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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第二章

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53 風の魔導士による心得



 私はヴァン様にも属性選択のことについて話した。


「ヴァン様はどう思われますか?」

「私のルクレシアは人気者ですね」


 私の……教え子ってことよね?


 勘違いをしないように心の中で自己確認。


「確かにルクレシアには才能があります。ですが、これまでとは違う才能が突然開花するかどうかは誰にもわかりません。特級クラスでなければコランダム公爵家の名誉、婚約者候補の沽券にかかわります。火属性でいいでしょう」

「わかりました」

「ですが、一度しか火属性の授業に出ていないのは気になります。中間テストは中級魔法ですからね」

「よくご存じですね?」

「当然です。魔導士になる者はほぼ全員が魔法学院の卒業生です」

「それもそうですね。失礼いたしました」

「しっかりと勉強しなさい」

「はい」

「今日は応用について教えておきます」


 ヴァン様は窓に寄った。


「行きますよ」


 風の魔導士による心得その一。


 ドアから出るのは面倒なので窓から外に出る。


「浮遊魔法をかけます」


 風の魔導士による心得その二。


 階段も必要なし。浮遊魔法で上下移動をする。


「さっさと使えるようになりなさい」


 風の魔導士による心得その三。


 何度も教えるのは面倒なため、自主勉強でさっさと覚えるように励む。


 私は窓から出て宙に浮いた。


 その途端、浮遊魔法が切れる。


「ひっ!」


 私は慌てて風魔法を唱えた。


 上昇する風を起こすことで、地面に激突しないようにする。


 風の強さを徐々に調整すれば、怪我をすることなく地上に降りることができる。


「よくできましたね」


 風の魔導士による心得その四。


 魔法を習得するためなら、危機的状況を故意に作ることもある。


「ありがとうございます。より励みます」


 ヴァン様は同じ魔法を何度も丁寧に教えるような人ではない。


 一度教えた魔法は次の時には向上していないと不機嫌になり、やる気がなさすぎると言って怒るタイプ。


 おかげで必死に練習することになり、風を起こす魔法はいつでも発動させることができるようになった。


 でも、浮遊魔法はまだできない。


 早く浮遊魔法を習得したい気持ちだけが空回りしている。


「よく見てなさい」


 ヴァン様は外に行くと、手の上に小さな火を出した。


「この火を大きくするには、強い魔法をかけ直す必要があります。あるいは、自分で調整してこの火を大きく育てます。わかりますか?」

「わかります」

「一瞬なのでわかりにくいかもしれません。よく感じなさい」


 ヴァン様の出した魔法の火は一瞬で大きくなった。


「今度は別の方法です」


 魔法の火は再び小さくなった。


 そして、一瞬で大きくなった。


「質問です。私はどうやって火を大きくしましたか?」

「一回目は火を調整しました」


 最初の火は瞬時に大きくなったけれど、一度も消えていない。


 つまり、弱い魔法を消して強い魔法をかけ直ししたわけではない。


 元々小さな火だったものが大きくなっただけ。支配する火を大きく育てた。


「二回目は風魔法を使いました」


 上昇する風によって火を煽り、大きくした。


 あくまでも魔法の風によるものなので、どこまで火が大きくなるかはわかりにくい。


 調整するとしても、魔法の風で煽った火が大きくなり過ぎないようにするほうだと思った。


「風と火を組み合わせることで簡単に火を大きくできます。初級魔法を二つ使うことで、中級程度の火魔法と同じ効果を出せるとも言います」


 弱い魔法も組み合わせによって強くできるということ。


「中級魔法のテストは大きな火を起こすようなものになるでしょう。火魔法だけでこなせない場合は、風魔法を使えばいいのです。ほぼ同時に無詠唱で使えばわかりません。火魔法だけで大きな火を出したと判定されるでしょう」

「それはズルですよね?」

「見抜けないほうが悪いのです。そして、私は風魔法の応用を教えただけです。窓から落ちた時だけでなく、他の時にも使えるということをね」


 風の魔導士による心得その五。


 狡い魔法でもバレなければ問題ない。見抜けないほうが悪い。


 風の魔導士による心得その六。


 責任は取らない。逃げるのがうまいのも風の使い手の特性。


「浮遊魔法はどうですか?」

「発動しません」


 私には向いていないのか、発動させることができない。


 風魔法の初級はできるようになっているので、下準備はできていると思うのに。


「唱えてみなさい」


 私は浮遊魔法の呪文を唱えたけれど、やっぱり発動しなかった。


「それではダメです。魔力と魔法がつながっていません」

「どうしてつながらないのでしょうか?」

「発動をイメージしていますか?」

「しています」

「どの程度ですか?」

「しっかりとです」

「そうではありません。どの程度浮き上がるつもりなのかと聞いているのです。一センチですか? 一メートルですか?」


 私は衝撃でよろめきそうになった。


「ヴァン様は天才です……気づいていませんでした!」


 浮遊魔法なのに、どのくらいの高さまで浮くのかを明確に考えていない。


 浮くわけがなかった。


「一緒に来なさい」


 ヴァン様が私を連れて行ったのは庭園。


 ガゼボがあった。


「よく見ていなさい」


 ヴァン様は浮遊魔法をかけ、ガゼボの階段を上がることなく、最上段の位置まで浮かんだ。


「階段は面倒なので、浮遊魔法で最上段の位置まで上がりました」


 風の魔導士による心得その二ですね。


「浮遊魔法は浮くための魔法ですが、その高さを決めるのは使い手です。わずかに浮くことから、天高く浮くこともできます。最初はこの程度がいいでしょう。浮いたことがはっきりとわかる高さ、それでいて自分にとって便利な高さにするのです。階段やよく通る場所の段差を目安にするといいでしょう。ここまで浮くというのがわかりやすく、イメージもしやすいからです」

「はい」

「やってみなさい」


 私は深呼吸をした。


「緊張するのはわかります。ですが、ここは庭園。風は穏やか。風の使い手に優しく力を貸してくれるでしょう」


 私は風を感じるように目を閉じた。


 確かに風は穏やか。そして、優しくもある。


 私の心はすぐに落ち着いた。


「やりなさい」


 私は目を開けると、階段の最上段を見つめながら呪文を唱えた。


「あっ」


 何かを感じた瞬間、くらりとした。


 倒れそうになってしまったのを、ヴァン様がすぐに支えてくれた。


「よくできました。わずかですが、発動しましたよ」


 優しいヴァン様の声を聞いた私の心に歓喜が溢れた。


「もう一度。もっと自信を持ちなさい。でなければ発動しません」

「はい!」


 今度こそ!


 私は気合を入れて、もう一度浮遊魔法の呪文を唱えた。


 ふわり。


「あっ!」


 ストン。


 落ちた……。


「よくやりました。あとは練習です。しっかりと浮く高さをイメージするだけでなく、継続して宙に留まるイメージもしなさい。一瞬だけ浮くイメージでは一瞬で浮遊が切れてしまいます」

「そうですね……」


 当たり前のこと。でも、ヴァン様に指摘されなければ気づけなかった。


「屋敷で練習しなさい。今日はここまでにします」

「はい!」


 その時だった。


 空を飛んで来る魔導士がいた。


 魔導士はヴァン様の側に寄ると、何かを囁く。


 でも、私には聞こえない。目の前にいるのに。


 ヴァン様からは不機嫌なオーラが溢れ出したので、内容は伝わっているようだった。


「急用です。私は先に戻ります。途中まで送ってあげなさい」


 ヴァン様は空を飛んで行ってしまった。


「飛行と移動と自力、どれにする?」

「自力というのはどのようなものでしょうか?」

「自分だけで戻る」


 何かの魔法かと思ってしまった私の頭は、すっかり魔法の虜らしい。


「申し訳ありません。ここが王宮の庭園だというのはわかるのですが、どの辺かがわかりません。飛行でも移動でもいいので、王宮の建物まで送っていただけないでしょうか?」

「浮遊しろ」


 絶対的な命令のようだった。


 私は浮遊魔法を唱えた。


「一応はできるのか」

「先ほどようやく発動しました」


 でも、ぐらりぐらりと揺れている。


 誰かにかけてもらった時はバランスが取れるのに、今はできない。


 私の浮遊魔法が未熟で不安定な証拠だった。


「練習しろ」


 魔導士は私の手を掴むと移動魔法をかけたらしい。いきなり走り出した。


「速いです!」

「口を閉じろ!」


 口だけでなく目も閉じてしまいそうな速度で私は移動。


 王宮の建物のところまで来た。


「ここでいいな?」


 はいの返事以外は許さない気配。


「ありがとうございました」


 私が一礼する間に魔導士は浮き上がり、飛んでいってしまった。


 あの人、怖い……。


 でも、浮遊魔法を使えるようになった喜びは大きい。


 私はルンルン状態で馬車乗り場へ向かった。



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