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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第三章

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92 特訓三日目



 特訓三日目。


「足はどうだ? 筋肉痛か?」

「筋肉痛です」

「浮遊魔法の練習をする」


 マラソンじゃなくて良かった!


「ダンスだ」


 ん?


「歓迎会をしていないだろう?」

「そういえばそうですね」


 去年は離宮に招待された時、歓迎会があった。


「去年は久々に踊ったせいでうまく踊れなかった。今年も同じようにすれば、またあのようになるのは目に見えている」

「そんな気がします」

「歓迎会はしないことになった。その代わり、最終日に舞踏会をする。ダンスの練習をしておくほうがいい」

「そうですね」

「浮遊魔法を使って踊れば、靴がひっかかることはない」

「確かに」

「ダンスの練習をしながら低空移動の練習をする。浮遊魔法や飛行魔法の練習でもあり、移動魔法のために軽やかさを感じる練習でもある」

「名案です!」

「足のことは心配するな。身体強化の魔法をかければ平気だ」


 光魔法の使い手がいると便利。特訓もしやすい。


 公爵令嬢と王子の名誉を守るため、私とアルード様はダンスの練習をした。





 夕食に行くのは常に私が最後だった。


 それは通常の時間割りにある授業よりもアルード様との特訓時間が長いから。


 席について一息つくと、イーラから声をかけられた。


「ため息はマナー違反ですよ?」

「違うわよ!」

「落ち着いたからでしょうに」

「安心の一息です」


 何気にエリザベート、マルゴット、レベッカは上級貴族の令嬢としてのマナーだけでなく、私の気持ちもちゃんとわかってくれている。


 でも、イーラは違う。


 平民は生まれ育った環境が違うし、貴族のような責務がない。


 そういったことがマナーの習得度や正確度に影響を与えていると思っていたけれど、だんだんと違うと感じていた。


 私も今でこそ公爵令嬢だけど、ルクレシアになる前は一般庶民。


 公爵令嬢としておかしくないようにマナー本を何度も読んだり、一人でこっそり練習した。


 イーラは冬休みに王宮のマナーを学んだはずなのに、それが身についていない。


 自分のためになると思って復習していない。その場しのぎで済ませてしまっていた。


「イーラはズレてしまっているわ」


 私の言葉に全員が注目した。


「ズレてる?」


 イーラは驚いた。


「バカってことですか? 酷いです! 平民だからって見下されたら悲しいです!」

「そうではないわ」


 私はできるだけ優しい口調で答えた。


「ここは王家が所有する離宮よ。だから、王宮と同じマナーなの」


 これまでは長期休みの招待者全員が貴族だったので、王宮でのマナーはそれなりにわかるだろうという前提だった。


 でも、冬休みに招待された者の中には平民がいたため、王宮でのマナーを教えてくれた。


 その時に覚えてしまえば、また招待された時にマナー違反をすることはない。


 でも、イーラは覚えていない。


 王宮のマナーは一日で覚えられるほど簡単ではないけれど、一度王宮に招待された者であれば、次は完璧にマナーを覚えて恥をかかないようにしようと思うのが常識。


 でも、イーラはそう思っていない。


 結果として勉強不足なのに、それを指摘されても反省しない。


 それでは正しいマナーを身につけることも向上していくことも難しいだろうと私は説明した。


「わかるかしら?」

「難しいです」


 そう言うと思った。


 普通はわかるかわからないかで答える。


 でも、イーラは誤魔化すような答え方をする。


「イーラはズレてしまっているという言葉を聞いて、バカってことですか?と聞いたわ。相手に質問をしたわけだから、イーラは私が答えるのを待つのが普通なの。わかるかしら?」

「なんとなく」

「でも、イーラはすぐに酷いですと言ったわね。それは相手の答えを待たずに、自分で予想した答えを相手の答えだと決めつけたからよ。勘違いの原因になるわ。相手の答えを待って、答えを聞いてから話しなさい」

「でも、勘違いではないです。ルクレシア様はイーラをバカだって思っていますよね? ズレているって言いました」

「ズレていると言うのはバカとは違うのよ。基準に合っていないことだから」


 イーラは王宮のマナーや貴族における正しい言動がわからない。


 ここで必要な基準とはズレている。


 その上、自分で少しずつ悪いほうにズラしてしまっている。


 結果的に、基準とはかけ離れたものになってしまい、理解されない。


 自分の基準ではなく離宮という場所の基準、一緒にいる貴族のメンバーの基準に合わせることが大事であることを私は説明した。


「自分を大事にしてはいけないのですか?」

「離宮ではダメだと言うしかないわ。なぜなら、絶対守らなくてはならないルールがあるからよ。それは身分と礼儀作法。これは社会のルールでもあるわ。無礼にならないように礼儀作法を守らなくてはいけないの」

「イーラは平民に生まれたかったわけではないです。仕方がないことです。なのに、一番下でないといけないのですか?」

「それがディアマスのルールでしょう? ルールを守ることは身分に関係なく大事なことだわ」


 私ははっきりと答えた。


「私の座っている場所を見て。ここはこの部屋における一番下の場所なの。なぜ、公爵令嬢の私がいつもこの席なのかがわかるかしら?」

「一番遅く来たからです」

「違うわ。席が決まっているからよ。これもルールと同じよ」


 私は全員を見回した。


「本来、このメンバーで最上位の女子は私なの。でも、いつアルード様がこの中に加わるかわからないわ。だから、アルード様のために最上位の席は常に空けて置かないといけないの。だから、私がいる場所とは反対側の場所には椅子を置いていないの。わかるかしら?」

「アルード様の席が最上位なのはわかります」

「そう考えると、私はエリザベートのいる席に座って、身分順に横並びになるのが通常の配置だわ。でも、私は横並びの席ではないでしょう?」

「そうですね。お誕生日の席みたいです」

「これは身分順に並ぶ座席とは別だということをあらわしているの。なぜこうしているかというと、皆とは違う授業のせいで必ず遅くなるからよ」


 食事のマナーとして、一緒に食事をする最上位の人が来なければ、その人が来るか欠席だとわかるまで他の人は食事を始めてはいけない。


 つまり、私を最上位の席にすると、他の人は私が来るまで食事を待たなくてはいけない。


 そこで離宮側は座席の配置を特殊なものにした。


 まずは通常の授業を受ける人を身分順の席を配置。その次に、必ず遅れる特別授業の私の席を配置した。


 こうすれば、最上位者の席は埋まっているので、通常の授業を受ける者は食事を先に始めることができる。


 私を待つ必要はないし、私も他の人を待たせることに気を遣わずに済むことを説明した。


「私がここに座っているからといって、私の身分や立場が一番低いと思う人はいないわ。そう思うのであれば間違いよ。むしろ、私の身分が高いからこそ、特別なルールや席の配置にしているのよ」

「本当ですか?」


 イーラは確認するように尋ねた。


「本当よ!」

「席を指定されたらすぐにわかるわ!」

「わからないのはイーラだけです」

「公爵令嬢が一番上に決まっているし、そうじゃないなら特別な事情があるってことよ」


 女子たちが私の正しさを証言してくれた。


「ルクレシア様は婚約者候補からはずされました。そのせいで、一番下の席だと思っていました」


 イーラが答えた。


「他の女子は婚約者候補です。私は違いますが、なれる可能性はゼロではありません。でも、ルクレシア様の可能性はゼロです。婚約者候補からすでにはずされてしまっています。一番下ですよね?」

「いいえ」


 私は否定した。


「重要なのは身分とルールよ。私が婚約者候補でもそうでなくても、公爵令嬢だから一番上なの。わかった?」

「よくわかりません」

「では、この件についてはアルード様に伝えます」


 私は毅然とした口調に変えた。


 同じ年齢の招待者同士として優しく説明するのは終わり。


 公爵令嬢として冷静に大人のように対応する。


「夕食の席において、公爵令嬢の私が一番上の身分である女性であること、特別な席の配置であることは説明しました。わからないのはイーラの勉強不足、落ち度です。今後、私への言動は気をつけるように。無礼は許しません。身分制によるルールを守らない者は、王族を最上とすることに反対するのと同じ。不敬罪や反逆罪にならないよう気をつけなさい」


 拍手が起きた。


 イーラ以外の全員がわかっている。


 私を支持する。正しいと示すためのものだった。


「応援してくださりありがとうございます。イーラ、頑張ります!」


 途端に拍手が止んだ。


 どうしようもないわね……。


 イーラ以外の全員が一斉に席を立つ。


 食事中に席を立つのはマナー違反。


 でも、一緒に食事をしたくない、できないという意志表示をするためであれば別。


「無礼者と一緒に食事をするはできません。失礼するわ」


 できるだけ丁寧に説明したつもりだったけれど、イーラにはわからない。


 これは身分差による弊害ではない。


 相手の説明や助言を理解して受け入れようと思う気持ちがあるかどうかだった。


 残念だと思いながら私は食堂を退出した。


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