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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第二章

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70 振り払えない言葉



 翌日から早速勉強が始まった。


 まずは古城の周囲の地形、生息する通常動物や魔物についての勉強。


 森林地帯なので、四足歩行をする動物や魔物が多いことがわかった。


 春先になると通常動物が活発に動き出すため、それを狙う魔物も増える。


 この時期に魔物をしっかりと狩っておけば、そのあとで魔物が爆増しにくくなり、周辺地域への被害も少なくなるという講義があった。


「では、ここまで。昼食のあとはこの地域に生息する植物の講義になります」


 全員でランチを食べることになり、私の席順は公爵令嬢なのでアルード様に最も近い席になった。


 緊張する……。


 バレンタインデーでチョコレートを受け取ってもらえなかったので、好感度が下がっているのは間違いない。


 それから何もないことを考えると、好感度はこのまま下降していくだけのように感じた。


 もし、これがゲームであれば、狙っていない相手の好感度なので気にすることはない。


 だけど、私にとっては現実の世界。だから、放置してはいけない気がした。


 ――ルクレシアがどう思うかに関係なく、周囲はどんどん恋愛とか結婚のことで動いているわ。あとから変更しようと思ってもできなくなるかもよ? 後悔しないようにね。


 アヤナはこの世界をゲームと同じだと思う意識が強い。


 だからこその見解があるのもわかっている。


 私も同じようにこの世界はゲームと同じだからという前提で考える時があるけれど、恋愛ゲームをプレイしたいとは思わない。


 シナリオ進行のようなものに引きずりこまれないようにしたい。


 でも、この世界がゲームと同じかどうかに関係なく、人々が共有する社会概念や一般常識がある。それを無視するわけにもいかない。


「ルクレシア」


 名前を呼ばれてハッとする。


「どうしたの?」


 怪訝な表情でエリザベートに聞かれた。


「少し顔色が悪いような……体調が悪いの?」

「大丈夫よ。午前中の講義で頭に詰め込むことがたくさんあると思っていただけなの。午後もあるから、もっともっと覚えないとでしょう?」

「そうね。でも、魔法学院でも魔物や魔法植物については習ったわ。かぶるところがあるわよ」

「わかっているわ」

「無理はしないで。勉強のし過ぎで病気になったでしょう?」


 私の病気については魔法の練習による疲労からということで説明してある。

 

「魔法はあまり使わないようにね? 体調を見ながらするのよ?」

「心配してくれるのは嬉しいけれど、病気のことを話題にされて喜ぶと思う? 他の話題にしてほしいわ」


 私は会話を終わらせるように誘導した。


 これで食事を食べることができると思った時、アルード様に見られていることに気づいた。


 私がどんなことを言い、どんなふうに対応するのかを冷静に観察されている気がした。


 ――私は王子だ。私に尽くしてくれる者に報いたい。報わなくてはならないし、それが務めでもある。だからこそ、ルクレシアのしたことは許せない。間違っている。


 頭の中に思い浮かんでしまうアルード様の言葉。


 振り払えない。


 心の中にどんどん染み込んで、とれなくなってしまいそうな気がした。





 夜。


 エリザベートと同じ部屋になった私だけど、全部の荷物を移してはいなかった。


 マルゴットに譲った部屋にはまだ私の荷物があり、入浴後に使う化粧品がある。


 エリザベートが自分の化粧品を貸してくれると言ったけれど、さっさと自分の荷物を引き取った方がいいと思って廊下に出た。


「あっ」


 マルゴットの部屋のドアが開き、アルード様が出てくるのを見てしまった。


 私は慌てて戻る。


 なにせ入浴後なので寝間着にガウンをはおっただけの姿。


 この世界は夜になると早く寝るみたいなので、きっと誰にも会わずにマルゴットの部屋に行けると思っていたけれど、考えが甘かった。


 どうしよう……。


 アルード様が階段のとこまで来ると、私がいることがわかってしまう。


 さっさと階段を降りたいけれど、足音がしないようにするには気を遣う。


 緊急事態よ! 急いで!


 できるだけ早く降りていたけれど、間に合わなかった。


「止まれ!」


 頭上から聞こえるアルード様の声。


「ルクレシアか?」

「申し訳ありません」


 とにかく謝罪しないとダメだと思った。


「マルゴットの部屋に私の荷物があって……取りに行こうとしていました」

「マルゴットと部屋を変わったと聞いた」

「そうです」

「話がある。ついて来い」


 怒られそうだと思いながら、私はアルード様についていった。





 アルード様が私を連れていったのは、応接間のような場所だった。


「そこに座れ」


 私はソファに座った。


 その隣にアルード様が座る。


「レベッカから聞いた話が本当か確認する。なぜ、指定された部屋を交換した?」

「入浴の順番で揉めたのです」


 部屋は身分の順番で割り当てられた。


 それは貴族であれば当然なので、全員が納得した。


 でも、入浴する順番は身分の順番ではなかった。


 同じ伯爵家でも序列はブランジュ伯爵家のほうが上になる。


 マルゴットは入浴も身分順であるべき、自分はレベッカよりも先に入れるはずだと主張。二人の言い争いが始まった。


 侍女に確認すると、女子同士なら部屋を交換できるということだった。


 アヤナが自分とマルゴットの部屋を交換するか聞くと、レベッカは自分が二番目に入ることになるので嫌がった。


 早く決めないと入浴の時間が遅くなり、お湯の残量が減ってしまう。最悪の場合、入浴できなくなると侍女が言ったため、私がマルゴットと部屋を交換したことを説明した。


「一人部屋と二人部屋は階が違いますし、少し離れています。全部の荷物を運ぶのは大変なので、今夜は必要そうな荷物だけを移動することにしました」


 浮遊魔法を使えるおかげで、荷物の移動を私とエリザベートですることができた。


 エリザベートの浮遊魔法はまだまだ不安定なので、マルゴットやアヤナが防御魔法をかけて安全対策を行い、その間にレベッカは入浴した。


 一部の荷物の入れ替えが終わったあと、私、マルゴット、アヤナはそれぞれの部屋で入浴したことを説明した。


「これが私の知っている事実です」

「そうか」


 アルード様がため息をついた。


「ルクレシアに秘密の話があった。それで一人部屋になるようにした」


 身分順というのは表向きの理由だった。


「どんなお話でしょうか?」

「プリン味のチョコレートだ」


 ひいいいいーーーーー!!!


 心の中で魔女の断末魔のごとく絶叫した。


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