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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第二章

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55 絵本



 アルード様が貸してくれたの絵本は、主人公の少年が魔法の灯りを使って少女を助ける話だった。


 ありがちというか、単純というか、子ども用というか、いかにも絵本らしい。


 ――寒いわ。

 ――大丈夫だよ。僕が温めてあげる。


 少年が出したのは魔法の灯り。


 灯りは明るいだけ。それを見ただけで少女の体温を上げることはできない。


 でも、少女は言った。


 ――温かいわ。


 魔法の灯りは少女の心を温めた。


 それは少年の気持ちが少女に届いたということだった。


 二人は魔法の灯りのおかげで迷路のような暗い洞窟を抜け、明るい地上へ戻った。


 めでたしめでたしって感じ。


「これを読んで……どうすればいいのかしら?」


 魔法の勉強のために貸してくれたことはわかっている。


 魔法の灯りに関係した本にしたのもわかる。


「とりあえず」


 私は灯り魔法の呪文を唱えてみた。


 光魔法においては基本中の基本。最も簡単な魔法。


 悪役令嬢の私であればすぐにできてもおかしくない。


 でも、魔法は発動しなかった。


「アルード様が使った魔法をイメージして」


 何度も試してみるけれど、魔法は発動しなかった。


 光魔法に適性がある者は子どもでも簡単にできてしまう魔法なので、私には適性がないのかもしれない。


「光の系譜につながってはいるけれど、相当遡らないとだから無理なのかも?」


 現在のコランダム公爵家は完璧に火の系譜。


 両親も火の系譜。


 でも、母親のほうは風の系譜につながっているので、私は若干の風の系譜も受け継いでいる。


 風魔法が使えるのはそのせいかもしれない。


「浮遊魔法を練習しないと」


 私はベッドの前で浮遊魔法を使う。


 ベッドの高さに浮き上がる練習を何度も繰り返した。





 週末。


 アヤナを屋敷に招待して、中間テストのための魔法練習を一緒にすることにした。


 コランダム公爵家は火の系譜だけに、大火災を防ぐための練習塔がある。


「ここがコランダムの練習塔……高いわね?」

「一番下にいるとね」


 練習塔の一番下は地下三階の深さに相当する。


 地上部分が三階分あるため、合わせて六階分の塔ということ。


「地下は暗いけれど、火魔法を出せばいくらでも明るくなるから」

「光魔法も同じね」


 練習場が暗くても全く問題はない。


 練習する魔法で解決できる。


「火属性のテストはどんな感じ?」

「三つの中級魔から一つを選択するのよ」


 大きな炎を出す魔法。


 炎の柱を出す魔法。


 炎の壁を出す魔法。


 どれも大きな炎を出すことになるけれど、得意なものを選べばいいらしい。


「三つの魔法のどれが一番大きくなるか比べたいのよ。アヤナも客観的に見てくれない?」

「わかったわ」


 私は順番に魔法を使った。


「これが普通に使った感じ。調整すればもっと伸びるけれど、発動と同時に出せるのはこれぐらいね」

「さすが悪役令嬢ね! 中間テストはどれでもバッチリじゃない?」

「もっと大きな炎を出す人がいるかもしれないわ」

「それはわからないけれど、大丈夫だと思うわ」

「アヤナがそう言ってくれるなら安心だわ」

「じゃあ、次は私の魔法を見て」


 アヤナは結界を張った。


 人間一人分といった感じ。


「どう?」

「正方形の結界なの?」


 サイコロを大きくしたような形だった。


「どんな形でもいいけれど、人間が入れるサイズで強度が必要なのよ。自分で攻撃するよりもルクレシアに攻撃してもらったほうが確認しやすいと思って」

「なるほどね。私も攻撃魔法の練習になるから丁度良いわ」


 私は初級の火魔法を結界にぶつけまくった。


「この結界、強そう!」

「当然よ。でも、円形結界は弱いと思うのよね」


 今度は円形結界で試す。


 確かに正方形の結界と同じだけ攻撃魔法をぶつけようと思ったけれど、途中で壊れてしまった。


「最初の結界ほうが強いわ」

「やっぱり。中間テストは正方形の結界にするわ」

「結界魔法か防御魔法のどちらかよね? 防御魔法でテストを受ける気はないの?」

「私が一番得意にしているのは結界魔法なのよ」

「回復魔法ではないのね」


 主人公だけに癒し系の魔法が得意だと思っていた。


 でも、見た目はともかく中身は癒し系ではないのが確実。


「アルード様もきっと結界を選ぶわ。だから、結界勝負よ!」


 アヤナはアルード様のことを光魔法におけるライバルだと思っていた。


「うちの両親はライバル関係から恋人になって結婚したらしいわ。アヤナは狙っている人がいるみたいだけど、もしかしたらアルード様ルートに進むかもね」

「アルード様はただのライバル! 攻略する気はないわ!」

「でも、現在いる攻略対象相手で最も好感度が高いのはアルード様よね?」

「光属性の授業が同じだから嫌でも会うだけよ。私よりルクレシアの好感度のほうが高いわ」

「それは婚約者候補だからよ。公爵令嬢として子どもの頃から知っているわけだしね。私はつい最近の感覚だけど」

「最近と言えば、交流が増えたでしょう? いい感じの人はいた? モブキャラでもオッケーよ!」


 出た。アヤナらしい質問。


 すぐゲームというか、恋愛に絡めようとする。


「いないわ。恋愛は興味なし。勉強第一! 絶対卒業! 中間テストに集中よ!」

「変わらないわね。でも、だからこそ先が読めないわ。普通は主人公とルクレシアが争うはずなのに」

「アルード様を押し付け合うために争うことならできるかもね」

「そうね!」


 アヤナは笑い出した。


「それでもアルード様を巡る争いと言えるわね! 大まかにはあっているかも!」

「アルード様推しの人がいたら大変だわ。私もアヤナも不敬どころではないわよ」

「王子様は大事にしないと」

「悪役令嬢も主要キャラだわ。大事にしてくれない?」

「だったら私を一番大事にしてよ。主人公だし!」

「図々しい主人公だわ」


 冗談を言い合いながら、中間テストのための魔法を練習した。


 魔力が減って来たので休憩にしようと言い、私はアヤナを自分の部屋に案内した。


「ここが私の部屋よ」

「さすが公爵令嬢ね」


 赤と金の色合いの豪華賢覧な部屋。


「最初は豪華だと思ったけれど、赤だから落ち着かない感じがするのよ……」

「ルクレシアらしい部屋だけど、赤が好きでないとダメな部屋ね」

「寝室もバスルームも全部赤いの。正直、変えてほしいわ」

「とりあえず、お茶とお菓子を出してくれる? 魔法の練習で疲れてしまったから栄養補給したくて」

「そうね」


 私はお茶とお菓子を用意させたあと、友人同士で話すといって使用人を下げた。


「実はアヤナにこっそり聞きたいことがあるのよ」

「何?」

「アルード様が絵本を貸してくれたの。光魔法を使えるようになるためのヒントだと思うのだけど、私にはよくわからなくて」

「見せて」


 アヤナは絵本を読んだ。


「どう? 光魔法の使い手として、何かアドバイスをしてくれない?」

「もしかして、光魔法を練習しているの?」

「アルード様が教えてくれるって言うのよ。でも、絵本を読んだあとに呪文を唱えてみたけれど、全然発動しなかったわ。ものすごく簡単な魔法なのよね?」

「灯りの魔法はそうね。絵本と同じ、幼い子どもでも適性があれば使えるわ」

「私には適性がなさそうね」

「系譜的にはどうなの?」

「初代のほうまで遡ると光の系譜なのよ。だけど、新しいほうは火の系譜。光より風の系譜のほうが近いから、それで風魔法が使えたのかも」

「そう」

「で、アヤナはどう思う? この絵本」


 アヤナは絵本を返してきた。


「ルクレシアに光魔法は使えないわ」

「やっぱりね」

「でも、それはルクレシアというキャラだから。キャラごとに違う属性になるよう設定されているのよ。一部はかぶっているけれど、悪役令嬢と主人公が同じ属性なわけがないでしょう?」

「それもそうね」


 とても基本的なことを見逃していた。ゲームのことだけど。


「光魔法は愛の魔法なのよ。前に失恋したと言っていたわよね? 今だって恋愛に興味ないって。そんな人が愛の魔法を使えるわけがないわ!」


 正論だと思った。


「アヤナは使えるわよね。それはどうして?」

「推しへの愛に溢れているからに決まっているわ!」


 大納得。


「風魔法にしなさいよ。ゲームのルクレシアは火魔法だけだったけれど、すでに風魔法を使えているわけだしね」

「アルード様にもそう言うわ。系譜を確認したけれど光魔法は無理そうだから風魔法の練習をするって」

「それがいいわ。ルクレシアが魔法を大好きなのはわかるのよ。それこそ全部の属性の魔法を使えたらと思うかもしれないけれど、ここはゲームの世界。全く同じとは言えないけれど、一人の人間が全部の魔法を使うことはできないわ。そういう設定なのよ」


 私はヴァン様のことを思い浮かべた。


 ヴァン様は人間には全ての属性の魔法が使える可能性があると言っていた。


 私もそう思いたい。


 でも、ゲームの設定を知るアヤナが無理だと言うと、無理だと思えてしまった。


「わかるわ。でも、ヴァン様が聞いたら怒るでしょうね。絶対に言えないわ!」

「ヴァン様?」

「魔導士よ。前の勉強会に来ていたでしょう?」

「アルード様の護衛として来ていた魔導士?」

「そう。離宮で風魔法を教えてくれたのも、毎週水曜日に教えてくれるのもヴァン様なの」

「男性よね?」

「当然よ」

「消火係だから水も使えるのよね?」

「そうよ。でも、氷と火も使えるみたい。すごくない? 私はそれを見て、ヴァン様なら全部の属性を使えるようになりそうって思ったわ! でも、アヤナは無理だって言うから……残念だなって」


 アヤナは考え込んだ。


「もしかして、ゲームに登場するキャラなの?」

「ヴァンって名前のキャラはいなかったと思うわ。どんな顔?」

「いつも魔導士の制服でフードをかぶっているから、顔を見たことはないわ」


 魔導士の制服のフードには視認を邪魔する効果が付与されている。


 そのため、近くに寄っても覗き込んでもフードをかぶっている時は、顔の上半分が全く見えない。


「私もその人に会ってみたいわ。勉強会の時はあまり気にしていなかったのよ」

「必死に勉強していたわね」

「攻略対象者の好感度のほうが心配で」

「なるほどね」

「毎週水曜日に教えてもらっているなら、私も連れていってくれない?」

「アヤナも?」

「私も浮遊魔法を使えるようになりたいのよ」

「わかったわ。でも、ヴァン様はすぐに機嫌が悪くなるのよね。まずは連れて来ていいかどうかを聞いてみるわ」

「わかったわ」


 アヤナと一緒に勉強することができるなら、今以上に楽しくなる。


 ますます魔法の勉強に力が入りそうだと思った。


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