独歌(ひとりうた)
「独歌」
【登場人物】
少年
青年
男
幕が上がる。
少年と青年がすれ違う。
その後、一人の男がやってくる。
男にサス。
男「皆様、ごきげんよう。本日はお越しいただき誠にありがとうございます。私事ではありますが堅苦しい挨拶は苦手な性分で、省略させていただきます。さて、本日お話させていただきますは、一人の少年の物語。何やら秘密や悩みを抱えている様子。どうぞ彼のもがき苦しむ様子をご覧くださいまし。それではまた。」
照明チェンジ。地明かり。
少年が教室のドアを開け入ってくる。
少年「(誰かに話しかけている)おはよう。今日もいい天気だね。はは、こんなこと普通は言わないか。(別の人に)ねね、今日って英語あったよね。忘れちゃってさ。貸してくれる友達いない?別のクラスに知り合いいなくて。(また別の人に)ね、そういえば昨日の金曜ロードショー観た?コナン君、好きって言ってたよね?僕は男だけど赤井さんの渋さに惚れちゃったよ。(徐々におかしいことに気づく)ねえ、聞いてる?僕の声小さかった?おかしいな。あ、待って、まだ僕いるよ。カギ閉めないで。ねえ!」
気がつくと青年が立っている。
青年「あーあ、まただ。ホント情けない。」
少年「あ!君もいたんだ。よかった一人じゃなくて。それよりひどいと思わない?カギ閉められちゃったよ。ああ、科学の実験したかったのに。ずっと前から楽しみにしてたんだよ。」
青年「後ろのドアから出ればいいだろう。」
少年「あ、そっか!でもダメだ。」
青年「どうして?」
少年「後ろから出ちゃったら誰がカギを閉めるのさ。」
青年「俺が閉めてやるよ。」
少年「そしたらまた開けに来なきゃいけないよ。いいや教室で待ってる。君もいるし。」
青年「実験は?」
少年「今日の実験は諦めるよ。来週の実験を楽しみにしておくから。」
青年「そうか。」
少年「うん。だから、みんなが帰ってくるまで待ってるよ。あ、君も実験したかった?」
青年「いや、俺はそういうの興味ないから。」
少年「そう。じゃあ、一緒に待ってよ。」
青年「君がいいならいいけど。」
少年「うん。」
青年「じゃあ、何して待ってる?一時間は長いよ。」
少年「そうだな。なにかある?」
青年「YouTubeでも見ようか。」
スマホを取り出す青年
少年「ダメだよ。校内でスマホ触っちゃだめなんだよ。」
スマホを奪う少年
青年「真面目だな。」
スマホを取り返す青年
青年「じゃあ、ゲーム。」
もう一度スマホを奪う少年
少年「だから、ダメだって。もうスマホは預かっておきます。」
青年「全く。これだから真面目君は。」
少年「真面目で結構です。」
青年「じゃあ、なにするんだよ。」
少年「そうだね、一応授業中だし、勉強しよ。」
青年「え、本気で言ってるの?」
少年「うん。」
青年「信じられない。ありえない。正気?」
少年「え?」
青年「勉強は、なし。そうだ、絵しりとりしよう。」
少年「いいけど、僕、絵下手だよ。」
青年「知ってる。」
そういいながら黒板に書こうとする青年
少年「ちょっと、ちょっと。黒板に落書きしちゃだめだよ。」
青年「いやいや、絵しりとりするって言ったじゃん。」
少年「そうだけど、紙に書くと思うじゃん。はいこれ、ルーズリーフ。これでいいでしょ。これに書こ。」
と、ルーズリーフを出す
青年「・・・もういいよ。やる気失せた。違うことしよ。」
少年「違うこと?んー。じゃあ、話聞いてくれない?」
青年「ずっと聞いてると思うけど。なに?」
少年「僕ね、今、悩んでいることがあるんだ。」
青年「なに?」
少年「誰にも言わない?」
青年「もちろん。俺、口硬いで有名だから。」
少年「柔らかいよ。」
といって口を触る
青年「ちょ、触るな。例えだよ、例え。」
少年「なんだ。」
青年「で、悩みって?」
少年「うん・・・僕、声が小さいみたいなんだ。みんなに話しかけても誰も聞こえてないみたいで。どうしたらいいかな?」
青年「え?」
少年「拡声器を使えば聞こえるんだろうけど、不要物っていって没収されるだろうし。困ってるんだ。何かいい案ない?」
青年「(独り言っぽく)そうか。聞こえてないって思っているのか。」
少年「ん?なに?」
青年「あ、何でもない。」
少年「それで、どうしよう。」
青年「そうだな。お腹から声を出すとか?」
少年「お腹。」
青年「演劇部の連中とかよくやってるだろ。発声練習ってやつ。」
少年「ああ。」
青年「それを真似して練習してみたら大きな声出るようになるんじゃないか。」
少年「そうだね。」
青年「それから・・・」
少年「あー(大きな声で)」
青年「うっるさい、うるさい。なにやってんの。」
少年「え、だって発声練習・・・。」
青年「今はダメだろ。授業中だし。」
少年「あ、そっか。」
青年「演劇部の部活に混ざってやってこい。」
少年「え、そんなことできないよ。」
青年「冗談だよ。えと、声が小さくてみんなに聞いてもらえない、だろ?」
少年「うん。」
青年「声が小さいか。あとは、話しかけるタイミングが悪いんじゃないか?」
少年「タイミング?」
青年「うん。例えば、相手が別の誰かと話しているときに話しかけたり、忙しいときに話しかけたり。そういう時、人間は意外と周りの声は聞こえないもんさ。」
少年「そうなんだ。言われてみればそうかも。」
青年「そうだろ。人に話しかけるうえでタイミングは最も重要なんだ。」
少年「流石だね。物知りさんだ。」
青年「なんとでも言え。」
少年「でも、どのタイミングがいいかわからないや。」
青年「そうだな。慣れるまでは難しいかもな。」
少年「やっぱり僕には無理なのかな。」
青年「そんなことはない。練習すれば大丈夫だ。」
少年「練習?」
青年「ああ、練習さ。」
少年「どんな練習?」
青年「もちろん話しかける練習だ。俺が練習相手になってやる。」
少年「ホント?ありがとう!でも、練習ってなにするの?」
青年「今から俺がクラスメイトの役をやるから、タイミングよく話しかけて来い。」
少年「え?でも・・・
青年「なんだ。」
少年「僕にできるかな」
青年「最初はだれでも不安なのさ。いいからやるぞ。」
少年「わかった。頑張ってみる。」
青年「よーいスタート。」
照明チェンジ
青年「(クラスメイトのふり)なあ、次の授業ってなんだっけ?(別の人に)えーと、お前わかる?(さらに別の人に)さあ。」
少年「・・・」
一向に動く気配のない少年を見てすかさず
青年「ストップストップ。」
照明戻る
青年「今、絶好の話しかけるタイミングだろ。」
少年「え、そうなの?」
青年「次の授業がなにかわからなくて困ってるんだぞ。」
少年「え、だって、他の人と話してたから。」
青年「そういうのは時と場合によるんだ。全く応用の利かないやつだな。」
少年「え、ごめん。でも三人もいて誰一人次の授業わからないなんてことあるのかな。」
青年「うるさい。もう一回やるから次はちゃんと話しかけて来いよ。」
少年「わかった。」
青年「スタート。」
照明チェンジ
青年「(クラスメイトのふり)なあ、次の授業ってなんだっけ?(別の人に)えーと、お前わかる?(さらに別の人に)さあ。」
少年「か、科学だよ。」
青年「(クラスメイトのふり)あ、そうだ。サンキューな。」
少年「うん。いいよ。」
青年「カット。」
照明戻る
青年「まあこんなもんよ。」
少年「うーん。なんか思ってたのと違う。」
青年「は?」
少年「これ、話したってより教えたって感じじゃん?僕は自分の好きなアニメとか歌とかのことを話したい。」
青年「わがままだな。今のお前じゃ無理だ。アニメとか歌の話以前にするべきことがあるだろ。」
少年「なに?」
青年「ちゃんと声を聞いてもらう。気づいてもらうことだ。話はそっからだ。」
少年「そっか。まあそうだよね。」
青年「はい、次。次はお前がシチュエーション考えてみろ。」
少年「えー。」
青年「これも練習。つべこべ言わずやる。」
少年「んー。あ、じゃあ一人でいるときに話しかけるのは?」
青年「一人?」
少年「そうすれば自分に話しかけてるってわかるし、僕の話も聞いてくれる!」
青年「それは相手によるが危険だ。」
少年「なんで?」
青年「まあいい。やってみよう。好きなタイミングで話しかけていいぞ。」
少年「わかった。よーいスタート。」
照明チェンジ
青年「(クラスメイトのふり、本を読んでいる。)」
少年「ねえねえ、君、今一人だよね?僕とお話しよ。」
青年「・・・本読んでるんだけど。それに一人だからといってなんで君と話さなきゃなんないの?別の誰かにしてくれる?私は本読みたいんだから。」
少年「え、そんな・・・」
青年「カット。」
照明戻る
少年「どうして意地悪するのさ。」
青年「これは意地悪じゃない。普通の反応だ。」
少年「普通?」
青年「まず、お前、一人だよね?って言っただろ。」
少年「言ったけど。」
青年「ホントに独りぼっちのやつにそういうこと言っちゃだめだ。」
少年「どうして?」
青年「気にしてるんだよ。一人でいること。」
少年「じゃあ、なんて言えばいいの?」
青年「今いい?とかちょっと話聞いてくれない?とか。下手に出るんだ下手に。」
少年「下手に。」
青年「あと、大抵一人でいるやつは本を読んでる。本しか友達がいないパターンだ。まあ、そうでないやつもいるが、本を読んでいるときに話しかけるのはあまりよくないな。」
少年「なんで?本なんか家でも読めるよ。友達とお話することは学校でしかできない。」
青年「相手もお前と話したいなんて思ってる保証はないんだぞ。人と話すよりも本を読むのが好きってやつは大勢いる。」
少年「そんな。」
青年「しかし、そんな本を読むことが好きなやつに話しかける方法でいいのがある。」
少年「え、そんなのあるの?」
青年「ああ。」
少年「なに?」
青年「次は俺が話しかける。いいか?」
少年「うん。」
青年「じゃあ、やるぞ。よーいスタート。」
照明チェンジ
少年「(クラスメイトのふり、本を読んでいる。)」
青年「この本、知ってるの?」
少年「え?」
青年「あ、ごめん。これ俺も好きな本だから。つい・・・。」
少年「そうなんだ。」
青年「よかったらお話しない?あんまりこの本を好きな人いないから。」
少年「いいよ。」
青年「カット。」
照明戻る
青年「どうだ。」
少年「すごい。自然と喋っちゃたよ。」
青年「ただ、これができるのは相手が読んでいる本を知っていないとだめだからな。」
少年「あ、そっか。」
青年「お前、本なんか読まないだろ。」
少年「うん。コナン君とワンピースくらい。」
青年「はあ。まあ、本読んでるやつは諦めろ。」
少年「そうだね。本読みたくないし。」
青年「おい。」
少年「次は何の練習する?」
青年「いや、今日の練習は終わりだ。」
少年「え、なんで?」
青年「授業が終わる時間だ。みんな帰ってくる。」
少年「練習の成果を試すときだね。よし。頑張るよ。」
青年はいつの間にかいなくなっている。
少年「あれ、どこ行っちゃたのかな。(少し辺りを見回すが)まいいか。(クラスメイトに)今ちょっといいかな?あ、怒ってないよ。僕に気づかずカギ閉めちゃったんでしょ。大丈夫だったよ。それより、どんな実験したの?ねえ、あれ声小さい?ねえ!聞こえない?おかしいいな。練習したのに。ねえ!ねえ!!」
少年「ねえ!今いい?」
聞いてもらえない様子の少年
少年「コナン君好きなんだ!」
聞いてもらえない様子の少年
少年「その本、好きなの?僕知らないんだけど教えてくれない?」
聞いてもらえない様子の少年
少年「はあはあ、おかしいな。あれ、なんか頭痛い。ごめん、僕、保健室行くから先生に言っておいて。」
立ち去る少年
照明チェンジ
少年がとぼとぼ歩いている
青年が後を追いかけてくる
青年「どうしたの?保健室行くんじゃなかったの?」
少年「そのつもりだったんだけど、空いてないみたいで。」
青年「保健室の先生、今日休みなんだって。」
少年「そうなんだ。」
青年「うん。」
少年「ごめんね。」
青年「なにが?」
少年「せっかく、練習したのにうまくいかなかかった。」
青年「あ」
少年「ホント、僕の声って小さいんだね。はは。演劇部入ればよかったね。発声してるじゃん?声大きくなりたいな。林君みたいに。聞いてみようかな。演劇部ってどんな発生してるの?って。もしよければ教えてくれない?って。てか、今から演劇部入っていい?って。」
青年「・・・」
少年「そうだ。林君にも話聞いてもらえないんだった。ははは。」
青年「俺にはホントのこと言えよ。」
少年「え?」
青年「さっきから強がってる。」
少年「そんなこないよ。僕が悪いんだよ。」
青年「さっき、うまく話しかけれてたよ。」
少年「ホント?」
青年「うん。」
少年「練習のおかげだ。ありがとう。」
青年「・・・」
少年「君にはなんでもお見通しみたいだね。・・・はあ、みんな、どうして聞いてくれないんだろう。そんなに声小さくないよ!タイミングも練習したよ。話題だって一生懸命考えてるよ!僕はただみんなと話したいだけなんだ!お願い、お話しよ。」
青年「・・・明日も頑張ろうな。練習付き合うから。」
少年「うん。」
青年「ほら戻らないと。」
少年「え?」
青年「みんな心配するだろう。」
少年「僕のことを?」
青年「そうだ。大事なクラスメイトなんだから。」
少年「話してくれないのに?」
青年「聞こえてないだけだよ。それかみんなも本当はお前と話したいのかもな。でも緊張して話せないだけかも。」
少年「そうなの?」
青年「ああ。だからそんなに落ち込むな。」
少年「そうなのかな。」
青年「そうだよ。」
少年「君がそういうならそうなのかも。うん。そんな気がしてきた。」
青年「さあ、教室へ戻ろう。」
少年「うん。」
少年、歩き出す
青年、止まる
青年「誰も心配なんてしてないさ。」
少年、振り返り
少年「なにやってるの?行くよ。」
青年「ああ、うん。」
暗転 カットイン
男にサス
男「さてさて、ここまでご覧いただき誠にありがとうございます。みんなに話を聞いてもらえない少年。とても可哀そうだと感じました。が、本当にそうでしょうか。・・・彼と一緒にいる青年。練習に付き合ってあげる優しい方ですね。ですが、本当にそうでしょうか。・・・目に見えるものがすべて正しいことだとは限りません。あなた様も今一度、自分の胸に手を当てて自分の本当の声を聞いてみるのはいかがでしょうか。おっと、話が長くなってしまいました。皆様も気になるであろう、一人の少年の物語。それではまた。」
照明チェンジ 地明かり
少年の家
少年「ただいま。聞いて、今日ね間違えて教室に閉じ込められちゃったんだ。それで楽しみ
にしてた実験できなかったんだ。残念だよね。まあでも、次を楽しみにするんだ。あ
とね、友達と秘密の練習したんだ。へへ。内緒。ねえ、聞いてる?ねえ!話聞いてよ。
お母さん。また寝てるの?最近ずっと寝てる。まったくしょうがないな。今日こそは
お母さんのご飯、久しぶりに食べれると思ったのに。せっかく作ってもお母さん食べ
てくれないし。はあ。お父さん早く帰ってこないかな。はあ。・・・あ、洗濯物入れ
なきゃ。つい話に夢中で。しまったしまった。」
断片的な少年の日常
少年にサス
少年「あ、お母さん、おかえりなさい。え、誰、その男の人。お父さんと約束したんじゃな
いの?ダメだよ。あなたも出てってください。僕の知らない男の人が家にいたら追い払えってお父さんに言われてるんだ。ねえ、お母さん!」
少年移動
少年にサス
少年「お父さん、お酒はもうやめて。お母さん怖がってる。ねえ。聞いて。前みたいに三人
仲良くしよ。遊園地行ったり水族館行ったり。わかってるよ。そんなお金ないんでしょ。ごめんなさい。生意気言わないから。せめて三人でご飯食べよ。ねえ。僕が作るから。お願い喧嘩はやめて。」
少年移動
少年にサス
少年「もしもし、おばあちゃん。元気だよ。お母さんもお父さんも元気。みんな仲良しだよ。最近ではご飯作るお手伝いしてるんだ。えらいでしょ。大丈夫。心配しないで。うん。じゃあね。また、遊びに行くから。うん。ばいばい。」
少年移動
少年にサス
少年「え、ユカが死んだってどういうこと?ねえ、お母さん。お父さん。なんで、え、だってどうして。そんなことあり得ないよ。嘘でしょ。ねえ、嘘って言って。お願い。
ユカ、ユカ!ユカ!!ユカ!!!」
照明チェンジ 地明かり
青年がいる
青年「(誰かに話しかけている)おはよう。今日もいい天気だね。はは、こんなこと普通は言わないか。(別の人に)ねね、今日って英語あったよね。忘れちゃってさ。貸してくれる友達いない?別のクラスに知り合いいなくて。(また別の人に)ね、そういえば昨日の金曜ロードショー観た?コナン君、好きって言ってたよね?僕は男だけど赤井さんの渋さに惚れちゃったよ。(徐々におかしいことに気づく)ねえ、聞いてる?僕の声小さかった?おかしいな。あ、待って、まだ僕いるよ。カギ閉めないで。ねえ!」
少年が目を覚ます
少年「ん?」
青年「おはよう。」
少年「あれ?」
青年「寝てたんだ。」
少年「そう。」
青年「どうしたの?」
少年「ん。なんでもないよ。」
青年「そう。今日はどんな話をする?」
少年「そうだね。」
青年「ずばり、恋愛!」
少年「恋愛?」
青年「そう、恋愛。恋バナ。お前好きな人とかいるの?」
少年「そんなのいないよ。」
青年「またまた、そんなこと言っちゃって。」
少年「ホントだって。」
青年「気になってる人もか?」
少年「うん。」
青年「なんだ。つまんないの。」
少年「そういう君は?」
青年「え?」
少年「人に聞くくらいなんだから。答えてよ。」
青年「俺?俺か。俺もなんにもないかな。今はお前をいじめるのが楽しいからな。」
少年「うわ。いじめてる実感あったんだ。」
青年「当たり前だろ。」
少年「ひどい。」
間
青年「で、最近はどうなんだ。」
少年「うん。練習の成果は・・・」
青年「ダメか。」
少年「うん。」
青年「俺とは普通に話せるのにな。」
少年「声小さくないってことだよね?」
青年「少なくとも俺には聞こえてる。」
少年「じゃあ、なんでだろう。」
青年「もしかしたら・・・」
少年「でもね、僕決めたことあるの。」
青年「ん?」
少年「絶対諦めないって。クラスの子やお母さんと絶対お話する。」
青年「・・・」
少年「よし、今日も練習しよ。」
青年「ああ。」
少年「なんの練習しようかな。」
歩き出す少年
そのままハける
青年「あとちょっと、あとちょっと。」
青年もハける
照明チェンジ
少年にサス
拡声器を持っている
少年「(クラスメイトに)おはよう。今日は科学があるよね。前、実験できなかったからな。
一週間楽しみにしてたんだ。ああ、怒ってないからね。(別の人に)そういえば、コ
ナン君の最新刊発売されたね。もう買った?すっごい良かったよ。これ以上言ったら
ネタバレになりそうだから言わないけど。(さらに別の人に)そうだ、好きな人とか
いるの?ちなみに僕はいないんだけどね。(林君に)あ、林君、演劇部の見学いつ行
っていい?ずっと聞いてるんだけど、もしかして忘れてる?それで黙ってるのか。怒
ってないから大丈夫だよ。ねえ、ちょっと、聞いてる?・・・(さらに別の人に)あ
れでしょ。聞こえないふりしてるんでしょ。(クラス全体に)みんなで僕をからかっ
てるんだな。はいはい。ドッキリ大成功だよ・・・ねえ。聞いてる?もういいって・・・。
はい。もう終わり。・・・もうやめてって・・・。ねえ、なんで。・・・お願い、もう
やめて。まさか、無視してるの?そんなことないよね。え、・・・だって、そんなわ
けないよ。・・・ねえ、ホントに無視してるの?・・・え、なんで。僕なんかした?
ねえ、答えて。答えてよ。・・・ホントに無視してたんだ。もういい。わかったよ。」
少年立ち去る
照明チェンジ
青年にサス
青年「(笑っている)さあ、俺のところにやってくるんだ。お前には俺がいればいい。クラスメイトや家族に無視されても俺さえいればいいんだ。そうだろ?話を聞いてくれるのは俺しかいないもんな。俺を失ったらもう本当に誰も話を聞いてくれなくなるからな。ようやく認めてくれるよな。俺だけだって。お前には俺しかいない。そう、俺にすがって生きていけばいい。俺とお前二人だけで生きていこう。」
照明チェンジ
地明かり
少年「(泣いている)」
青年「どうしたの?」
少年「ダメだった。」
青年「え?」
少年「無視されてた。」
青年「そっか。」
少年「僕の声が小さかったわけじゃなかったんだ。」
青年「そうだな。」
少年「僕と話すのに緊張してるわけでもなかった。」
青年「・・・」
少年「はあ。ショックだな。」
青年「ごめんな。」
少年「え?」
青年「力になってあげれなくて。」
少年「そんなことないよ。練習に付き合ってもらったし、アドバイスだってたくさんしてくれた。感謝してるよ。ありがとう。」
青年「そう言ってもらえて嬉しいよ。」
少年「・・・」
青年「そうか無視してたのか。もうそんな最低なやつらほっとこうぜ。」
少年「うん。」
青年「そうだ。こんな学校もやめないか?」
少年「え?」
青年「お前を無視するようなやつらと一緒にいても時間の無駄だ。俺といろんなとこ行こうぜ。遊園地でも水族館でも。行きたいところどっかないか?」
少年「・・・ねえ。」
青年「ん?」
少年「無視するのってよくないよね?」
青年「ああ、もちろんだ。無視されると誰であっても悲しいもんさ。現にお前は傷ついてるんだろ?」
少年「じゃあさ、無視するよりひどいことってなに?」
青年「え?えーっとなんだろうな。」
少年「・・・僕はね、無視されてるってわかっておきながらわざと教えないことだと思うな。意味ない練習したりあてにならないアドバイスしたり。」
青年「・・・え。」
少年「ホントはわかってたんでしょ?僕がクラスのみんなに無視されてるって。」
青年「そんなことないよ。」
少年「おかしいと思ってたんだ。昔からうるさい、うるさいって言われてきた僕の声が小さいなんて。カギ閉められたときも、君はなんにも言ってくれなかった。わざと僕を閉じ込めさせたんでしょ。」
青年「違う。」
少年「ホントひどいよね。学校辞めろって?確かにそうした方がクラスのみんなも喜ぶかもしれない。でも、これ以上、僕を独りぼっちにするのはやめて。もう僕をみじめにしないで。
青年「・・・」
少年「ねえ、ホントのことを言って。君のこと嫌いになりたくない。たった一人の友達だから。」
青年「・・・わかったよ。ホントのことを言うよ。お前が無視されてるのはわかってた。」
少年「やっぱり。」
青年「でも、正直に言うとお前は傷ついただろ?だから俺は本当に誰か一人でもお前の声を聞いてくれるようにするために練習したりアドバイスしたりしたんだ。」
少年「・・・」
青年「これだけは信じてくれ。」
少年「ホントに?」
青年「ああ。・・・お前を独りぼっちになんかさせない。俺がいるだろ?お前のそばには俺がいる。ずっといる。これからもいるから。それじゃダメか?」
少年「でも、僕のためだったとはいえ、結局、僕が傷ついてる。君は僕が傷ついてもよかったの?」
青年「そんなわけないだろう。・・・ただ・・・」
少年「ただ、なに?」
青年「いや、なんでもない。」
少年「気になるじゃん。言ってよ。」
青年「・・・ホントは気づいてたんじゃないか?」
少年「え?」
青年「お前も。ホントは気づいていたんだろ?自分が無視されてるって。それなのにその事実から目を背けた。その事実が怖いから俺に話した。違うか?」
少年「違う。」
青年「結局、一人じゃなにもできない。周りには迷惑かける。お前、自分が嫌われてるってちゃんと理解してんのか?」
少年「うるさい。どうしてそんなこと言うの?」
青年「そうやって都合の悪いことから逃げて。自分は可哀想な子ですって周りにアピールして心配されたかっただけなんだろ?」
少年「やめろ。」
青年「お前のせいで妹のユカは死んだんだよ。」
少年「違う。」
青年「お前のせいで両親は離婚したんだよ。」
少年「違う。違う。」
青年「お前が家族の幸せを奪ったんだ。」
少年「・・・」
青年「でも、そんなお前でも俺はそばにいる。たった一人の友達だからな。」
少年「友達?」
青年「ああ、この世でたった一人のな。」
少年「・・・じゃあ、この世でたった一人の友達を失ったら僕は今より不幸になるね。」
青年「ん?あ、そうだな。」
少年「ねえ、たった一人の友達君、お願いがあるんだ。」
青年「ん?なんだ?」
少年「ちょっと目を閉じてくれない?」
青年「目を?」
少年「いいから。渡したいものがあるからさ。」
青年「わかった。」
青年、目をつぶる
少年「いつもありがとうって感謝の気持ちを込めてね。」
少年、プレゼントを手に持ち、青年の背後に立つ
少年「じゃあ行くよ。3、2,1」
1と言ったその瞬間、少年が青年の頭を思いっきり殴る
と、同時に暗転 カットイン
ここからはセリフのみ
少年「今までありがとう。僕にはもう君はいらないみたいだ。」
青年「(息荒く)なん・・・で。俺が・・・いなくなったら。」
少年「大丈夫。今はネットで友達が作れる時代なんだよ。」
青年「おまえ・・・おれ・・・は・・・ほんとうは・・・。」
青年の声がしなくなる
少年「じゃあね。」
少年「(笑っている)」
照明チェンジ 地明かり
少年、歩いている
そこへ男がやってくる
男「やあ、こんにちは。」
少年「・・・」
男「・・・」
少年「え?僕?」
男「ああ、君しかいないだろう。」
少年「そっか。こんにちは。」
男「なにかいいことがあったのかい?」
少年「なんで?」
男「さっきからスキップしたり鼻歌を歌ったりしているから。」
少年「(笑う)まあね。」
男「そう。それはよかったね。」
少年「それよりおじさんはこんなところでなにをしてるの?」
男「私?私かい?私は商売をしているんだ。」
少年「商売?」
男「ああ。なんでも屋っていうんだよ。」
少年「なんでも屋?」
男「そう。なんでも屋。頼まれたことはなんでもするよ。」
少年「そうなんだ。でも、僕に商売しても無駄だよ。お金持ってないから。」
男「はっはっは。子どもからお金は取らんよ。初回無料ということで、今回は特別だ。なん
でもお願いしてみなさい。」
少年「いいの?」
男「ああ、もちろん。」
少年「じゃあ、友達になってくれる?」
男「そんなのでいいのかい?」
少年「だめ?」
男「もちろん、いいとも。」
少年「ホント?やったー!」
男「よろしくね。」
少年「うん。よろしく。」
男「あ、そうだ。私はね、友達になったら必ず約束してることがあるんだ。」
少年「なに?」
男「友達には嘘をつかないこと。」
少年「・・・」
男「守れるかい?」
少年「うん。」
男「いい子だ。じゃあ、おじさんは仕事に戻るから、あの銅像の下で待っててくれるかい?」
少年「わかった。」
男「じゃあ、またあとで。」
少年、去る
暗転
男にサス
男「皆様、一人の少年の物語をご覧いただき誠にありがとうございました。ここから話すは
補足になります。少年と同じクラスで演劇部の林君。以前は少年と仲が良かったようで。
少年が教室に閉じ込められた日、そうです。科学の実験の日です。林君は少年を可哀想
に思い、カギを開けてくれていました。しかし、声をかけなかったみたいです。なぜ声
をかけなかったのか。いえ、かけれなかったのです。林君はこう言いました。教室で一
人で喋っていたと。・・・またあくる日、街の大人たちがふと足を止めなにかを見つめ
ていました。大人たちは口々にこう言いました。一人で喋っている少年がいたと。・・・では、少年が一緒に練習していたのは誰だったのでしょうか。少年は一体、誰を殺したのでしょうか。そして、少年は誰と友達になったのでしょうか。・・・皆様はお気づきになられましたか?」
男の左右にもサス
少年と青年がいる
青年は後ろを向いている
男「今一度、胸に手を当ててみてください。そして皆様にお聞きしたい。あなたも殺していませんか?」
少年・青年・男「もう一人の自分を。」
幕が下りる




