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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第二章

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62 学祭



 私のいる特級クラスの出し物は焼き肉屋になった。


 女子の全員でジュース屋が簡単でいいと言ったのに、男子につまらなくてやる気が出ないと否定され、全く支持されなかった。


 しかも、火属性が得意な生徒が肉を焼くことになったので、火属性で一位の実力がある私も肉を焼く係になってしまった。


「信じられないわ……私は公爵令嬢なのよ!」


 ゲームの悪役令嬢が言いそうなセリフを私は何度も言っていた。


「ルクレシア様がお肉を焼く姿はまるで熟練の職人です!」

「ルクレシア様の焼いたお肉が一番美味しいです!」

「ルクレシア様の全てが最高です!」


 お世辞は嬉しい。


 私のグループの人が友人やクラスメイトを連れて来ては応援してくれる。


 でも、私は次から次へと肉を焼かなくてはならないので忙しく、アヤナが代わりに相手をしていた。


 学生なのに学祭を楽しめないなんてひどすぎる!


「ジュース屋がよかったのに」


 アヤナも私の側で一緒に不貞腐れていた。


「焼肉なんて……多数決は絶対悪よ!」

「焼けたわよ」


 私は肉を皿に乗せ、アヤナに渡した。


「はいはい」


 アヤナが浄化魔法をかける。


 これで衛生面もバッチリということらしい。


 魔法学院らしい感じがした。


「ずるいわよね! 火属性と光属性に押し付けちゃって!」


 他の属性の人も仕事はしている。


 水属性の人は洗い物係と消火係。


 氷属性の人は肉を低温保存する管理係。


 土や風や雷の人は売り子やその他を担当。


 でも、肉を焼く係が一番大変なのは明らか。


「あぶり焼きが足りません!」

「どんどん焼いてください!」

「面倒ね。私も鉄板焼きが良かったわ!」


 私は火力調整の技量が高いので、魔法の火によるあぶり焼きを担当することになった。


「私が火を出すのはいいとして、あぶるのは他の人でもいいわよね?」

「そうね。やってみていい?」

「いいわよ」


 暇なアヤナは熱伝導をしないトングで肉を挟み、魔法の火の中に入れた。


「ゆらゆらしておけばいいのよね?」

「長く入れると焼きすぎるわよ」

「普通の焼き方じゃないから加減がわからないわ」

「ルクレシア様、あぶるペースを上げてください!」

「ルクレシア様の焼いた肉が一番美味しいって評判なので、注文が殺到しています!」

「あぶり焼きが人気過ぎる!」

「どんどん客が来て大変だ!」


 振り向くと、確かに客がいっぱい並んでいた。


「仕方がないわね、二刀流よ!」


 左手と右手でそれぞれトングを持った。


「二倍になるわね」

「甘いわ。私は複数使いよ!」


 一つのトングで複数枚の肉を一気に挟んであぶる。


「器用ね! さすが火属性の一位!」

「関係ないわよ! 絶対にね!」


 私はひたすら肉を焼きまくった。





 お昼で私は交代。


 アヤナも同じく午前中の担当だったので、午後は一緒にあちこち見に行くことにした。


「まずはお昼を調達しないと」

「試食すればいいのに」

「注文が多すぎて試食をする暇なんかなかったわよ!」

「一枚だけ食べたけれど、本当に美味しかったわ」


 アヤナはちゃっかり試食していた。


 しかも、自分で焼いたものは焼き過ぎたかもと言って売りものに回し、私が焼いたお肉を食べていた。


「どこが人気なのかしら?」

「パンフレットを見ればわかるわよ。他のクラスはジュース屋、スープ屋、コーヒー屋、お茶屋」

「水分系ばかりなの?」

「シャーベット屋、アイスクリーム屋」


 少し固形になった。


「パン屋、クッキー屋、おにぎり屋、あとはうちの焼き肉屋」


 なんとなくわかった。


 作りやすそう、売りやすそうなお店が多いってことが。


「おかず系はうちのクラスの焼き肉屋だけね」

「それで人気だったのかしら?」

「食堂に行く?」


 学祭中も食堂は営業中。ただし、ランチプレートになっているらしい。


「そうしましょう。私がお金を出すからアヤナもついてきて」

「それぐらい出せるわよ。貧乏だからってバカにしないで!」

「違うわ。とりあえず、座りたいのよ」


 肉を焼く作業は立ち仕事。足が痛かった。


「食堂が混んでいないといいけれど」

「回復魔法をサービスしてよ。友人でしょう?」

「忘れていたわ」


 私はアヤナに回復魔法をかけてもらったあと、一緒に食堂へ行った。


「……混雑しているわね」


 お昼の時間。一年生が担当する飲食系のお店は簡単なものばかり。


 しっかりとランチを取りたい生徒が食堂に集まっているようだった。


「回復魔法はかけたけれど、座りたいわよね?」

「痛みは治まったけれど、疲労感はなくならないわ。とりあえず、私がまとめて二人分を買うからアヤナは席を探してくれる?」

「わかったわ」


 ランチプレートとセットドリンクを二つ買う。


 アヤナを探していると、手を振るアヤナを見つけた。


「ここよー!」


 さすがアヤナ。


 大注目されてしまうのに、平気で大声を出している。


 貴族の女性らしくはないけれど、私は自然にふるまうアヤナのほうがアヤナらしくていいと思う。


 でも、側にいる人たちの意見は絶対に違う。


「アヤナ! 淑女らしくしなさいよ!」

「だって、ルクレシアに気づいてもらえないと困るでしょう? 緊急事態よ!」

「お邪魔します」


 相席だった。


 エリザベートとアレクサンダー様との。


「お会いできて光栄です」


 テーブルにランチプレートとドリンクを置くと、私は丁寧に礼をした。


「ああ、そうだったわ」


 アヤナも慌てて淑女の礼をする。


「アヤナ・スピネールと申します。お会いできて光栄です」

「アヤナは初対面よね。お兄様よ」

「お噂はかねがね」

「相席を許可する」


 テーブルの相席をする場合、相手の許可がいるのはもちろんのこと、最上位者の意向を尊重しなくてはいけない。


 この場合はアレクサンダー様なので、私とアヤナは許可をもらってから席についた。


「エリザベートはもう食べたの?」

「食べたわ。混む前に来たから」

「売り子は交代要員が多くていいわよね。私とルクレシアはずっと当番から抜けられなかったわ!」

「仕方がないわ。火属性じゃないと火を出して焼けないもの」

「雷でお肉を焼けない?」

「無理に決まっているでしょう!」

「いただきます」


 私はプレートランチを食べ始める。


 アヤナも同じ。


 食べていると話せないので、エリザベートは自分が売り子当番を終えたあとのことや、他のクラスの様子、食堂で聞こえてくる話題について話した。


「午後はどうするの?」

「お兄様は対人魔法戦を観たいらしいの。私も気になるから行くわ。二人は?」

「行きたいわ。三年時の参考になるだろうし」


 アヤナはすぐに返事をした。


「席は取れているの? ずっと当番だったのよね?」

「エリザベートは?」

「大丈夫よ。チケットを二枚もらったの」

「家族用のチケットじゃない!」


 兄弟姉妹が出場者の場合は、家族用の観戦チケットがもらえる。


「グループの人が譲ってくれたのよ」

「さすがね」


 アヤナは私のほうを見た。


「誰かさんとは大違い」


 私もグループメンバーがさまざまなチケットくれると言ったけれど、全部断った。


 なぜなら、そのチケットは家族用や親しい友人から特別にもらったもの。


 私に配慮することなく自分で使い、学祭を楽しんでほしいと思った。


「ルクレシアはないの?」

「午前中は当番があるでしょう? 自分で手に入れたチケットは自分で使えばいいって遠慮しまくったのよ」

「グループリーダーでしょう? 公爵令嬢と親しくなるための貢ぎ物よ。喜んでもらえばいいのに」

「浮遊席もあるから」


 浮遊魔法が使える人が、浮いて観戦する場所がある。


 席がなくてもそこが空いていれば見ることができそうだと考えていた。


「浮遊席も結構すごいわよ? 風の生徒と風に誘われた人たちがいっぱいいるわ」

「そうなのね。でも、それも経験になると思うわ。公爵令嬢やグループリーダーの特権に頼らず、一人の学生として学祭を体験してみたいのよ」

「一般人になりたいのね」

「こういう時に体験したいの。普段は難しいから」

「エリザベート、私のチケットはアヤナに渡せ」

「どうして?」

「レディファーストだ。私は浮遊席で見る」

「さすがハウゼン伯爵! 紳士です!」


 アヤナはキラキラと瞳を輝かせた。


「アヤナなんかに譲らなくていいのに!」

「光属性の使い手と親しくしておくのは悪くない。将来役に立つ」

「わかったわ。アヤナはラッキーね!」

「本当にありがとうございます! ハウゼン伯爵、それからエリザベートも!」

「ルクレシアも良かったわね」

「私? どうして?」

「お兄様と一緒に浮遊席だからに決まっているわ! 自慢できるわよ」

「えっ?」


 一緒に見る気はない……とは言えなかった。


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