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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第三章

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86 驚くべき変化


 次の週も私はアヤナと一緒にビビに会いに行った。


「ルクレシア! 歓迎します!」


 ビビが前よりも元気な声で迎えてくれた。


 玄関で。


 公爵家の令嬢らしい素敵なドレスを着ていた。


「起きても大丈夫なのですか?」

「身体強化の魔法と浮遊魔法のおかげです」


 ジーヴル公爵は身体強化の魔法や浮遊魔法を使える者を雇い、ビビ付きの侍女にした。


 そのおかげで寝たきりではなくなり、普通の生活ができるように少しずつ練習しているということだった。


「白魔導士も魔法医も名案だって!」

「良かったわ」


 私とビビは手をつなぎながら応接間に向かった。


「これは手土産です。ビビに」


 クッキーでアイスクリームを挟んだお菓子を持って来た。


「わあ! 素敵!」

「溶けないように保管してください」

「お兄様、すぐに食べたいです!」

「では、皿とカトラリーを用意しましょう」

「お皿とおしぼりだけで。これはサンドイッチのように手で食べるのです」

「そうでしたか」


 ビビは浮遊状態に慣れていて、バランス調整もお手のもの。


 ずっと寝たきりだったので、浮遊状態で体が軽く、あちこち移動できるのが楽しくて仕方がないらしい。


「美味しい! これならたくさん食べられそう」

「真似をして同じものを作れそうです」

「実はこれはただのクッキーではないのです」


 滋養豊富な魔法植物を細かく刻んで混ぜている。


 少し苦味があるけれど、冷たいアイスと一緒に食べれば全然わからない。


 ビビは小食でアイスクリームしか食べたくないという日もあるらしく、それでも食べられそうなものを考えてみたことを話した。


「これがレシピです」

「ありがとうございます」


 ベルサス様は嬉しそうにレシピを受け取った。


「食後のデザートやお茶の時間が楽しみになるでしょう」

「ルクレシアはなんでもできるのね! すごいわ!」

「アイスクリームは作れません。パティシエに頼んでください」

「お兄様は作れますよね? とても上手なのです」


 ベルサス様が恥ずかしそうな表情を浮かべた。


 そういえば、子どもの頃にアイスクリームが食べたくて氷魔法を習ったというエピソードがあったとアヤナから聞いた。


「お兄様はアイスクリームとシャーベットが大好きだから、氷魔法を必死に練習したのです。それで、氷魔法が得意になったのです!」

「そうでしたか」

「美味しいもののためなら頑張れるわよね」


 余計に恥ずかしくなったらしいベルサス様が可愛く見えてしまった。


「ルクレシアには伝えておきたいことがあります。ビビの治療についてです」


 白魔導士も魔法医もビビが寝たきりの状態は良くないと思っていたが、子どもの頃からずっと病気だったために体力がない。


 まずは体力をつけてからと思っていたが、魔力の消耗は体力の消耗につながる。ベッドか起きるのがやっとで、立ったり歩いたりする練習がほとんどできなかった。


 でも、浮遊魔法や身体強化の魔法を使えばできる。


 体が弱くても起き上がったり、立ったり、歩けることをビビが証明した。


 白魔導士や魔法医は大発見だと絶賛。


 浮遊魔法や身体強化の魔法は健常者の強化目的に使うのが常識で、病気の治療やリハビリのために病人にかけるという発想がなかった。


 そこでジーヴル公爵が宰相としての権限を使い、医学関係者にこの情報を伝え、より多くの治療やリハビリに取り入れて有効度を検証していく方針を固めたことを説明された。


「医学関係者が論文を書く際、この方法を思いついた者としてルクレシアの名前を載せたいそうです。いいでしょうか?」

「構いません。でも、私以外の人がすでにそのような方法を試していそうですけれど」

「誰かに聞いたのですか?」

「いいえ。ふと思いついただけです。私も病気の時は力が入らないので、身体強化の魔法があれば楽になるのではないかと考えたりしていました」

「なるほど」

「回復魔法には一日あたりの上限があります。それを身体強化の魔法で補うこともできそうですね」

「身体強化もずっとかけるのはよくないようです。ですが、寝たきりもよくありません。健康的な体を作るための一環であれば、時間を決めて使うのは有効でしょう」

「お兄様は学院でルクレシアと話せます。私が話したいです」


 ビビがむくれてしまった。


「そうですね。ビビが話してください」

「ルクレシア、私は魔力を抑える練習をすることになりました。でも、どうすればいいのですか? 教科書も読みました。でも、全然できません。ルクレシアはどうやって魔力を抑える練習をしたのですか?」


 困ったわ……。


 私は子どもの頃のルクレシアを知らない。


 ルクレシアになってから魔力の扱いも昔の教科書を引っ張り出してやってみたけれど、あっけなく簡単にできてしまった。


 苦労していないので、正直よくわからない。


「抑えることをイメージするだけなのですが……」


 ビビはベッドの上で寝たきりだった。


 だからこそ、九歳であれば当たり前に知っていそうなことであっても、実際にしたことがない。


 そのせいで具体的なイメージがわかず、魔力を抑えられないのではないかと感じた。


「アヤナはどうしたの?」

「抑えないとって思うだけよね?」


 やっぱり。そんな気がした。


 それでできてしまう人はいい。でも、できない人は困る。


「ビビは……深呼吸ができますか?」

「できます!」

「では、ゆっくり息を吸って、止めます。息を止める時間は頭の中で三つ数える程度です。やってみてください」

「わかりました」


 ビビは目を閉じると深呼吸をした。


「できました。どうですか?」

「いい感じだと思います。これを朝昼晩でやってみてください。一番大事なのは、息を吐く時に魔力だけは出さないと思うことです。実際にそれができているかどうかは関係ありません。自分の意志として、魔力を出さないと思うことが大事なのです」

「わかりました。でも、それだけでいいのですか? 普通に息をするだけですよね?」

「人間は無意識に魔力を取り込み、外に出しています。ビビは無意識に出てしまう方が強いので、それを意識的に抑える……」


 私は思いついてしまった。


「ベルサス様、ビビを大気中の魔力が豊富な場所に連れて行ったらどうですか? 息をするだけで魔力をたくさん取り込めます。自然に魔力を放出してしまうとしても、取り込む量が多くなるはずなので、体の負担が少なくなるはずです」

「そうですね!」


 ベルサス様は私の考えをわかってくれた。


「両親に聞いてみます! 白魔導士や魔法医が賛成するのであれば、空気中に多くの魔力がある場所で静養させてみます!」

「えー! ルクレシアに会えなくなってしまいます!」

「短期間だけでもいいので、効果があるかどうかを確かめましょう。早く元気になれば、ルクレシアともっと会えるようになります」

「ルクレシア、私のことを忘れませんか?」

「心配しなくても大丈夫です。忘れるわけがありません」


 私は優しく微笑んだ。


「実はもうすぐテストがあるので、勉強しないといけません。その間にビビも浮遊魔法や身体強化を使って歩く練習をしたり、静養について話し合ってください」

「勉強ならお兄様が教えてくれます。きっとルクレシアは一番を取れます!」

「一番はいつもベルサス様です。さすがに敵いません」

「来週は勉強会を開きます。ビビもそのほうが喜ぶでしょう」


 来週もジーヴル公爵家に行くことが決まった。


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