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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第二章

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56 大否定



 水曜日。


 私は王宮に向かう途中の馬車でアルード様に絵本を返し、光魔法は無理そうだと伝えた。


 先祖の系譜を見ても光魔法は遠く、現在は火の系譜になっている。風の系譜のほうが近いので、風魔法を練習したいことを話した。


「本当に申し訳ありません」

「気にするな。複数の属性を習うことはできるが、中途半端になりやすい。常識だ」

「そうですね」

「ところで、絵本はどうだった? 率直な感想を聞きたい」


 アルード様が言った。


「素敵なお話です。でも、幼い子供向けの内容だと思いました」

「そうか」

「なぜ、この絵本を? 魔法の灯りを使うためのコツがわかると思いました。でも、絵本を読んだあとに魔法を試しても無理でした」

「これは絵本だ。魔法の教本ではない」

「そうですけれど、教本代わりに貸してくださったのでは?」

「この絵本のテーマはなんだ?」

「魔法の灯りです」


 アルード様はゆっくりと首を横に振った。


「違う」

「友情ですか?」


 主人公の少年と洞窟で出会った少女の話。


「愛だ」


 アルード様が答えた。


「少年は少女を助けたかった。心に愛があるからだ。誰かを想う気持ち、それが魔法の灯りに込められている」


 光魔法は愛の魔法。


 アヤナに教えてもらったことが私の頭の中に浮かんだ。


「光魔法の使い手は必ず自らの心と向き合い、内なる力を引き出す。それは愛を力に変えるということだ」


 ドキッとした。


 私をまっすぐ見つめるアルード様に。


「ルクレシアの心には愛がある。そうだろう?」


 アルード様の言葉は私の気持ち――アルード様を愛しているかどうかの確認のように思えた。


 ルクレシア・コランダムはアルード様を間違いなく心から愛している。


 でも、私は違う。


 昔のルクレシアとは中身が違うなんて言えるわけがないし……。


 私は困ってしまい、うつむくことしかできなかった。


「子どもの本は頭で読む本ではない。心で読む本だ。大人になるほど何かに対して意味や理由をつけたがる。そうではなく、心で感じてほしい。でなければ、無償の愛を感じられない」

「……感じたくありません。無償の愛なんて」


 私を捨てた彼のことを思い出した。


 無償の愛なんて、相手に都合よく利用されるだけだと思った。


「アルード様は王子です。慈悲深く国民に無償の愛を与えてくださいます。でも、私には無理です。一方的に与えるだけなんて不公平です。何もかも与えたしまったあとで、何も残らなかったらつらいだけです。不幸になります!」


 不幸になりたくない。だから、愛したくない。


 もう恋もしない。無駄だから。


 二度とあんな思いをしないように生きていくと決めたから。


「無償の愛を与えることは不幸になることではないが?」

「私にとっては違います。不幸になると確信しています!」


 雰囲気が悪くなるとわかっていても、私は言わずにはいられなかった。


 いつだって私は私。思ったようにするだけ。


 なぜなら、悪役令嬢だから!


「ルクレシア、落ち着け」


 アルード様が魔法をかけてくれる。でも、その温かさがかえってつらかった。


 優しい人を傷つけ、心配させてしまったことを思い知らされる。


「申し訳ありません。心を落ち着けるため、これ以上はお話できません」


 馬車が王宮に着いた。


 急いで外に出ると、私はアルード様に一礼してすぐに走り出した。


 アルード様と一緒にいたくなかった。


 できるだけ遠くに離れたかった。


 無償の愛について語り合うなんてまっぴらごめんよ!


 移動魔法を使って逃げたくなった。





 応接間にいた私を見たヴァン様はいつもと違う反応を見せた。


「感情が乱れているようですね」


 心を見透かされてしまったと思った。


「急いで来たので息を整えているだけです」

「中間テストは終わりましたか?」

「はい。問題なく終わりました。火属性では一位だと思います」


 私は誰よりも大きな炎を出した。


 一位でないわけがない。


「浮遊魔法の練習はどうですか?」

「毎日しています。ちょっとした動作は全て浮遊魔法ですることにしています」

「具体的には?」

「階段を昇る時とか、ベッドの上に乗る時とか、浴槽の中に入る時とか」


 日常生活上において上がるという行為をできるだけ浮遊魔法に置き換えた。


 そうすれば自然と浮遊魔法を使う機会が増え、熟練していくのではないかと考えた。


「それを他の者に見られた時に何か言われませんか?」

「何も。両親には便利なので浮遊魔法の練習を自主勉強でしていると言いました。浮かぶだけでまだまだ練習中だと言いましたが、才能があると喜んでくれました」

「浮遊魔法は風魔法の一種。火魔法ではないと言って嫌がっていませんでしたか?」

「いいえ。便利なのがわかっているので、練習するように言われました」

「そうですか。木曜日は第二王子と光魔法の練習をするそうですね?」

「その件は先ほどアルード様に伝えたのですが、やめることにしました。記録上では光の系譜につながりますが、あまりにも昔なのです。私は火の系譜、次に近いのが風の系譜です。今は火と風に集中したいと思います」

「では、木曜日は王宮に来ないのですね?」

「はい。屋敷で自主勉強をします」

「わかりました。では、行きましょう」


 ヴァン様は窓から外に出た。


「自分でしなさい」


 言われると思いました!


 私は自分の魔法で浮くことができるので、もうヴァン様は浮遊魔法をかけてくれないと予想していた。


「頑張ります!」


 私は自分で浮遊魔法をかけると、ゆっくりと空中を歩き出した。


 ヴァン様は私のことをじっと見ている。


 緊張するけれど、練習の成果を見せたいし、ヴァン様に褒められたい。


「走れますか?」

「はい!」


 それも言われると思ったので、私は空中を走る練習もしておいた。


「降りますよ」


 ヴァン様は下にストンと落ちる。


 私はスカートがめくれないように抑えながら、ゆっくりと下に降りた。


「女性は面倒ですね。スカートを気にしなくてはいけません」

「ローブのほうは大丈夫なのでしょうか?」

「これは魔導士用のローブなので気にする必要はありません。普通のローブであれば、裾がめくれるでしょう」


 魔導士用のローブが欲しくなってしまう。


「今日は移動魔法について教えます」

「はい!」


 浮遊魔法の次に便利なのは移動魔法。


 さすが、ヴァン様です! わかっています!


 できるだけ早く覚えようと私は思った。


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