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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第二章

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63 浮遊席



 浮遊席はすでにいっぱいだった。


 でも。


「うおっ!」

「ひっ!」

「大物だ!」

「どうぞ!」


 風の使い手は空気を読むのがうまい。


 私とアレクサンダー様の姿を見ると、すぐに場所を空けてくれた。


「浮遊魔法まで、よろしいのでしょうか?」


 私は自分で浮遊魔法をかけるつもりだったけれど、アレクサンダー様がかけてくれた。


「試合が始まると大気中の魔力が多くなり、浮遊魔法への集中も途切れる。初心者向きではない」


 私たちは高い場所にいる。


 初心者の私では魔力が不安定になって浮遊を維持しにくくなるので、アレクサンダー様が浮遊魔法を担当してくれるということらしい。


「ありがとうございます」

「対人魔法戦の観戦は三年時に役立つ。エリザベートと組む可能性もある。しっかりと見ておけ」

「わかりました」

「ルールはわかっているな?」

「パンフレットにあったので。クラスメイトも気にしている人が多くて話していましたし、簡単な知識はあります」


 基本的には三年生で三人のチームを組み、予選に登録。


 学祭までに行われる予選において勝者かつ優秀だと思われるチームが選抜され、本選に進む。


 本選では得意な魔法を駆使して相手に勝利したチームの中から、観客が最も支持したチームが最優秀チームに選ばれる。


「利口な者は一年の時から三年生になった時のことを考える。三人で組むからだ」

「組むと有利そうな人と仲良くしておくわけですね」

「ルクレシアはエリザベートとアヤナと組めばいいだろう」


 それでアヤナにチケットを譲り、エリザベートとアヤナが親しくなるきっかけを作ったようだった。


「強制ではない。誰と組むかは自由だ。だが、親しいというだけで組むと勝てない。成績が悪くなる。強い者と組んだほうがいいに決まっている」

「そうですね」

「最も人気があるのは光属性の使い手だ。防御と回復全般を任せることができる。しかし、光属性の使い手は少ない。取り合いだ」


 アヤナの人気が上がりそう。


「攻撃を担当するのは火属性と雷属性が多い。そうなるとその攻撃を防ぐための水属性、土属性がいるといい」

「反属性だからですね」

「氷は水の代わりになりそうだが、実際はなれない。水は回復系の魔法もあるが、氷はない。ただし、氷の攻撃も悪くない。光に回復を任せ、氷が攻守のバランスを取る戦法もある」

「なるほど」

「キーポイントは風だ。移動魔法や浮遊魔法は極めて有用になる。相手の動きや連携を邪魔することにも使える。有能な者がいると試合が断然有利になる」

「そうなのですね」

「光、土、氷が揃うと防御力が相当ある組み合わせになる。風、火、雷と攻撃系の者で組んでも守りを崩せない。攻撃が効かないというのは判定で不利だ。負けになりやすい」

「さすが、詳しいです」

「このように考えると、まずは光、攻撃系のチーム編成なら火と雷、火と風がいい。防御系なら土と氷が手堅い。だが、属性だけで勝敗が決まるわけではない。魔力量が多く技能に長け、頭の良い者と組むのが一番いい」

「わかります」

「女性はなかなか戦闘経験を積みたがらない。授業や実習だけになりやすい。せめてこのような対人魔法戦を見ておくと参考になる。三年時の対人戦や対魔物戦で役立つ」

「それは全員必須の授業なのでしょうか?」

「当たり前だ。魔法の力は国を守るために必要だ。不参加だと卒業できない」


 必須ですね……。


「エリザベートもルクレシアも、まずは自分の得意な属性を鍛えればいい。それに風の力を取り入れ、浮遊魔法や移動魔法を使えるようになれば極めて有用だ。自分で風魔法を使うことができれば、風魔法の使い手によるサポートが必要ない。各段に強くなれる」

「アレクサンダー様は雷と風の使い手です。学生時代から複属性使いだったのでしょうか?」

「そうだ」

「選択は雷でしょうか?」

「そうだ」

「いつどこで風を習ったのでしょうか?」

「家だ。雷は父上、風は母上から習った」

「なるほど」


 きっと両親から英才教育を受けたのだろうと思った。


「ご両親が違う属性だと、二種類の魔法を習えるのでいいですね」

「必ず使えるわけではない。一つの属性しか使えないこともある。そうなると、なぜ自分は使えないのかと悩むことになる。エリザベートのように」

「ここでそのような話をしても?」

「ルクレシア以外には聞こえない。防音にしている」


 浮遊魔法以外にも魔法を使っているらしい。


「婚約者候補同士ではある。だが、結婚できる年齢ではない。今はクラスメイトとして交流すればいいだろう。それが私の答えだ」


 ハウゼン侯爵家の昼食会で、エリザベートが私と友人になる許可を求めたことについての答え。


「ありがとうございます。エリザベートと仲良くしたいです。きつい部分があるのは自分に対しても厳しい努力家の証拠です。責任感があって頼りになるところに好感を持てます」

「そうか」


 アレクサンダー様はそう言うと、私の上に視線に向けた。


「ルクレシアは人気者だな」

「えっ?」


 アレクサンダー様の視線を追うように顔を向けると、イアンがいた。


 怖いぐらいの真剣な表情を浮かべている。


 いつもの親しく話しかけやすい雰囲気は全くない。その隣にはレアンがいた。


「さきほどから防音魔法を壊そうとしている。このようなところで内緒話はするなということだろうが」

「そうなのですね」


 突然、私の周囲の空気がいきなり流れ出したような気がして、大勢の人々の声もまた聞こえ出した。


 実は結界の中にいるように静かな状態だったことに気づいた。


「ハウゼン伯爵、ここは浮遊席です。風魔法を使う者が多いので、防音魔法はご遠慮いただきたいです」

「使うなというルールはない」

「全員が気にします。ルクレシア、大丈夫?」

「大丈夫よ。迷惑をかけてしまったかしら?」

「そうじゃない。風魔法の使い手は防音魔法に気づく。でも、何も聞こえない。ルクレシアが困るような状況であってもわからない」

「ルクレシアは困っていない。有意義な話をしていただけだ」

「ルクレシアは人気がある。声をかけてくる男性も多いと思うけれど、困った時は必ず周囲に助けを求めてほしい。紳士は困っている淑女を必ず助ける。たとえ身分の差があったとしてもね」

「心配してくれたのね。ありがとう」


 私はイアンにできるだけ優しく微笑んだ。


「でも、本当に大丈夫なの。ハウゼン伯爵は対戦に興味があるらしくて、その話をしていたのよ。攻撃とか防御とか、どの属性がいいとか」

「風属性の者は必要ないと言いそうだね」

「自分で風魔法が使えれば、組む必要はないからね」


 レアンも加わった。


 双子はいつも親しみのある雰囲気を漂わせているのに、今は全然違った。


「対人魔法戦を見ておくと、三年時の参考になるんですって。観戦を楽しみましょう?」


 できるだけ緊張をほぐしたくて、私はイアンに話しかけた。


「レアンも、ね?」

「わかった。でも、何かあったらすぐに言ってね。僕たちはクラスメイトだ」

「そうだよ。僕たちは紳士だ」


 イアンは力強く言うと、アレクサンダー様を警戒するように睨んだ。


「ルクレシアには良いクラスメイトがいる。恵まれているようだ」

「そうなのです。エリザベートもクラスメイトの一人です。アヤナと一緒に楽しんでいると思います」


 私はにっこりと微笑む。


 心の中で、あの二人が喧嘩しませんようにと祈っておいた。




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