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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第三章

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95 見守って



 私は目を覚ました。


 ぼんやりと映る景色は知らない部屋だけど、知っている人が側にいたのでホッとした。


「アルード様……」

「大丈夫だ。治療した。魔物も倒した。安全だ。ゆっくり休めば治る」

「はい……」

「絶対に大丈夫だ。あのような魔物に襲われた時に備えて状態回復魔法も習得している。麻痺も治せる」


 アルード様は本当に優秀な光の魔法使いだと思った。


「もう毒はない。麻痺もない。だが、後遺症で熱が出ている」


 魔法だけですぐに治るわけではないらしい。


「回復魔法には使用回数がある。状態を見極めて使う。ずっと側にいる。大丈夫だ」


 私の手を握り締めるアルード様の手は強くて熱い。


 私を最高に励まそうとする気持ちが伝わってきた。


「……死なない、ですよね?」

「私がいるというのに死ぬわけがない! もう毒はない。麻痺もない。熱が下がればいいだけだ。安心していい」

「良かった……」


 アルード様は嘘をつかない。


 毒はない。麻痺もない。あとは発熱状態に合わせて回復魔法を使い、私の生命力で頑張るだけ。


「熱い……」

「頑張れ。大丈夫だ。本当に大丈夫だからな?」


 あまり言われると、逆に不安。


「今はゆっくり休め。私が側にいる」


 アルード様は私の甲に口づけた。


「愛の加護だ。ルクレシアは必ず守られる。大丈夫だ」


 アルード様は愛情深い。だから光魔法を使える。


 そう思いながら、私は眠りについた。






 私は別館の客間に泊まった。


 翌日には高熱が下がり、微熱と疲労感だけになった。


「魔物は倒したのですよね?」


 あのあとどうなったのか、ちゃんと確認したかった。


「倒した。プールにいた者を全員退避させ、感電しないように浮遊した状態の魔導士が雷魔法で仕留めた」

「プールに魔物がいるなんて思いませんでした」

「当たり前だ。普通はいない」

「どうして全員が気づかなかったのでしょうか?」

「水のように透明で小さな個体だったからだろう」


 魔物は小さいほど魔力が少なく感知しにくい。


 プールにいた魔物はとても小さな個体だったため、誰にも気づかれなかった。


 でも、私の魔力を吸って成長した。

 

 吸った魔力で大きくなるわけではなく、吸った魔力を元に周囲の水を取り込んで自分を大きく成長させていくタイプ。


 アルード様が来た時、私の足はかなり腫れ上がった状態で、魔物刺されたことがわかった。


 最初は味見程度。針に刺されたような痛みを感じるけれど、すぐに足が麻痺することはない。


 でも、だんだんと毒が回って体が動きにくくなり、麻痺してしまう。


 早期発見、早期駆除、早期治療が望ましいとのこと。


「魔導士が二人来ました。どうしてプールに魔物がいるとわかったのでしょうか?」


 あの時、誰も魔物がいることを伝えに行っていない。


「普段は水泳を指導する魔導士しかいない。だが、今回は別室で水鏡の魔法を使い、二名の魔導士が監視している状態だった」


 イーラが何か問題を起こしたら追い払うことをアルード様が決めた。


 招待者に宣言したため、絶対に実行する必要がある。


 魔導士たちは水鏡の魔法で監視していたために音声がなく、イーラの行動を注視した監視だったこともあって、プールの状況変化に気づきにくかった。


 でも、滑って尻もちをついた私に波のようなものが襲い掛かり、咄嗟に火魔法を使ったことで緊急事態だとわかった。


「ルクレシアは魔物に刺され、毒が回ってしびれていた」


 毒は解毒魔法で消せるけれど、毒のせいで起きた麻痺の症状は特殊な状態異常の治療魔法でないと治せない。


 魔導士の一人が湖で授業を受けているアルード様を呼びに行き、アルード様が私を治療したことがわかった。


「ありがとうございました。アルード様のおかげで助かりました」

「知らせを聞いて驚いた。呼吸ができないと命にかかわる。間に合って本当によかった」


 アルード様が私に近づき、額に手を伸ばす。


「まだ熱がある。もう少しだな」


 距離が近い。


 そのせいでなんだか恥ずかしい。ドキドキしてしまう。


「つらいなら回復魔法を使うが?」

「大丈夫です」


 アルード様の手が頬に添えられた。


「顔色は悪くない」


 診断のためだというのに、私の恥ずかしさは増すばかり。


 落ち着いて……私も、ルクレシアの体も!


 念じて見ても効果なし。


「どうした? 何かあるのか? 遠慮するな。私のことは白魔導士と思えばいい」

「……どうしてプールに魔物がいたのかと思って」


 誤魔化した。


 でも、これも気になっていたこと。


 湖であれば、魔物がいてもおかしくない。


 でも、人工的に水を貯めているプールとなると話は別。


「調査中だ。ルクレシアは回復に専念しろ」

「はい」

「他にないか?」

「ないです」

「もっと話がしたい」


 私もアルード様と話がしたい。


 でも、胸がドキドキするので恥ずかしい。


 恥ずかしいから胸がドキドキしているのかもしれない。


 どっちがどっちかわからない。


「……アルード様のことを話してください。水泳の授業はどうでしたか?」

「初日は水質調査の手伝いをすることになっていた。近年、南のほうに棲みついている魔物の動きが活発だ。湖にその影響が出ていないかを調べることになっていた」

「そうですか」

「湖には魔物がいないはずだが、今回のことで魔物の生息地になっている可能性も浮上した。もしそうであれば、全ての魔物を駆逐しなければならない。調査と討伐が必要になりそうだ。予算が必要になるのもあって、兄上が面倒がっていた」

「予算の問題は大変です」

「そうだな」

「王太子殿下が離宮に来ているのは、魔物が関係しているのでしょうか?」

「兄上の公務は魔物の討伐だ。夏になると南の森の魔物を討伐する」

「そうでしたか」

「私や友人たちは子どもの頃から見学に行っている。だからこそ、兄上がいかに強いかを知っている。怒らせてはいけない人物だ。自分に従わなかったら結界を消して魔物のエサにすると脅され、友人たちと一緒に震え上がった。今となっては懐かしい思い出だが、友人たちにとっては思い出したくないことだろう」


 王太子殿下に対する男子たちの反応を思い出す。


 きっと王太子殿下は最恐なのだろうと思った。


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