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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第三章

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93 礼儀作法



 特訓四日目。


「とても不愉快なことがあったと聞いた」


 アルード様は私が話さなくても夕食の時のことを知っているようだった。


「平民だからという理由では済まされない。私は王子として正しい判断をする」

「どのような判断であっても、私はアルード様を支持します」

「それでこそルクレシアだ」


 アルード様は優しく微笑んだ。


「今日の特訓は変更だ。礼儀作法についての授業にする」


 招待者の全員が集められることになった。





「重要な話がある」


 アルード様は招待者全員を見渡した。


「昨夜、夕食時に無礼があった。それより前についてもたびたび問題行為があった。食事の給仕をする侍従や侍女によって全て報告されている」


 それでアルード様は知っていたのかと思った。


「ここは離宮だ。王宮と同じルールが適用される。礼儀作法は守らなくてはいけない。少々は大目に見る。なぜなら未成年であり、さまざまなことを学ぶための招待だからだ。だが、教えられても改善されないということであれば違う」


 アルード様はイーラを見つめた。


「イーラ・オードルは態度を改め、他の招待者たちの言葉に耳を傾けろ。その教えによって正しいマナーを身につけなければならない。それができないというのであれば、すぐに離宮から追い出す。わかったか?」

「はい!」


 イーラは答えた。


「ですが、私は平民です。他の方は貴族です。その差はとても大きいです。正しいマナーを身につけたいと思っていますが、時間がかかります。ご理解いただけないでしょうか?」

「できない」


 アルード様は答えた。


「冬休みに王宮でマナー講座を受けている。自分で復習しながら、より向上していくための期間もあった。ここに来てからも注意を受け、何度も改めるための機会があった。それらを無駄にした責任はお前自身にある。二度と問題を起こすな。起こせば追い出す。わかったか?」

「わかりました」

「昨夜、お前がルクレシアに無礼を働いたことについても非常に腹を立てている。なぜかと言えば、婚約者候補からはずされたために一番下だと言ったからだ!」


 アルード様から怒りのオーラが発せられた。


「ルクレシアはコランダム公爵令嬢だ! 私の婚約者候補かどうかは関係ない。招待されている女性の中で最上位だ。平民のイーラであれば、相手が貴族というだけで差がある。ここは魔法学院ではない。身分を考慮しなくてはならない場所だ。ルクレシアへの無礼を謝れ! 土下座しろ!」


 私は驚いた。


 まさか、アルード様がイーラに土下座をするよう言うとは思わなかった。


「わかりました」


 イーラは床の上に座り込んだ。


「コランダム公爵令嬢」

「それではダメだ」


 アルード様は厳しい表情で言った。


「頭と手を床につけて謝れ」


 全員が息を飲んだ。


 アルード様が示したのは、命乞いをするための土下座。


 正直、そこまで謝罪させるのかと思ってしまった。


 イーラも驚いて固まってしまっている。


「ルクレシアはお前より圧倒的に身分が高い。だというのに、お前の無礼に激怒することなく、冷静に丁寧にわかりやすく教えた。だが、お前は曖昧な言葉ばかりで対応した。寛大さと慈悲深さを示したルクレシアの心を無下に扱った証拠だ。その罪は極めて重い。最大級の謝罪ができないなら不敬な者として離宮から追い出す!」

「できます」


 イーラは床の上に座り込み、床に頭と手をつけた。


「コランダム公爵令嬢、無礼を心から謝罪申し上げます」

「ルクレシア、私の側に来い」


 これからどうなるのだろうと不安に思いながら、私はアルード様のところへ行った。


「離宮での度重なる無礼な行為は厳重に処罰すべきだ。ルクレシアの意見を参考として聞きたい。不敬罪にしたほうがいいと思うか?」

「罪で裁くよりも、反省してマナーを守らせるべきだと思います」

「イーラ・オードルは顔を上げていい」


 イーラは顔を上げた。


「離宮で身分をないがしろにすることは王族をないがしろにするのと同じだ。本来なら不敬罪で投獄されてもおかしくない。ルクレシアのおかげで助かったことを忘れるな。そして、私にとってルクレシアは大切な幼馴染だ。ルクレシアへの無礼は許さないからな!」


 アルード様は全員を黙らせてしまうほどの怒りをまとっていた。


「ルクレシア、これまでは婚約者候補だからこその悩みや苦しみがあっただろう。私のせいで苦労をかけた。それについては心から謝る。これからはルクレシアの望むこと、自由を楽しめ。魔法を習うことでもいい。きっと幸せな未来が待っている。私の望みはルクレシアが幸せになることだ。何かあれば遠慮なく私に言えばいい。無礼者は処断する。わかったか?」

「わかりました」

「ここでした話は礼儀作法の教えであり、重大な警告だ。必ず心に留めろ。以上だ」


 アルード様は私の手を引っ張るようにして部屋を出た。


 どこに行くのかわからない。


 でも、どこかに行くのはわかっている。


 アルード様は立派な装飾が施された扉をノックした。


「兄上、時間をいただけますか?」


 カチャリ。


 鍵が開く音がした。


 アルード様がドアを開け、私を中に入れるとドアを閉めた。


 またしても鍵の閉まる音がする。


「兄上に報告します。招待者の一人、イーラ・オードルが無礼な行為をしました。ルクレシアにも侮辱と受け取れる発言をしました」


 王太子殿下はソファにもたれたまま気だるげな表情を浮かべていた。


「離宮は王宮と同じルールが適用されます。マナー違反については厳しく注意する必要があります。イーラ・オードルが次に問題を起こした場合、ここから追い出すと警告しました。その者は身分制を理解しておらず、ルクレシアの立場が一番下だと思っていたのです。ルクレシアが正しい説明を丁寧にしましたが、理解できませんでした。しかも、婚約者候補からはずされたせいで一番下だと思っていたのです。平民なので知らないということでは済まされません。平民であれば貴族は全員上です。そんな単純なこともわからない者なのです。不敬罪で裁くのに値すると思いました。ですが、ルクレシアが反省させるべきという意見を出したので、機会を与えることにしました。一度だけです。二度目はありません!」


 アルード様の言葉は一旦そこで止まった。


 自らの怒りを鎮めるよう深呼吸をする。


 王太子殿下が軽く手を振った。


「あっ!」


 花の香りと共に空中に漂うのは無数の白い花びらと金色の輝き。


 突如あらわれた景色が現実ではないように感じた。


「……兄上の魔法は綺麗だ」


 アルード様がつぶやく。


 その表情は強い怒りを宿しているようには見えなかった。


 吐き出した息は冷静さを失った自分への反省。


 王太子殿下の魔法によってアルード様の心が変わった証拠だった。


 鍵の音と共にドアが開いた。


「お時間をいただきありがとうございました。失礼します」


 アルード様の一礼に合わせて私も一礼をする。


 そして、退出。


 ドアが閉まり、鍵がかかった。


 王太子殿下との面会は終わり。


 なんとなく、愚痴を言ったあとに追い出されたような気がした。


「くだらないと思われたかもしれない。だが、王子として無礼者を許すわけにはいかない! 離宮での最上位は兄上だ。報告の義務がある」

「わかります。でも、今は思い出さないでください。きっとあの魔法はアルード様のためですよね。とても美しい魔法でした」

「私の魔力が暴走すると、兄上はいつもあの魔法を使ってくれた。綺麗だから見惚れてしまう。魔力の暴走が止まる」

「なるほど」

「冷静になれということだ。兄上はいつも優しく私を導いてくれる。心から尊敬する唯一無二の魔導士だ」

「そのようです」

「今日は庭園へ行く。私の移動魔法を体験しながら、自分で発動させるためのきっかけ、ヒントを探しにいこう」

「わかりました」

「本当はずっと一緒にいて、ルクレシアが望む魔法を使えるように支え続けたい。だが、明日からは水泳の授業が始まる。泳げるようになったほうがいい。水の中に入っても安心できるようになる」

「そうですね」

「初心者として水泳の授業を受けると、他の者に何か言われるかもしれない。無礼な行為は私に報告しろ。注意する。ルクレシアを愚弄する者は許さない。ようやく本当に水を克服するための道が開けた。このチャンスを無駄にするわけにはいかない」

「私もそう思います」

「私の移動魔法を楽しめ。楽しむことも、魔法を習得するコツの一つだ」


 アルード様の移動魔法は羽のように軽やか。


 心を軽く明るくするにはぴったりだと思った。


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