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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第三章

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96 夏における最大の成果



 プールに魔物がいたことの調査をするため、女子の水泳の授業は中止。


 湖のほうにも魔物がいる可能性があるため、男子の水泳の授業も中止。


 代わりに湖の水質調査を手伝うことになった。


 魔導士になるには魔物討伐で活躍しないといけないと思っていたけれど、学者や研究者として活躍することで魔導士になれることがわかった。





 舞踏会が開かれた。


 魔法学院で勉強していると、どうしても魔法関係の授業ばかり。


 社交場に顔を出す機会も少なくなるため、礼儀作法やダンスの技能が衰えてしまう。


 そこで離宮滞在時には礼儀作法やダンスなどの勉強も忘れず、機会を見て技能が衰えないように練習する場が設けられることが説明された。


「私のノルマは三回だ」


 ダンスを踊りながらアルード様が言った。


「イーラとは踊らない」

「そうですか」


 イーラは水魔法を得意としているだけに、水質調査で頑張っていた。


 でも、アルード様の怒りは消えてはいないようだった。


「アヤナとも踊らない」

「光属性の授業が一緒のはずですが?」

「私をライバル視している。だが、私の技能はすでに魔導士レベルだ。麻痺も治せないのでは話にならない」


 アルード様は幼い頃から英才教育を受けていて、ずっと光魔法を練習している。


すでに魔導士レベルなんて凄いと思った。


「レベッカとも踊らない。ルクレシアのグループを抜けた」

「婚約者候補になったからです」

「関係ない。ルクレシアは婚約者候補ではなくなった。友人として交流すればいい」

「家の事情があったのだと思います」

「それこそ関係ない。魔法学院では身分を考慮しなくていいのは、家に縛られることなく子ども同士が交流できるようにするためだ」

「そうなのですか」

「マルゴットとも踊らない」

「どうしてですか?」

「プールでルクレシアを助けに行かなかった。クラスメイトだというのに」

「そういえばそうですね。踊らなくていいと思います」

「エリザベートとも踊らない」

「エリザベートは私を助けに来てくれましたが?」

「一番足を踏まれる」


 エリザベートはダンスが下手なのね。


「そうなると、私の相手はルクレシアしかいない。ルクレシアのノルマも三回だろう?」

「そうです」

「付き合え。王子の要望だ」

「命の恩人の要望です。付き合います」


 私とアルード様は三回連続でワルツを踊った。


「休憩だ」


 アルード様はノルマを達成すると、私をバルコニーのほうへ連れ出した。


「今夜は月が明るい」

「そうですね」


 天気が良かったので昼間は暑かったけれど、夜は湖があるおかげで涼しい。


 流れていく風が心地よかった。


「ルクレシア、私と三回連続で踊っただろう?」

「そうですね」

「社交場のルールだと、私たちは恋人同士だ」


 えっ! そうなの?


 突然のルール説明に私は驚いた。


「でも、三回のノルマをこなすためです。ダンスの練習なので、何回踊っても関係ないと思いますが?」

「そう言うような気がした」


 アルード様は苦笑した。


「正直に答えてほしい。プールで魔物に襲われてしまった。また水が怖くなってしまったのではないか?」

「いいえ」


 私ははっきりと答えた。


「魔物は怖かったです。でも、魔法で立ち向かいました。炎の壁で魔物から身を守れたのは自信になります。水は怖くありません。強い炎は水に勝てますから!」


 私はアルード様に心配をかけたくなくて、にっこり微笑んだ。


「ルクレシアは強くなった。魔法学院に入ってからの成長は目覚ましい。修練すれば、光魔法を使えるような気がする」

「でも、魔法の灯りを出せません」

「光の系譜が遠いからだろう。だが、水の中で炎を出した。普通に考えると不可能だ。それで考えた。もしかするとあれは複合魔法ではないかと」


 魔法は全てに属性がある。


 どの属性にも属さないものは無属性という捉え方をすることで、魔法には全て属性があるという考え方をしている。


 でも、一つの魔法につき一つの属性とは限らない。


 複数の属性を持つ魔法もあり、それを複合魔法と呼んでいる。


「あの魔法が複合魔法であれば、水の中で使えてもおかしくない。明るかったことを考えると、火と光の複合魔法かもしれない」

「なるほど」


 水の中で火魔法と使うのは常識的に考えて無理。


 周囲が明るくなったという効果だけを考えると光魔法に酷似している。


 火と光の複合魔法のせいで私に使えたというのもわからないでもない。


「もっと多くのことを勉強すればいい」

「そうですね」

「私が手伝う。ルクレシアは私の推しだからな」

「ありがとうござまいます」


 そう答えたけれど、私はなんだか変な気分。


 なぜなら、ここはゲームの世界と同じ。


 主人公が好きなタイプの攻略対象者を狙ったり、自分のお気に入りのキャラを推して楽しむ。


 なのに、攻略対象者から推されるなんて……。


 私は笑いを堪え切れなくなった。


「嬉しそうだ」

「普通は逆のような気がして。アルード様は王子です。推されるほうですよね?」

「ルクレシアは私を推してくれないのか?」


 え?


「王子で幼馴染。元婚約者候補だろう? 普通は私を推すのではないか?」

「まあ……そうかもしれませんね」

「私を推してくれないか? 私もルクレシアを推す」

「わからなくはないですけれど……なんだか変な感じがするといいますか」

「では、友人として親しくしよう。それならいいだろう?」

「わかりました」


 友人ということであれば問題はない。


「では、決まりだ。これからは友人として親しくする。私を推すことについては考えておいてほしい」

「なぜ、推してほしいのですか? アルード様を推す女性は多くいます。私が推さなくてもアルード様の人気は抜群だと思いますけれど?」

「これからは競争する内容が増えていく。三年生になれば対人戦や対魔物戦もあるだろう? 私も参加する。ルクレシアに応援してほしい」

「なるほど」

「一緒に組むことも考えている。どうだろうか?」


 私はアルード様の申し出に驚いた。


「アルード様も組んで参加するのですか?」

「授業だからな。三人で組む場合はベルサスとカーライトがいる。だが、二人で組むとなると困る。ベルサスとカーライトのどちらかを選んだことで、二人にも周囲にも影響を与えてしまうだろう」

「なるほど」


 幼い頃から親しくしている三人だからこそ、ペアの時にどうするかで困る。


「ペアを組むような授業の時、私と組んでくれないか?」

「わかりました。そのような時はアルード様と組みます」

「よかった。ルクレシアを確保した」


 アルード様は嬉しそうに微笑んだ。


「この夏における最大の成果だ」

「そこまで言っていただけるなんて光栄です」


 そのあと、花火が上がる時間になり、会場にいた人たちがバルコニーのほうへ移動してきた。


「華やかだ。だが、別館で見たほうが近くて大きかった」

「そうですね」


 アルード様の隣で、去年のことを思い出す。


 皆が楽しそうな表情を浮かべている中、アルード様だけはどこか寂しそうな感じがした。


 でも、今年は違う。


 笑顔を浮かべ、一緒に楽しんでいる。


 良かった……これこそ、この夏における最大の成果だわ!


 心の中に安堵の気持ちが広がった。


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