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もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢  作者: 美雪
第二章

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52 勧誘話



 中間テストの日程が発表された。


 私は火属性を選択しているけれど、火属性の授業には初回しか行っていない。


 すでに属性選択は火属性で書類を提出しているので、これからは何があっても火属性の授業に出ようと思った。


「ルクレシア・コランダムは一緒に職員室へ来るように。提出された書類についての確認がある」

「わかりました」


 何だろうと思いつつ、私は席を立った。


「一緒に行くわ」


 アヤナが申し出た。


「嫌な予感がするのよね」

「ルクレシア」


 アルード様に呼ばれた。


「今日は水曜日だ。王宮へ行くのか?」


 私は水曜日に王宮に行き、ヴァン様の指導を受けている。


「申し訳ありません。王宮には行きますが、職員室に行かないといけません。先にお帰りください」

「だが、公爵家の馬車はない。王宮へ行く時に困るだろう? 一緒に職員室に行く。時間がかかりそうなら予定をキャンセルすればいい」

「わかりました」


 ヴァン様の講義を受けたいので、担任がさっさと用件を済ませてくれるよう期待することにした。


「少し待て」


 担任は職員室に入っていった。


「ここが職員室なのね」


 初めて来た。


「まだ来たことがなかったの?」

「用事がなければ来ない場所だわ」


 職員室から見た顔の先生たちが出て来た。


「面談室を使う。移動だ」


 先生たちのあとに私、アヤナ、アルード様がついていく。


 面談室に入る時もアヤナとアルード様が一緒だったけれど、先生たちは何も言わなかった。


「まあ、座れ」

「はい」

「アルード様はこちらに」


 私の向かい側の席にはアルード様が座ることになった。


「では話す。属性選択のことだ。火属性で提出しているが、火属性の授業は一回しか出ていない。風、光、雷にも興味があるようだな?」

「いいえ。諸事情により参加しただけです」

「そうか。では、確認だ。火属性でいいのか?」

「はい」

「ということだが、一応は各属性の先生から話があるので聞いてほしい」

「ルクレシアの選択は正しい。得意な魔法は火魔法なら、属性選択は火属性にするのが常識だ! 他の属性にする必要はない!」


 それが火属性の授業を担当する先生の言葉。


「ルクレシアは風魔法を使える。初級の魔法ではあるが、徐々に強くなる風に対し自らの魔法を調整させることで対応した。才能も技能もある。火魔法は使える対象や場所が限られてしまう。魔物討伐に活用されているせいで、女性には向いていないと言われる属性だ。将来のことを考え、風属性への変更を検討しないか?」


 それが風属性の授業を担当する先生の言葉。


「ルクレシアは魔法に対して非常に鋭い感覚を持っている。その才能は十分に引き出されてはいない。光魔法をかけられた感覚を磨くことで、光魔法を使えるようになりそうだ。ディアマス王国は光属性の使い手の育成を重視している。アルード様の婚約者候補であることを考えても、光属性に変更するほうがいいように思うがどうだろうか?」


 それが光属性の授業を担当する先生の言葉。


「ルクレシアには才能がある。直感だが、今からでも雷魔法を取得できる気がする。火魔法は使い道が限られていて、護身用に使うにも注意が必要だ。その点、雷魔法は護身用に重宝する。相手をしびれさせたり、捕縛したりするようなことにも使える。この際、火と雷の複属性使いを目指すのはどうだろうか?」


 それが雷属性の授業を担当する先生の言葉。


「ということだ。今週内であれば変更が可能だ。公爵家なら属性の系譜もあるだろう。それを参考にしながらご両親と話し合ってほしい」

「わかりました」

「用件は終わりだ」


 私とアヤナは先生に一礼して面談室を出た。


 最後に出たのはアルード様。


 私が代わりにドアを閉めようとするけれど、必要ないと言われた。


 そのまま無言で廊下を歩き続ける。


 途中でアヤナと別れ、私はアルード様と一緒に迎えの馬車に乗り込んだ。


「勧誘か。人気者だな?」

「まさか光や雷属性の先生からも言われるとは思いませんでした」


 風魔法は実際に使ったことがあるし、ヴァン様に習っている。


 でも、全く魔法を使っていない属性への変更をすすめられるとは思わなかった。


「光属性への勧誘はわからないでもない。ルクレシアには光属性の魔法に対する感覚が鋭い」


 私はアルード様とアヤナの魔法の差をしっかりと感じ取っていた。


 普通は回復した気がする、強く感じた、弱く感じたといったような単純な感想になる。


 でも、温度感、安心感など繊細な表現を使ったのは、それだけ私の感覚が鋭いことを示している。


 先生が回復魔法をかけてみたいと言ったのも、私に光魔法を感じ取るだけでなく扱うだけの才能があるかを確認するためだった。


「公爵家だけに光の系譜につながるはずだ。今は火の系譜であっても、ルクレシアには光魔法を扱う才能を受け継いでいる可能性がある。どうしたい?」


 アルード様が尋ねた。


「正直、狡い言葉だと思った。だが、ルクレシアは私の婚約者候補だ。光魔法の使い手になれば極めて大きな影響があるだろう」


 どうしよう……。


 光魔法が使えたら嬉しいけれど、そうなればアルード様の婚約者候補の中で最も有力になる。


 結婚路線が確定してしまいそうだった。


「アルード様はどう思われますか?」


 私はアルード様の気持ちを確認したかった。


「気持ちが変わったのか?」


 アルード様の口調はとても静かだった。


「以前は必ず私と結婚すると言っていた。だが、今は言わない。離宮でも、婚約者候補でなくなることも覚悟していると言っていた」


 そうですね。


「私の婚約者候補になったのは、あの事故のせいだと言われても完全に否定することはできない。公にはしていないが、ルクレシアはあの事故を乗り越えた。魔法学院に入り、多くの選択肢も生まれた。新しい人生を歩きたいと思っても不思議ではない。婚約者候補を辞退したいのか?」


 正直に言うと、辞退したい。


 そうすれば悪役令嬢の立ち位置から解放される気もするし、エリザベートやマルゴットと仲良くできそうな気もする。


 魔法の勉強にも打ち込んで、魔法学院も卒業して、正式な魔法使いになって、複属性使いを目指したい。


 私が幸せになるために必要なことのように思える。


 でも、現実は甘くない気もする。


 婚約者候補でなくなれば、コランダム公爵家の力は弱まる。


 王宮や社交界における両親の立ち位置も同じ。悪い影響が出る可能性がある。


 エリザベートやマルゴットも婚約者候補ではない私を見下すかもしれない。


 アヤナも私のことを役に立たない存在になったと感じ、離れていくかもしれない。


 そんな考えが次々に思い浮かび、私は怖くなった。


 私が幸せになろうとしたことで周囲の人を不幸にし、そのせいで私もまた不幸なってしまうのではないかという不安もある。


「大丈夫だ」


 うつむく私を優しく包み込むのは温かさ。アルード様の回復魔法だった。


「魔法学院で多くのことを学ばなくてはいけない。年齢的にもまだ結婚できない。今しかできない勉強のほうを優先すればいい」

「そうですよね!」


 私もそう思った。


「光属性や雷属性の授業はすでに実践的なもので、これまでよりもレベルが高いと思いました。大事なのは優秀な成績で魔法学院を無事卒業することだと思っています!」

「あくまでも個人的な意見だが、属性選択は火のままでいいと思う。いくら才能があっても、他の属性をすぐに特級クラスのレベルで使えるようになれるとは思えない。火属性を選択しつつ、他の属性については講師に習うか自主勉強をすればいいのではないか?」

「私もそれは考えていました。すでに風魔法を教えていただいていますので」

「風魔法は便利だ。火との相性もいい。だが、光も火と相性がよくて便利だ」


 私はその通りだと思った。


「私が教えてもいい。初級の魔法を練習してみるのはどうだ? 初級の魔法が使えないなら、属性変更をする意味はない」

「そうですね」


 希望的観測で属性変更をして、あとで失敗したということになりたくない。


「ぜひ、お願いいたします!光魔法を教えてください!」

「わかった。木曜日に王宮に来い。学校の帰りだけにあまり長くはないが、光魔法について教える」

「ありがとうございます!」

「決まりだ。今日は風魔法を習ってこい」


 完全にお見通しだと思った。



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