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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第二章

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77 二つの選択



 お酒が出ていることもあり、女子は食事をしたら部屋に戻るように言われた。


 騎士と魔導士の協力兼対決ダンスが盛り上がっていたので、それに紛れて大広間を退出する。


 入浴したあと、女子会をするためにマルゴットの部屋に集まることにした。


「アヤナに話しておかないといけないわ。魔導士や王太子殿下のことよ」


 エリザベートが凄んだ。


「実はそのことで聞きたかったの。私は王宮のことなんか全然知らないし、没落寸前の貴族の養女だわ。暗黙のルールやマナーみたいなことがあるなら教えてもらいたくって」

「そうだと思ったわ。私の兄やマルゴットの姉は魔導士だから、そういうのは詳しいのよ。だからこの機会に教えてあげるわ」

「助かるわ!」


 私もアヤナと同じ。助かります。


「まず、基本中の基本。魔導士に名前を聞いてはいけない。誰なのか探ってはいけない。誰かもしれないと公言してはいけない。魔導士は魔導士。王宮に就職した人の誰か。わかった?」

「わかったわ。でも、どうしてなの? 魔導士になれるのは栄誉でしょう? 自分が魔導士だって誇れないわ」

「それは仕事のためでもあるし、呪術対策のためなのよ」


 魔導士になれるのは王宮に就職した魔法使いの一部でしかない。


 誰もが魔導士になりたい。でも、魔導士には実力が必要なだけでなく、人数枠の空きが必要でもある。


 空きを作るために魔導士を呪うようなことができないように、魔導士の名前については非公表になっている。


「情報を集めれば、誰が魔導士なのかはわかるの。でも、魔導士の安全を守るための配慮がいろいろとあるってこと」


 私はヴァン様に名前を聞いた。それで、名前を教えてもらった。


 二人目の講師だった魔導士についてはアレクサンダー様だと思って探ってしまった。


 完全に違反。


 今更だけど、どうしようと思ってしまった。


「魔導士は仕事用の名前を持っているの。仕事仲間とかには教えるけれど、関係ない人には教えないわ。何かあって知っても他の人に教えないようにね」

「私たちについていた魔導士がいたでしょう? もしかしたら名前を教えてくれるかもしれないけれど、それは仕事用の名前だと思うわ。何かあって呼びたい時、名前を知らないと困ることもあるでしょう? その時のためのものだけど、他の人には言わないで」

「名前で呼んでもいいって言われたらいいわよ。でも、すぐに他の名前に変更するかもしれないし、普段は周囲を気にして魔導士様って呼んでおくのが無難ね」

「そうね。魔導士様が一番安全よ」

「気をつけるわ」


 私も気をつけます!


「あとは王太子殿下についてだけど」


 エリザベートがマルゴットを見た。


「マルゴットが説明してくれるわ」

「ちょっと! レベッカでいいわ」

「なすりつけないでください!」

「じゃあ、ルクレシアが教えるわ!」

「無理よ。他の人にして!」


 教えられないので押し付けるしかない。


 じゃんけんで決めることになり、マルゴットが負けた。


「最悪」

「大丈夫よ。アヤナが結界を張っているから」

「そうです」

「そうよ」


 私も同じように言っておく。


「仕方がないわね。アヤナは将来王宮に就職するかもしれないし、恩を売るためにも教えてあげる」


 ただでは転ばないマルゴット。


「王太子殿下はとても優秀な方だけど、前王妃の子どもなの」


 政略結婚の前王妃は王太子を生んだあとに病死。


 その次に恋愛結婚で王妃になった女性がアルード様を産んだ。


 つまり、異母兄弟。


「王太子殿下が次期国王よ。でも、国王陛下も王妃様もアルード様を溺愛しているわ。だから、アルード様が王位につくかもしれないと思っている人もいるの」


 単純に第二王子が可愛いというだけの理由ではない。


 国王と王太子の関係が非常に悪いせいでもある。


 国王は王太子に光魔法を習わせていたが、王太子は他の魔法も習いたいと言い出した。


 国王はそれを許さず、光属性だけを習うように言った。


 でも、王太子は独自に教本を見たり練習をしたりして水魔法を習得した。


 そのせいで水と相性が悪い属性の婚約者候補がはずれることになり、貴族たちに影響が出た。


 王太子の属性変更は政治や貴族に影響するため、勝手なことをするなと国王は激怒し、厳重に注意した。


 ところが、王太子は風魔法も習得した。


 そのせいで風と相性の悪い婚約者候補もはずれることになった。


 当然、国王と王太子の関係は非常に悪くなった。


 そして、政治や貴族への影響よりも魔法の習得を優先した王太子に対し、貴族も不安視するようになった。


 でも、王太子を悪く言えば、王太子やその支持者に目を付けられる。


 そのため、王太子を讃えるのはいいけれど、それ以外のことは公言しない。


 それが暗黙のルールであることをマルゴットは話した。


「王太子殿下に逆らってはいけないわ。邪魔者は魔物のエサにするって平気で言う人なのよ」

「怖い人ってことね」

「それから王太子殿下の前でアルード様と親しそうにしていると目を付けられるわよ」

「えっ!」


 アヤナは驚いた。


「もしかして、王太子殿下とアルード様の兄弟関係は悪いの?」

「逆よ。王太子殿下はアルード様を心配しているの。王位簒奪をそそのかしそうな貴族を近づけたくないのよ」

「婚約者候補はどうなるのよ? 目を付けられない?」

「婚約者候補は仕方がないわ。国王が認めている女性だもの。でも、それ以外の女性はわからないわ。実際に処罰された人もいるから注意してね」

「ようするにとっても怖い人なのね」

「そういうこと」


 マルゴットがため息をついた。


「気難しい人でもあるみたい。だから、結婚もしていないし、婚約者も候補者もいないの。側にはお気に入りの者だけだって。近づくことさえ許さないのよ」

「じゃあ、ハウゼン伯爵は大変じゃない? 友人だし王宮の魔導士よね? ということは、王太子殿下に仕えているわけでしょう?」

「お兄様の仕事については何も知らないわ。守秘義務があるから話せないの。でも、友人だから王太子殿下に何か言われることはあるでしょうね。難しい仕事を任されていないか心配だわ。魔物討伐のような仕事であればかえって安心というか喜びそうだけど」


 魔導士の仕事は多種多様。


 王族あるいは上司の魔導士次第で極めて重要な任務から雑務まで何でもこなさなくてはならない。


 魔導士になるのも大変だけど、魔導士であり続けることもまた大変らしいとエリザベートは話した。


「もし魔導士でお兄様らしい人がいても、絶対に名前は呼ばないで! 素性さえ隠せないのかと叱責されてしまうわ。知らんぷりで魔導士様って呼んでね」

「私の姉も同じよ。見て見ぬふりをしてね」


 魔導士だけでなく、魔導士の家族も大変そうだと思った。





「じゃあね!」

「おやすみなさい!」


 女子会が終わった。


 エリザベートと部屋に戻った私は驚いた。


 部屋の中に魔導士がいたので。


「どこに行っていた?」


 間違いなくアレクサンダー様だった。


「上階にあるマルゴットの部屋です。女子で集まって話していました」


 エリザベートは緊張した面持ちで答えた。


 すると、魔導士がフードをはずす。


 やはりアレクサンダー様だった。


「まったく。部屋にいないから驚いた」

「ごめんなさい。お兄様」

「だが、ルクレシアも一緒であれば女子で何かしているのだろうと思った。宴会から退出した時間が早かったからな」

「そうなのです。話し足りない感じがして、全員で集まりました」

「仲良くしているのか? マルゴットやレベッカもいるだろう?」

「招待された女子は五人だけです。問題を起こして迷惑をかけないように自重することになっています」

「わかっていると思うが、王太子殿下が来ている。より慎重に行動するように。失言するな。私のことを名前で呼ぶなよ?」

「もちろんです!」

「ルクレシアには別の話がある。ついて来い」

「はい」


 アレクサンダー様がフードをかぶった。


「借りているローブがあるだろう? あれがいい。顔を隠せる」


 私はすぐにガウンの代わりにローブを着ると、フードで顔を隠した。


「何があっても黙っていろ。許可が出るまで話すな」


 私は頷く。


 アレクサンダー様と廊下に出ると、浮遊魔法と移動魔法をかけられた。


「上だ」


 私はアレクサンダー様についていく。


 到着したのは見張りの塔。


 そして、窓から出てさらに上の屋根の部分に私を呼び出した人がいた。


「うまく木の実をあぶることができたようですね」


 ヴァン様だった。


「最初にあぶったものはわかりませんが、それ以外は大丈夫でした」

「公爵令嬢が木の実をあぶるなどおかしいとしか言いようがありません。ですが、自分でできれば誰かに頼る必要はありません。便利です」

「そう思います」

「学祭では肉を焼いていたそうですね」

「ご存じでしたか」

「第二王子のクラスが焼き肉屋をしたことも知っています。ですが、その話をするために呼んだわけではありません。非常に真面目な話です。こっちに寄りなさい」


 私はヴァン様の側に近寄った。


「二人だけで話します。呼ぶまで下がりなさい」

「はい」


 アレクサンダー様が下に降りてしまう。


 結界が張られた。


「チョコレートのことです」

「えっ!」


 心の準備をしてなかった私は思いっきり動揺した。


「チョコレート、ですか?」


 バレンタインデーのチョコレートのことしか思い浮かばない。


 でも、もしかすると違うかもしれない。


「私に二つの箱から選ばせようとしましたね? 無礼です。最初から二つとも献上しなさい」


 やっぱりバレンタイーーーーーン!


「申し訳ありません! 実は深い深い事情が……」

「第二王子から聞きました。せっかく恩を売ったというのに、情報と交換で消えました」


 取引があったらしい。


「正直に答えなさい。第二王子が好きですか?」


 運命の選択。


 そんな気がした。


「第二王子と結婚したがっていたのは知っています。ですが、さまざまな変化がありました。自分の将来について考え直す機会かもしれません。第二王子の婚約者候補でいたいですか? それとも婚約者候補からはずれたいですか?」


 私の心の中でいくつもの気持ちがせめぎ合う。


 それはさまざまな属性の魔法の中から、たった一つの魔法を選ばなければならないつらさに似ている気がした。


「選べません」


 私は心のままに答えた。


「何が正解なのかわかりません。常識的な判断が何かはわかっています。ですが、それは本当に最善なのでしょうか? 私が幸せになれるものなのでしょうか? コランダム公爵家のためになるのでしょか? そして、アルード様のためになるのでしょうか? どれかを選べば、他の何かを失ってしまいそうで怖いのです」

「人生には選択がつきものです。今ここではっきりと答えを出すか出さないかでも未来は変わるでしょう。選ばないという選択でも構いません。それでいいですか?」

「なぜですか?」


 私は知りたかった。


「ヴァン様は魔導士です。私がアルード様の婚約者候補でいたいかどうかは関係あるのでしょうか?」

「当然です。でなければ聞きません」

「どうして関係するのでしょうか? アルード様に仕えているからですか?」


 ヴァン様は答えない。


「王太子殿下に仕えているからですか?」


 ヴァン様は私の講師役をアレクサンダー様に任せた。


 アレクサンダー様の話しぶりからいって、アレクサンダー様のほうが下であることを示している。


 そしてアレクサンダー様は王太子殿下に仕えているはず。


「……もしかして、魔導士のふりをされているからですか?」


 答えが知りたかった。


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