88 二年生の夏休み
期末テストが終わった。
ベルサス様の予想が恐ろしいほどに当たっていたので、勉強会に出席した全員が高得点を叩き出した。
もちろん、上位を独占。
ベルサス様は不動の一位だったけれど、私は総合順位の二位。
アヤナが三位、カーライト様が四位、イアンが五位、レアンが六位。
期末テスト勉強会はビビのお見舞いを兼ねて、ベルサス様のところで毎回開くのがいいのではないかと全員が思ったほどだった。
「それにしても点数が開いたわね!」
「そうよね!」
エリザベートから茶会の誘いがあったのでアヤナと行くと、マルゴットも招待されていた。
またしても緊急お茶会。
期末テストで私とアヤナが他の女性たちとかなりの点数差をつけていたこと、レベッカの順位が相当落ちてしまったことが話題だった。
「グループメンバーとお茶会ばかりしているからよ!」
「いい気味だわ!」
エリザベートもマルゴットもアルード様に配慮して、グループの人数を半分程度に抑えている。
でも、レベッカはアルード様以上の特大グループを作ったので、激怒していた。
「アルード様から不敬だと言われればいいのに!」
「言うような方ではないけれど、そう思ってしまうわよね!」
「ベルサス様が注意したらしいわよ。他の人から不満が出るって」
アヤナがそう言うと、レベッカへの愚痴が勢いづいた。
「エリザベート、愚痴を言いたくて私とアヤナを呼んだの?」
「確認したいことがあったのよ。夏休みの招待、ルクレシアとアヤナはどうだった?」
「招待されたわよ」
アヤナが答えた。
「私はアルード様の婚約者候補。総合三位。女子では二位。呼ばれなかったらおかしいわ!」
「そうよね。でも、条件の招待が前と同じかわからないわ」
「婚約者候補の人数が変わったし、属性別の授業も増えたでしょう?」
「私とアルード様は光属性で一緒の授業よ? 結構話しているし、招待されなかったら逆にびっくりしちゃうわ!」
光属性の授業でアヤナはアルード様と結構親しくしているらしい。
話す内容は光魔法、私のこと、コランダム公爵家のことらしいけれど。
「ルクレシアは?」
「招待されたわ。アヤナの後見がコランダム公爵家だからでしょうね」
「そうよね」
「総合順位で二位、女子では一位だしね! 婚約者候からはずれたけれど、ルクレシアの実力を示して見返した感があるわ!」
アヤナはテストで私に負けたことを悔しがっていたけれど、王家が一方的に婚約者候補からはずしたり、候補の追加を決めたことについてはよく思っていない。
婚約者候補ではなくなった私が女子の一位、しかも総合でも二位になったことで、実力がなくて婚約者候補からはずれたわけではない。病気のせいであり、不運だったということがより強調されてよかったと喜んでいた。
「私もルクレシアの順位が良くて嬉しかったわ。婚約者候補からはずされてショックでしょうけれど、学力や魔法の実力を示すことができたでしょう?」
「魔法学院の成績のせいで候補からはずされたわけではないってことをはっきり示せたわよね。だけど、王家からの招待は婚約者候補を選ぶためかもしれないわ。そうなると、婚約者候補からはずれたルクレシアが招待されないかもしれないって気になっていたのよ」
「レベッカも気になるわよね。婚約者候補だけど、総合順位が低かったわ」
レベッカの女子の順位は十二位。総合では三十五位だった。
これまでは女子の総合五位までが招待されていたので、そうなるとレベッカは対象外。招待されない可能性がある。
「レベッカに聞いても教えてくれないのよ」
「招待されたかどうかをね」
それで私とアヤナに先に確認することにしたらしい。
「じゃあ、秘密の採決をするわ!」
突然、アヤナが言い出した。
「レベッカが招待されないほうがいいと思う人!」
迷うことなくアヤナ、エリザベート、マルゴットの手が上がった。
「多数決で決まり。レベッカは招待されないってことで」
「決めるのは王家よ?」
私は眉をしかめた。
「王家は失敗したわね。女子の一位を候補からはずして、女子の十二位を候補にするなんて」
「そうよね」
「そう思うわ」
いつの間にかこのメンバーにおけるレベッカの評価も下がってしまっていた。
私はずっとレベッカを信頼していたし、サブリーダーとして頑張ってくれていたのも知っている。
レベッカの今後が気がかりでならなかった。
夏休み。
私とアヤナは王家の離宮に行った。
勉強のための合宿再びとも言う。
招待者にはレベッカもいた。
でも、女子の総合順位で六位だった平民の女性――イーラもいた。
「アヤナ様!」
イーラは冬休みに王宮に招待されていた平民の女性。
魔法の実技の点数がよくないので、特級クラスではなく上級クラスにいる。
「元気そうね。またよろしくね!」
「こちらこそよろしくお願いいたします!」
青い髪と瞳を持つ可愛い系の少女。
ピンク系の可愛い少女であるアヤナとの組み合わせがぴったり。
二人でアイドルとして売り出せば、人気が出そうだと思った。
「アヤナ様が婚約者候補に選ばれたのは当然です! 冬休みの時、平民の私にも優しくしてくれました。きっと王家もその慈悲深さを高く評価したのだと思います!」
「ありがとう」
アヤナはアルード様を狙っていない。
なので、作り笑い。
「アルード様の婚約者になるのはアヤナ様です! ライバルなんて蹴散らしちゃってください!」
「なんですって!」
「平民のくせに!」
「生意気です!」
早速イーラはエリザベート、マルゴット、レベッカの怒りを買った。
素早くアヤナの後ろに隠れるイーラ。
「アヤナ様、頑張ってくださいね! 応援していますから!」
「だったら余計なこと言わないでよ。私まで睨まれるわ」
去年の夏休みもいろいろあったけれど、最後は全員で仲良くできた感があった。
今回もそうなりますように……。
心から祈ることにした。
「これから離宮について説明させていただきます」
説明役はアルード付きを務めるエーデン。
内容は去年とほぼ一緒だった。
離宮での滞在は復習のための講義、魔法練習、自主勉強の時間にしてほしい。
今年は南側の森に生息する魔物の数が増えているという報告が上がっているため、庭園を散歩する時は注意してほしいとのことだった。
まさか、魔物が出るシナリオ?
とにかく争うようなことはしたくない。人間とも魔物とも。
なのに、イーラは上級貴族であるエリザベート、マルゴット、レベッカに敬意を払わない。
アヤナを全力で応援すると言って、何かあればアヤナの後ろに隠れてばかり。
その様子を見ながら、平穏な日々が遠のくばかりだと感じていた。
「なんとかしてくれない?」
アヤナが私の部屋に来た。
「イーラがうざいのよ」
「自分でそう言いなさいよ」
「だって、アヤナ様の側にいたいってうるうるされちゃうのよ」
アヤナはため息をついた。
「あの三人も些細なことで目くじら立てるでしょう? イーラは平民だし、マナーがちゃんとできていないのは冬休みの時にわかっていたはず。無視すればいいのに」
「マナーを守れないイーラにも責任があるわ。王宮で習ったわけだし、自分でも勉強して次は大丈夫なようにしておくべきでしょう?」
「わかるわよ。だけど、平民が王家から何度も招待されるなんて普通はないでしょう? テストで高得点を取るほうが優先よ」
私とアヤナが話していると、ドアがノックされた。
エリザベート、マルゴット、レベッカだった。
「何を二人で話しているの?」
「こそこそ話のようね」
「私たちが来たのはイーラのことです」
三人はマナーを守らないイーラが気に入らない。
ここは王家の離宮だけにマナーはしっかりと守らなくてはいけない。
上級貴族であり、アルード様の婚約者候補である自分たちにも平気で無礼なことをしている。
私のほうからもイーラに注意してほしいと伝えるために来たことがわかった。
「どうしてルクレシアは何も言わないの?」
「昔なら真っ先に攻撃していたでしょうに」
「ルクレシア様が変わったのはわかりますが、この件については静観すべきではないと思います」
私はため息をついた。
「全員の言い分はわかるのよ。だけど、相手にする必要があるの? マナーができなくて困るのはイーラだわ。エリザベートたちが言わなくても、いずれ離宮の人に注意されるかもしれないでしょう? 部屋付きの侍女に任せれば?」
「でも、今のところ態度を改める様子がないわ!」
「部屋付きの侍女も何も言ってないのよ!」
「身分は重要です。礼儀作法も守るべきです。それができない者が離宮に滞在するのはおかしいです!」
「イーラを招待したのは王家よ。私たちがそのことで口を出せるわけがないでしょう? どうしても言いたいならアルード様に言うしかないわ」
「ルクレシアから言ってよ!」
「そうよ!」
「公爵令嬢の責務です」
「賛成。婚約者候補だからこそ、アルード様に言えないこともあるわ」
四人に詰め寄られた私は嫌だと言えなかった。




