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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第三章

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97 夏休みの総括



 コランダム公爵家に帰った私とアヤナは今回の離宮滞在について話し合った。


「私から見ると、今回のイベントは複合って感じ。まず、特訓ね」


 ゲームのシナリオでは、主人公が攻略相手と魔法の特訓をするというミニイベントが発生する。


 魔法に成功すると好感度がたくさん上がり、失敗すると好感度が少し上がる。


 どちらでも好感度が上がるのは、特訓の成果ではなく特訓する主人公の努力に対する評価だから。


「魔物に襲われることもあるって言ったわよね。これも発生したわ」


 ゲームでは庭園などの散策中に襲われる。


 でも、プールで襲われるというのはないので、アヤナもまさかと思って驚いてしまった。


 ゲームでは好感度の高い攻略対象者が助けに来てくれるので、真っ先に魔導士が来たことにも違和感があったらしい。


 でも、イーラの監視のためなら納得。


 結局、アルード様が私の治療をして助けたので、攻略対象者の誰かが活躍したというフラグは立っている。


「私としてはデート系だった気もするのよね」


 アルード様の特訓の中には乗馬体験、ダンスの練習、庭園の散歩があり、ゲームでのデート内容にかぶるらしい。


 しかも、イーラの件でアルード様は激怒していた。


 総合的に考えると、アルード様の好感度は相当高いのではないかというのがアヤナの予想だった。


「アルード様とのハッピーエンドを目指しなさいよ。絶対にお勧めだから!」

「それはアヤナにとって都合がいいからでしょう?」

「そうよ」


 完全認定。


 アヤナは本当に図太い神経をしている。


「ルクレシアと一緒にいるだけで、攻略対象者から見た私の好感度が上がりそうな気がするのよね。私としてはそれをほどよい程度に調整したいのよ」


 アヤナはベルサス様を狙ってはいない。


 でも、ビビの件で明らかにベルサス様の態度が変わった。


 他の攻略対象者に話しかけられることも多くなったけれど、それは私と一緒にいるからであり、コランダム公爵家に住んでいるからだった。


「全体的に攻略対象者全員の好感度が上がるのは悪くないと思うのよ。だけど、属性授業で一緒している分、アルード様との関係は強くなりそうじゃない? 婚約者候補に選ばれたのがその証拠よ。このまま好感度が上がって、アルード様と強制的に結ばれるのは嫌なの!」


 国王はアルード様に何も言わずに婚約者候補の変更を決めた。


 つまり、政略結婚をさせる気でいる。


 その場合、光属性の使い手であるアヤナが最もふさわしいとなる可能性がある。


 ゲームであれば狙った相手と結ばれなくて失敗というだけ。


 でも、この世界はゲームと同じようではあるものの、その中の一人として実際に生きている。


 ゲーム的な強制による政略結婚エンドなんてまっぴらごめんというのがアヤナの本音だった。


「だから、アルード様とルクレシアをくっつけるしかないのよ!」

「待って。私を身代わりにして自分だけハッピーエンドになろうっていうの?」

「私を応援してくれるって言ったじゃない!」

「私が身代わりになるなんて言ってはいないわ!」

「でも、誰も狙わないのでしょう? それって誰でもいいってことよね」

「違うわよ!」

「違わないわ。ルクレシアは公爵令嬢なのよ? アルード様ではなくても、身分的に釣り合う相手をコランダム公爵夫妻が選んで結婚するだけよ。政略結婚エンドかバッドエンドね」


 私は言い返せない。


 アルード様の婚約者候補ではなくなったことで、婚約者候補らしく振舞う必要はなくなった。


 魔法学院でしっかり勉強することに専念でき、自由になった気がしていた。


 でも、それは今だけのこと。


 この世界は魔法があり、魔力のある人同士の子どもはできにくいという事情があるので、結婚相手を早く決めて結婚するのが常識。


 私は公爵令嬢。アルード様の婚約者候補からはずれたとなれば、両親が別の相手との政略結婚を考えるに決まっていた。


「恋愛結婚したければ、魔法学院を卒業するまでに相手を決めないと無理よ?」

「そんな……」


 私の心に動揺が走る。


 もう恋なんてしない。そう思っていたはずなのに、魔法学院を卒業したら、親の決めた相手と強制的に結婚させられてしまうなんて嫌だと思った。


「この世界で生きる以上、この世界のルールは絶対なの。システム強制には逆らえないってこと。つまり、私やルクレシアができるのはこの世界にいる誰かとくっつくか、強制的にくっつくことになるか、バッドエンドになるかのどれかよ」

「バッドエンドって……どんなものなの?」

「死ぬってこと」


 確かにバッドエンド。


「若くして死んでもいいの?」

「嫌よ!」

「両親の決めた相手と愛のない結婚生活を送るの?」

「それも嫌だけど、愛のない結婚生活を送るかどうかはわからないわ。一緒に過ごすうちに家族愛が芽生えるかもしれないでしょう?」

「政略結婚なのよ? 最低な相手かもしれないわ」

「その場合は離婚するわ」

「普通ならそうね。でも、政略結婚だったら家のために我慢するよう言われるわ。政略結婚ってそういうものでしょう?」


 否定できない。


「親の決めた相手と愛情を育めるかどうかを試すよりも、自分の決めた相手と愛情を育めるかどうかを試したほうがよくない? 私は絶対にそうすべきだと思うわ」


 アヤナの考え方は正しいと思った。


「私だって推しがいるけれど、推しと結ばれるかどうかはわからないわ。それでも頑張ろうと思っているのよ。諦めたら終わり。適当な人生になってしまうのは、結局のところ生きながら死んでいるようなものなのよ。誰だってバッドエンドは嫌よね?」


 アヤナがまっすぐな瞳で見つめてくる。


「恋愛したくないって気持ちがあるなら、それでもいいわ。だけど、幸せになれる可能性まで捨てることないでしょう? 修道院に入るって手もあるけれど、ずっと独りぼっちの人生なんて寂しいわよ? もし、そんな人生になったら本当のルクレシアが悲しむわ」


 私はハッとした。


「ルクレシアの中にいる誰かさん。貴方は途中からルクレシアになったのよね? だったら、本当のルクレシアの代わりにルクレシア・コランダムの人生に責任を持たないといけないわ。本当のルクレシアにその体を返すことなんてできないでしょうから、せめて幸せになるための努力はしなさいよ」


 私は何も言えなかった。


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