57 大きな才能
木曜日。
私は公爵家の馬車にアヤナを乗せて王宮へ行った。
アルード様に光魔法を習うことはやめたので、ヴァン様が木曜日にアヤナを連れてくるよう言った。
「アヤナ・スピネールと申します。お会いできて光栄です」
アヤナは貴族の令嬢らしく完璧な挨拶をしたと思う。
でも、ヴァン様は何も言わない。
見たところ、かなり機嫌が悪そうだった。
「アヤナはとても優秀です。特待生として魔法学院に入学しましたし、特級クラスで私のクラスメイトでもあります。期末テストでは女子の二位でした。中間テストの成績も上位だとも思います」
「光属性では一位だと思います」
アヤナは自信がたっぷりの表情を浮かべた。
「私には魔法の才能があります。それをより磨くため、さまざまな魔法を学びたいのです。ルクレシアに風魔法を教えていると聞きました。私にもご教授いただけないでしょうか?」
ヴァン様はじっとアヤナを見つめたまま。
見極めようとしているようだった。
「アヤナは魔法が好きですか?」
「大好きです! 夢中です!」
アヤナは即答した。
「人間には可能性があります! 今は得意な属性を学ぶことで才能を引き出す教育ですが、誰もがたった一つの属性にだけ向いているとは限りません。別の属性にも向いていて、魔法を習得できるかもしれません。私もその可能性を信じて挑戦したいのです!」
さすがアヤナ……ヴァン様の考えに合っているわ。
きっとヴァン様の面接に合格すると私は思った。
ところが。
「私はとても忙しいのです。アヤナに教える時間はありません」
ダメだった。
「ルクレシアと一緒に教えてくださればいいのでは? 学校から一緒に王宮に行くことができます!」
「アヤナのことは知っています。スピネール男爵家は魔力持ちの家系ではないので、光魔法が使えるのは平民の父親から資質を受け継いだからでしょう。平民の系譜はわかりません。他の属性に期待するのは無駄です。自分が今使える魔法を鍛えなさい」
「では、光魔法を鍛えます。誰よりも優れた光の魔導士になるために」
「それは無理です。ディアマスで最も優れた光の魔導士になるのは第二王子です」
「負けません!」
アヤナは決意を瞳に宿していた。
「アルード様が幼い頃から最高の教育を受けていることはわかっています。でも、私には才能があります! この世界で最も強く大きな才能が! それを示します!」
アヤナは主人公。
きっと最高の光の魔導士になれると私も思った。
だけど。
「無礼な! この世界で最も強く大きな才能があるのは私です!」
私もアヤナもハッとした。
私たちはこの世界をゲームと同じと思っているからこその考えがある。
でも、この世界で生きている人々は、ゲームと同じだとは思っていない。
ヴァン様が信じているのは、自らの才能。
この世界で最も強く大きな力を持つ偉大な魔導士であるという自負があった。
「不愉快です! 帰りなさい!」
ドアが開く。
アヤナの体が浮き上がると、廊下の外に放り出された。
ドアが荒々しい音を立てて閉まる。
「ルクレシア」
私はヴァン様から溢れる怒りのオーラに震えていた。
「アヤナも他の者もここへは連れてこないように。私が誰を教えるかは私が決めます。教えてほしいと言っても無駄なのです。わかりましたね?」
「はい」
「帰りなさい。私の時間を無駄にしたのですから、その分練習をよくしておきなさい」
「わかりました」
ヴァン様は窓から出ていってしまった。
深いため息をつくしかない。
ドアを開けると、廊下にアヤナがいた。
床に座り込んでいる。
「大丈夫? 怪我はしていない?」
魔法で強引に強制退出させられた。
もしかしたらそのせいで怪我をしてしまい、立てないのではないかと私は心配になった。
「……失敗したわ」
アヤナはつぶやいた。
「そうね。あの言葉はまずかったわ」
「最悪……でも、自分の立ち位置がわかったわ」
アヤナは私を見つめる。
「負けないわ! ルクレシアには!」
はい?
「アヤナのライバルはアルード様でしょう?」
「光属性についてはそうね。でも、ヴァン様の教え子になれたルクレシアとなれなかった私という意味では敵なのよ!」
「ええ、そんな!」
私はアヤナの考えに驚くしかない。
「さすがに敵だなんて言い過ぎだわ! 私はアヤナも一緒に講義を受けられたらと思って連れてきたのよ? 断られてしまったけれど、それはアヤナが言葉選びを間違ったからで、ヴァン様が怒ったのは私のせいではないわ!」
「腹立つわ……系譜なんか関係ないわ! 平民だからこそ多種多様な属性の可能性を受け継いでいるかもしれないじゃない! それこそ全属性の系譜につながっているかもしれないわ!」
「そうかもね。でも、ヴァン様にはヴァン様の考え方があるし、お忙しい方だから誰にでも教えるというわけにはいかないのよ」
「ルクレシアと一緒に教えてくれればいいのに!」
「私は公爵家だから系譜もわかるし、可能性があると思ったのよ」
「そうでしょうね! 絶対そうだわ! 公爵令嬢なら一番良い家柄だもの!」
「がっかりしたのはわかるわ。でも、ここは王宮よ。心を落ち着けて帰りましょう。馬車で送るから」
私はアヤナを慰めながらスピネール男爵邸まで送った。
「ヴァン様に断られるなんて……」
アヤナは主人公。この世界で誰よりも才能を持っていそうに思える。
一緒にヴァン様から魔法を習うことができれば、風魔法も浮遊魔法も使えそうな気がした。
でも、この世界はゲームと同じ。各キャラは属性で分かれている。
主人公は光属性。
他の属性に期待するのは無駄というヴァン様の言葉も正しいような気がした。




