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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第三章

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94 初心者水泳



 水泳の授業が始まった。


 今年は泳げるようになるという目標を掲げ、私も参加することになった。


 アヤナから説明してもらった水着が今回も用意されていて、別館で着替えることになった。


「ルクレシアは……」

「そんな……」

「全然違います」

「騙されているわ」

「補正効果?」


 私の水着姿を女子たちがじっくりと見つめてくる。


「そんなに見られたら恥ずかしいわ」

「なんでそんなにスタイルがいいのよ!」

「そうよ! 印象が違うわ!」

「着やせするということですか?」

「ムチムチね」

「お肉たっぷりですね」


 基本的に悪役令嬢は何でもすごい。


 なにせ主人公のライバル。強敵でなければいけない。


 だからこのボディなの!


「授業を開始します!」


 講師の魔導士が来た。


「今日は泳げない初心者がいます。プールを半分に分けるので、すでに泳げる人は右側に。初心者講習を受ける人は左側を使うように」


 私は左。


 アヤナは迷ったけれど右。


 エリザベート、マルゴット、レベッカも右。


 そして、イーラが左に来た。


「一緒に頑張ります!」

「水魔法が得意でしょう?」


 イーラの得意な属性は知っていた。


「魔法と水泳は別です。子どもの時に習ってから泳いでいません。初心者としてもう一度しっかり基本を習おうと思って!」


 私の不安はため息になった。





「浮いていますよ! 素晴らしいです!」


 私がすぐに水に浮かぶことができるようになったので、魔導士は褒めちぎってくれた。


「浮遊魔法と同じような感覚だと思ったので」

「そうかもしれません。ですが、浮遊魔法を使ってはいけません。使わなくても浮きます」

「大丈夫です。使っていません」


 さすがにそれぐらいは魔法なしでもできる。


 息を止める練習。できるだけ長く止める練習。水の中でそれを実践する練習。プールの底にある石を取って来る練習もしてクリアした。


 小学校の授業を思い出すわ……。


 イーラが一緒なので心配だったけれど、何も言わずに黙々と私と同じ練習をしていた。


「とても順調です。これならすぐに泳げるようになるかもしれません」


 それはそれで問題。


 ルクレシアがいかに優秀でも、水への恐怖は簡単に克服できないと思う。


 それなのに簡単にできてしまったら、おかしい気がしてならない。


「ルクレシア様は水が苦手だと聞きました。火魔法が得意なので当然です。でも、平気そうですね?」


 私が水を怖らないのでイーラは不思議に思ったようだった。


「ずっとダメだったのよ。今だってまだ苦手よ。でも、こうして学ぶ機会を与えてもらったわけだから、それに応えないとね」


 私が泳げるように練習するため、アルード様は離宮に招待してくれた。


 その気持ちに応えたい。


「勇気を出しているのですね」

「乗り越えないといけないことだわ」

「どうしてですか?」


 イーラは不思議そうな顔をした。


「公爵令嬢が泳ぐなんてことはほとんどないと思いますけれど?」

「もしかしたら水に落ちてしまうことがあるかもしれないわ。その時に慌てないようにするためよ」

「誰かが助けてくれると思いますけれど?」


 正直、イーラとは話したくなかった。


 きっと私の過去も事故のことも知らない。


 根掘り葉掘り聞かれたくなかった。


「では、もっと多くの石を広範囲に落とします。その石を集めてください」


 魔導士が箱を傾け、適当にばら撒いた。


「ではどうぞ」


 私は息を止めて水の中に入る。


 プールは深くはない。立てば胸ぐらいの水位で、頭はしっかりと出る。


 何かあれば立てばいいだけ。


 取れた!


 石を掴んだ私は立ち上がろうとした。


 その時、急に足に痛みが走った。


 とても小さな針で刺されたような感覚。


 そのせいでよろめき、水の中で転んでしまったかのような状態になった。


 でも、慌てなくていい。


 もう一度立てばいいだけ。


 でも、今度は逆の足のほうに同じような感覚がした。


 まさか……?


 私は浮遊魔法を強引に使って上昇した。


 突然水の中から一気に浮遊した私に全員が驚いた。


「どうしたのですか?」

「ルクレシア?」

「大丈夫?」

「転んだの?」

「息が続かなかったのですか?」

「えっと?」


 全員もれなく私を心配するか驚くような表情を浮かべている。


「……足に違和感があって。最初は転んだと思ったけれど、二回目も同じような感覚がしたのよ。嫌な感じがして咄嗟に浮遊魔法で浮いたわ」

「それって……」

「まさか……」


 視線がイーラに集中した。


「私は何もしていません!」


 イーラは瞳をうるうるさせた。


「魔導士様とお話していました! いくつ石を取ればいいのかと思って! ルクレシア様よりも多く取ったら無礼にならないかも確認していました!」

「そうです。イーラと話していました」


 魔導士が答えた。


「全員に注意します。プールでは突然思わぬことが起きることもあります。その時、最も疑われるのは水を操ることができる者、水魔法の使い手です。ですが、魔法が使われたような気配を感じませんでした。おそらく、ルクレシアは偶然二回もすべってしまったのでしょう。ですが、ここはプール。安全な水位になっています。慌てず立ち上がるように。そうすれば大丈夫です」


 私が滑ったことになった。


 痛みを感じたので違うと思うけれど、誰かの仕業という確信はない。


「きっと気のせいね」


 私は場を収めることにした。


「まだ水に慣れていないから……」

「そうよね。ルクレシアは初心者だもの。ちょっとびっくりしたんじゃない?」


 アヤナも合わせてくれた。


 そのおかげで他の全員も納得した。


 もう一度水の中に入るけれど、なんとなく寒気のようなものを感じて震えてしまった。


「疲れたので休憩したいのですが?」

「わかりました」


 私は端まで行ってプールから上がろうとした。


 プールサイドに足を乗せた瞬間、ぬるりとしたものが足首から離れるようにプールに落ちた。


「ひっ!」


 思わず悲鳴を上げ、本当に滑ってプールに尻もちをついてしまった。


「ルクレシア!」

「どうしたの?」

「大丈夫?」

「また滑りましたか?」


 すぐに全員がまた反応した。


「なにか……落ちたわ! ゼリーみたいなものが、足についていたわ!」

「もしかして……魔物ですか?」


 イーラが震えながら言った。


「ここはプールなのよ?」

「魔物がいるわけがないわ!」

「信じられません!」

「ありえないわ!」

「落ち着きなさい! 念の為、プールから全員上がりなさい!」

「上がって!」


 突然のことに全員が動揺してしまったけれど、とにかくプールから上がって離れなさいという魔導士の指示に従った。


 私もそうしたかったけれど、プールサイドに座り込んだまま動けない。


「ルクレシア! 何しているのよ!」


 アヤナが走って来た。


「腰が抜けちゃったの?」

「足に力が入らないの……」

「浮遊魔法で移動できるわ!」


 その手があったと思ったけれど、こういう時に限って失敗してしまった。


「できないわ……」

「誰か、手伝って!」

「わ、わかったわ……!」


 エリザベートが来てくれた。


「大丈夫よ! もし魔物がいたら雷魔法で攻撃するわ!」


 水系の魔物に雷魔法はとても有効。


 だけど、エリザベートの様子からいって、魔法の発動に失敗しそうだった。


「いけません! 雷魔法は禁止です! 濡れている人が感電してしまいます!」


 魔導士が注意した。


「そうだったわ……」

「エリザベート、足を持って! 持ち上げるわよ!」

「重いわ! 無理よ!」


 何か他に使える魔法は……身体強化!


「アヤナ、身体強化をして……」


 寒気を感じながら私は必死に声を絞り出した。


「そうね!」


 私に身体強化の魔法がかかった。


「アヤナのほうよ……引きずって……」

「そ、そうよね! 私が強くなって引きずればいいのよね!」


 アヤナも魔法は使えるけれど、動揺しているらしい。


 すぐに自分とエリザベートに身体強化魔法をかけて、私を引きずりながらプールサイドから離そうとしたけれど、突如水しぶきが上がった。


「あれは……」

「魔物?」

「逃げて!」

「雷魔法はダメです! 他の人も感電します!」

「ちょっとーーーーー!」

「嘘でしょう!」


 咄嗟に私は全力で拒否するように火魔法を発動させた。


 私たちを襲う波は大きな炎の壁に阻まれた。


 火は水に弱い。でも、強い炎は水に勝てる。


 湖に落ちた時、水の中で火魔法を発動させることができたように。


 波は蒸発するように白煙を上げ、残った部分がプールに戻った。


「絶対に魔物だわ!」

「大丈夫です! 魔導士がいます!」

「あの魔導士って水系ですよね? 水系の魔法で水系の魔物は倒せません!」


 イーラの指摘は大正解。


 全員が青ざめた。


 その時、


「下がれ!」


 アレクサンダー様の力強い声が聞こえた。


 プールに現れたのは浮遊状態を維持した二人の魔導士。


 プールを包むように結界が張られた。


「魔物がいます! 全員、着替え部屋まで避難しなさい!」


 絶対的なヴァン様の声で、非常事態であることが確定した。


「ルクレシア! 立てないなら浮遊魔法で移動しなさい!」

「体が……変です……」


 ヴァン様はすぐに側に来てくれた。


「痛みがありましたか?」

「しびれています……」

「サンダー! アルードを連れてきなさい! 麻痺です!」


 アレクサンダー様の姿が消えたように見えた。


 移動魔法のすごさを感じるしかない。


「解毒魔法をかけます」


 ヴァン様が解毒魔法をかけてくれたので、ちょっとだけ楽になった。


 でも、なんだか苦しい……息がしにくい。


「どうですか?」

「息が……しにくいです……」

「しっかりしなさい! すぐにアルードが来ます!」


 きっとアルード様なら私を治せる。


 そう思いながら、気を失ってしまった。



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