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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第二章

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74 魔物と魔法



 お昼のために古城に戻り、ランチを食べることになった。


 ピクニック形式で野外に敷物を敷いてパンやフルーツのランチを食べる。


 古城の周辺にも魔物が出るので、安全のためにペアを組んでいる人と離れないように言われた。


「味はどうですか?」


 パンには細かく刻まれた葉が入っていた。


「クセがある香りですが美味しいです。もしかして薬草なのでしょうか?」

「そうです。古城の周辺で採れる魔法植物です」


 魔法植物は通常植物とは違った効能を持っていて、病気や怪我に効いたり、滋養豊富なものがある。


 魔力を持たない人は摂取量に気を付けないといけないけれど、魔力のある人は大丈夫。


 むしろ魔力量を増やしたり回復するために積極的に取って構わないとされている。


「肉が入っているものもあります。これは魔物の肉です」


 魔物の種類は多種多様。


 魔法植物を食べている草食系魔物は人間にとって美味な高級食材。


 でも、魔法生物を食べる肉食系の魔物は人間にとって害悪。


「ここはかつて魔物の生息地でした。魔物を討伐するための拠点として城ができたのですが、農耕などによって食料を作ることはできません。すぐに通常の動植物や魔物に荒らされてしまうからです。そこで、食料になりそうなものを現地で調達するようになりました」


 小麦やワインなどの長期保存が可能なものは貯蔵されているけれど、新鮮な野菜や肉の代わりに魔法植物や草食系の魔物を活用している。


「ここでの食事は期待できません。狩猟で成果をあげなければ肉が出ないのです」

「男子のやる気が上がりそうです」

「午後も参加しますか?」


 あのあと魔物に遭遇したけれど、数が少なかった。


 女子たちは各自魔法を使ったけれど、緊張しているのもあって発動が遅い。


 魔物の動きが素早いのもあって当たらなかった。


 魔物にちゃんと魔法を当てている男子がいかに優れているかを実感することになった。


「エリザベートとアヤナ次第な気がします」


 あの二人は自分が女子の一番になるために張り合っていて、一回も魔物に当てることができなかったので、相当悔しがっていた。


「素早く魔法を発動させる練習になりますよ?」

「そうですね」

「普段はどうしても日常的に使用する魔法が多くなります。そういった魔法はスムーズに使えるでしょうが、攻撃魔法を使う状況はなかなかありません。このような時に練習しないと発動に手間取ります」


 確かに。


「私がいれば消火できます。大きな火を出しなさい。大きな火ほど当たりやすくなります」

「参加すべきということですね」

「私の教え子が他の者に後れを取るなどあってはなりません。女子で一番になりなさい」


 ヴァン様は容赦ない。


 難しい課題を平然と出してきた。





 午後も全員参加することになった。


 古城から徒歩圏内は安全確保のために騎士や魔導士が魔物を倒しているので、午前中はあまり遭遇しなかった。


 そこで午後は浮遊魔法を使ってもっと奥の方に行くことが説明された。


「自分で浮遊魔法を使う者は注意しろ。帰りの分として余力を残すように」


 女子には全員組んでいる魔導士がかけてくれた。


 魔導士は全員風属性、あるいは複属性使いなのかもしれない。


 指示があると着地する場所を作るために魔法で木を倒し始めた。


「ルクレシア、あれを燃やしなさい」

「いいのですか?」

「構いません。ゴミです」


 私はヴァン様に言われたように倒れた木に火をつけた。


 乾燥していないので燃えにくそうだと思ったけれど、あっという間に燃え上がった。


 ヴァン様が私の火を風で煽って大きくしている。


 木が黒くなると水をバシャンとかけ、浮遊魔法で投げ飛ばして砕いていた。


「他の木にも火をつけなさい」

「はい」

 

 他の魔導士も魔法で木を倒し、細かく切っている。


 手分けして邪魔な木を片付けているようだった。


 そして、魔法の気配を感じて様子を見に来たのか、魔物があらわれた。


 喜ぶ男子たち。


 エリザベートとアヤナも攻撃魔法を発動させた。でも、当たらない。


「雷魔法や光魔法は当てるのが難しそうです」


 どちらも細い形状の攻撃魔法。例えるなら矢。


 でも、火の攻撃魔法には燃えている砲弾のような丸い形状もあるので、魔物に当たる確率が増える。


「大きくするほど当たります」

「わかります」


 私はできるだけ大きな火をイメージして魔法を使った。


「当たったわ!」


 喜ぶ私。でも、


「ルクレシア、別のにして!」

「それは高級食材よ!」

「もったいないわ!」

「肉食系の魔物にしてください!」


 草食系の魔物に当てたので、女子たちに注意されてしまった。


「関係ありません。魔物に当てる勝負です。私が許します」


 ヴァン様の言葉は嬉しい。


 でも、次は肉食系の魔物を狙いたいと思った。





 私は草食系の魔物を容赦なく燃やした。


 肉食系の魔物だけを狙ったら、ヴァン様に怒られたので。


「草食系の魔物が増えれば肉食系の魔物も増えます。人間が肉食系の魔物を積極的に処分するほど、残った肉食系の魔物は強い個体に育ってしまいます」


 魔物にも自然界の掟、食物連鎖や弱肉強食がある。


 人間は害悪と思う魔物だけを倒したいけれど、草食系の魔物を残せば肉食系の魔物のエサを残すのと同じ。


 人間に倒されていない肉食系の魔物が強く成長する環境になってしまうとも言えるため、結局は魔物の脅威や被害につながる。


「高級食材だから残すというのは人間のエゴです。魔物は魔物。殲滅しなさい。通常動物を守ればいいのです。そのほうがより多くの人々に対する食材と安全の確保になります」


 さすがヴァン様、正しいと思った。


「えいっ!」


 私は大きな火球で攻撃した。


 魔物が炎に包まれる。


 この世界にいる人々にとって魔物は脅威。


 命、安全、平和、生活を守るために魔法が必要。


 だから、魔法使いになるために勉強する。


 ただ魔法が楽しいから、使いたいからというだけではない。


 魔法を学ぶことの意義と重要性を、私はもっと深く考えるべきだと気づかされた。


「ここまでにする! 帰るぞ!」


 責任者の騎士が叫んだ。


「水をかけていただけませんか?」


 私が倒した魔物は燃えている最中だった。


「放っておきなさい」

「でも、森林火災になってしまったら」

「構いません。ここは人間が住む場所ではありません。全部燃えたところで、困るのは魔物です」


 ヴァン様がそういう以上、私には何もできない。


「いいことを思いつきました。むしろ、煽りましょう」


 ヴァン様はそう言うと魔法を使った。


 たちどころに風が吹き、火をあっという間に大きく育てた。


「周辺を焼くらしい。急いで浮遊しろ!」


 次々に浮遊魔法が発動して、私たちは空高く移動する。


 森林地帯からものすごい量の白煙が立ち上っていた。


「大丈夫でしょうか?」

「問題ありません」


 午後の予定も終わり。


 女子で魔物に一番多くの魔法を当てたのは私だったので、ヴァン様はご機嫌だった。





 夕食のあと、アルード様についてくるように言われた。


「見せたいものがある」


 何だろうと思いながらついていく。


 アルード様が私を案内したのは古城にある塔。


「ここは見張りのための塔だ。浮遊魔法をかける」


 アルード様は私の手を引くと窓から外に出た。


 そのまま上に移動し、塔の上に立った。


「ここのほうがよく見える。向こうだ」


 森林地帯が赤く染まっている。


 大火災になっていた。


「まさかあの火が広がって?」

「そうだ」

「大変です!」


 森林火災はとても危険。初期消火ができればいいけれど、燃え広がってしまうと手に負えなくなる。


 水の魔導士がたくさんいれば鎮火できるかもしれないけれど、私にはわからない。


「このまま森林地帯を焼いてしまうそうだ。地形を変えたいらしい」

「地形を?」

「森を小さくすることで魔物の住処を狭くするらしい」


 わかる。でも。


「住処を奪われた魔物が他の地域に移動して被害がでないでしょうか?」

「可能性はある。だからこそ、森林地帯にいるうちにできるだけ狩る」

「そうですか」

「明日になって森林が焼失しているのを見れば、ルクレシアが気にしそうだと思った。だが、これは魔物を狩るための作戦だ。ルクレシアが種火を作ってくれたおかげで多くの成果が上がるだろう。役立ったと喜べ」

「アルード様のご配慮に感謝いたします」

「戻る。入浴しなければならないだろう?」

「そうですね。でも、エリザベートが先なので、むしろ丁度良いかもしれません」


 アルード様が眉を上げた。


「エリザベートが先に入浴するのか?」

「それが何か?」

「ルクレシアは本当に変わった。以前のルクレシアであれば、身分の高い自分が絶対に一番だと言っていただろう。それは正しい。公爵令嬢だからだ」

「公爵令嬢らしくすることが争いを生むのであれば、別の方法を考えたいと思います。入浴の順番など些細なことです。結局、入浴できればいいのですから。争っている間に入浴の時間やお湯がなくなるほうが嫌です」

「賢くなった」

「大人になったのです」


 実際、私は大人。中身だけは。


 この感覚はきっとルクレシアが成人するまで続きそうだった。


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