夕飯に向けていろいろと美味しそうな匂いをあっちこっちからさせているし買い物客でかなり混雑してる。

 

 私達は人波を南極観測船のように氷じゃなくて買い物の人達をにかき分けて進んでゆく。


「やっと着いた。あ〜暑かった」

 夕方なのに汗だくで暖簾をくぐったのはこの辺りで有名な和菓子屋さんだ。私もここのどら焼きは外すことのできない一品だと思っている。

 店内は程よく冷房が効いている。時間も時間だから仕方ないのか、棚のほとんどの商品は売り切れの札が出ていた。もちろんどら焼きもだ。あったら久し振りに食べたかったが。

「あの、予約していた・・・」

「ああ。ちょっと待ってくださいね」

 カウンターいた女の人がすぐ分かったみたいで奥に歩いてゆく。

「なに買ったの?」

「なにって。ここだったらどら焼きに決まっているでしょ」

 だよね。あ〜買えないと分かったら余計に欲しくなる。

「おまちどうさま。こちらでよろしいですか?」

 紙袋の中をお母さんは確認して

「大丈夫です」

 そのまま紙袋を持たされる私。ずっしりと重い。一体いくつ買ったのよ?それで私はこれからこれを持って歩くのか・・・・まあ自分でもいいって言いている分、文句なんて言えないよね。頑張りますか。


 外はまだ薄らと太陽の光を残していたが、反対側の空には今まで隠れていた星の光が少しずつ主張し始める。そのちょうど真ん中に私はいる。星空。頭の中には銀河鉄道が蘇る。線路もない星が散りばめられた空間をまるで路線図があるかのように走る汽車が不思議に思える。星の一つ一つが全部駅だとしたら一体幾つの路線が存在してるのかな。それに乗換駅になっている星はどんな星でどんな人達が住んでいるのだろう。


「鈴音、重くない?」

「平気。それより家の分のどら焼きってないの?」

「あるわけないじゃない」

 当然のように答える。家の分なんてカウントすることすら思わなかったんだろうな。だったら明日。明日になったらラピスと一緒に買いに来ようかな。それを持って浜辺で食べる。そういえば海でどら焼き食べてる人って見たことないかも。

 そして、その後は・・・その後・・・くちびるに感触が蘇ってくる。なんでだろう。もしかして私は期待しているの・・・少しだけ心臓の鼓動が強くなった。


 呼び鈴を押すとタナカのじいさんの代わりに葵さんが出てくる。玄関の横はガレージになっていてそこには葵さんの真っ赤な車が静かにしている。たくさん走り回って今は眠っているみたい。

「あれ?鈴音?どうしたのこんな時間に」

「こんばんは」

 お母さんと一緒に挨拶をしてから紙袋を渡した。

「わ、ありがとうございます。ちょっと待っててください。おじい、これ」

 大きな声で奥に入ってゆく。私とお母さんはしばらく玄関で待っている。再び姿を見せた時、その手にはスーパーのビニール袋があってその中には

「鈴音、これ持ってって」

 袋一杯の鯵の干物が入っていた。

「こんなに・・・なんか催促しているみたいで・・・いいんですか?」

「いいんです。作り過ぎて困ってるって。だからぜひ」

「そういうことならありがたくいただきます」

 お母さんはまんざらでもない表情で言う。きっと嬉しいに違いない。もちろん私だって嬉しい。

「おじいが毎日よく釣れるって。なんだか毎日同じ日が続いているみたいだ、なんて言ってる。だから明日は釣り止めようかなって言ってるくらい」

「それって変なことなんですか?今年は鯵がたくさんいるとか」

「まあ、そういうこともあるかもしれないけど、ちょっと異常だなんて釣り人達の間では話になっているみたい」

「ふ〜ん。でもおかげでこうやっていただくことができるわけですし」

「そうだね。けどこの調子でいったら一年中鯵の干物を食べることになるから」

「それはそれで、ちょっとですね」

「だろ。こんなことはそう長くは続かない。時間が巻き戻らない限り」

 葵さんはそんなことを言って笑う。私も一緒に笑う。

 少しだけ不安になるのは何故だろう?毎日が同じでいつまでも七月の夏が続けばって、そう思っていた。でももしホントにそんなことになったら・・・まさかね。時間は動いている。今だって時が流れているから夜になった。それに奥から聞こえるテレビからは時報だって聞こえた。

 なんでそんなこと思ったのかな?


「ホントありがとうございました。そうだ鈴音、あのこと分かったら連絡する」

「ありがとうございます。私の方もなんか分かったら葵さんに連絡します」

 挨拶を終え私達はタナカのじいさんの家を後にした。


「ねえ、あのことって何のこと?」

「えっと、夏休みの宿題のこと聞いた」

 私はお母さんに小さな嘘をつく。宿題なんてまだ全然やっていない。今はそれ以上に知りたいことがあるから。宿題は八月になってからでも平気だから。


 朝。

 私は七月の中にいる。まだまだ八月までは時間がかかる。

 時間は巻戻っている。そんなことあるはずないのに、そうなればいいのにって頭の片隅で思っている自分がいる。

 今日も会えるよね・・・ラピス。ねえ・・・私達の出会いって運命でいいのかな?


 窓から見える景色はいつもと同じ。でもそれは昨日と同じような日があるだけなんだ。

 私はだんだん現実と見えない境界線で切り離されてゆくような気分がしてくる。けれど鯵の干物を焼く匂いが私を現実に戻してくれた。

冬がだんだん本格化している今日この頃です。

インフルエンザには気を付けたいところですね。

読んでいただきありがとうございます。

毎日は決して同じじゃない。朝起きて思うことです。

生きていることだけも生きる意味がある。

私は物語の中で夏を未だに楽しんでいます。

そう、楽しむこと。これも生きる意味の一つだと思っています。

次も夏を楽しんでくれたらさいわいです。

よろしくお願いします。


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