68 春休み
三学期の期末テストが終わった。
必死に勉強したけれど、男女別の試験でまたしても女子の平均点が低くなるような難しい問題が出た。
そのせいで総合順位は二十位に下がった。
女子の総合順位は五位。
女子だけの科目を得意にしているエリザベート、レベッカ、マルゴットとは点数差がついてしまい、他の科目で取り返せなかった。
アヤナは女子の一位。総合でも六位になった。
まさに主人公だと感じた。
「良かったわね。春休みのイベントに招待されて」
春休みは王家が所有する古城に招待された。
招待されたのは私、アヤナ、エリザベート、マルゴット、レベッカ。
女子の総合順位で五位までの者だった。
「これから毎年、期末テストで女子総合の五位までに入れば、必ず招待されるのかしら?」
「そうかもね」
「やる気が出ます」
エリザベート、マルゴット、レベッカは必ず期末テストは女子の総合順位で五位までに入ると宣言した。
「私も頑張るわ。招待中は貧乏生活から抜け出せるから」
アヤナらしい。
「切実ね」
「必死よね」
「憐れです」
王家の特別馬車は森の中を進んでいく。
でも、何度も途中で止まった。
「やけに多いわよね?」
「男子が乗っている馬車の調子が悪いとか?」
先にアルード様と招待された男子たちを乗せた馬車が出発している。
荷物を運ぶための馬車もあるので、かなりの間隔を開けて女子の馬車は出発していた。
「荷物用の馬車のせいかもしれないわ」
「気になるわ」
「同じく」
外の様子を探るために窓の外に視線を向けた。
横にいた護衛がいない。
「騎士がいないわ」
「何度も止まるほどだから、話し合っているのよ」
「そうね」
「そう思います」
突然、アヤナが結界を張った。
「アヤナ?」
「内緒話?」
「見て!」
マルゴットが叫んだ。
「魔物よ!」
全員が窓の外に目をやる。
猛然と走って来る大きな獣が見えた。
「大きいわ!」
「絶対に魔物よ!」
「こっちに来ます!」
「アヤナ、結界の強度は大丈夫?」
「わからないわ」
ドーン!
大きな音がして馬車が揺れた。
魔物に体当たりされたけれど、窓は無事。
でも。
「キャアアアーーーーー!」
悲鳴多数。
馬車が倒れてしまった。
私は咄嗟に浮遊魔法をかけたので馬車ごと倒れることはなく、結界の中に浮かんだ状態。
「大丈夫?」
「浮遊魔法をかけられなかったわ……」
エリザベートは悔しそう。
「防御魔法をかけようと思ったけど、間に合わなかったわ」
「同じく」
マルゴットとレベッカは防御魔法を使おうとしたけれど、発動できなかった。
「結界は大丈夫。でも、中だけしか張っていないから、馬車は守っていないわ。馬車の耐久度次第かも」
アヤナは順番に回復魔法をかけた。
「ありがとう」
「打撲が治ったわ」
「同じく」
「本当は横にいるはずの騎士が対応するべきなのに」
でも、持ち場にいなかった。
そのせいで馬車の真横からかなりの速度で近づく魔物が馬車に突っ込んだ。
「とりあえず、戦闘中よね?」
「当たり前よ!」
「結界内にいれば安全よね?」
「今はそのはず」
「馬車が壊れたら、結界に直接攻撃されます」
全員、結界内にいて怪我をしてもアヤナが治してくれるので、魔物に遭遇している状況であるにしては落ち着いていた。
光魔法の使い手がいることがいかに重要で幸運かを実感したとも言う。
「この機会に雷魔法を撃ってみたいけれど、結界内では無理ね」
エリザベートは魔物と戦ってみたいようだった。
「無理に決まっているわ」
「遮断されています」
「音も聞こえないから、様子がわからないわね」
アヤナの結界は防音効果があるけれど、逆に外の音も聞こえないという欠点がある。
「騎士のほうで対応するわよ」
「そうね」
「王家の馬車なので壊れにくいと思います。きっと特注です」
「もしかして、魔物に遭遇しているせいで馬車が何度も止まっているとか?」
「そうかも」
「可能性としては濃厚ね」
「このような状況を考えると、そのように思われます」
しばらくすると、馬車の窓から騎士の顔が見えた。
何か言っているけれど、わからない。
「アヤナ、聞こえないわ」
「結界を解く?」
「そうして」
アヤナが結界を解くと、馬車がゆっくりと動き出した。
「ああっ!」
「結界を張って!」
「浮遊魔法でもいいわ!」
「防御魔法でも!」
そう言っていると、呪文を唱えることができない。
横倒しになった馬車の位置が直される。
私が新たに浮遊魔法をかけたアヤナは大丈夫だったけれど、他の三人は結界の中でごろんとした。
「失敗……」
「同じく」
「こういう時こそ必要なのに」
瞬時に必要な魔法をすぐに発動させることができるかどうかはとても重要。
私やアヤナは魔法を使う対応が速いということがテストでわかっているけれど、他の三人はあまり得意ではない。
アヤナは順番に三人を治療した。
「回復魔法のありがたさを身に染みるわ」
「いないと白魔導士を待たないとだもの」
「痛みに耐え続けなくてはいけません」
「そうよ! 私を大事にしてよね!」
アヤナは得意顔。
「ルクレシアが浮遊魔法をかけてくれたおかげで、怪我をしなくて済んだわ。ありがとう」
「回復役は一番に守らないと。それが鉄則らしいから」
「誰の鉄則なの?」
「対人魔法戦の時、アレクサンダー様に聞いたわ。三年時の参考になると思ったけれど、春休みに役立つとはね」
「お兄様らしいわ」
エリザベートが苦笑する。
「戦闘にはうるさいのよ」
「そうなの?」
「魔物を倒さないと魔導士になれないし、その立場も守れないから」
納得。
「お怪我はありませんか?」
結界が解かれたので、馬車のドアを開けた騎士の声が聞こえた。
「大丈夫です」
「回復役がいます」
「光属性の使い手がいるので」
「そうですか。外にいる者の怪我を治していただけませんか?」
「わかりました」
アヤナが馬車の外に出る。
しばらくすると戻って来た。
「どう?」
「酷いの?」
「魔物は?」
「騎士たちが倒していたわ」
前の方にいる馬車が魔物に襲われたため、対応のために馬車の横にいた騎士は移動した。
その魔物を女子用の馬車に向かわせないようにしていたが、別の魔物が横から来てしまったせいで馬車が倒れてしまったことがわかった。
「怪我をした騎士も軽傷よ。さっきから何度も止まっているのは魔物が出るからだって。倒してから進んでいるみたい」
「ここは魔物が生息している森なのね」
「当たり前でしょう? 狩猟用の森だもの」
「春になると魔物を狩るのよ」
「魔物の数が減れば、増えにくくなります」
エリザベート、マルゴット、レベッカはわかっていて招待を受けたようだった。
「もしかして、ここでも勉強? 魔物と戦うの?」
「可能性はあるわね!」
「実戦訓練をするのかも」
「頑張らないと」
「怖くないの?」
私は三人の反応に驚いた。
「何のために魔法を習っているのよ?」
「魔法の力で国を守らないと」
「貴族として当然の義務です」
私はアヤナを見た。
「魔法が使えなくても、魔物に立ち向かう人々もいるわ。魔法を使える私たちが逃げてどうするの? 率先して魔物から人々を守らないと!」
「その通りよ!」
「力を合わせれば大丈夫よ!」
「この五人は非常にバンスが取れた構成なので安心です」
回復役の光、攻撃役の火と雷、防御役の氷と土。
確かにアレクサンダー様に教わったことを考えると、攻守のバランスがいい。
「男子に負けないわよ!」
「女子の力を見せる時よね!」
「評価されたいです!」
「ということだから、ルクレシアはいざとなったら火魔法を撃ちまくってね!」
アヤナがにっこりと微笑む。
その図太い神経を分けてほしいと思った。




