51 雷属性の生贄
四回目の属性授業は火属性にするつもりだった。
でも、エリザベートから雷属性の授業に誘われた。
「どうしても来てほしいの。借りにしてもいいわ。だから来てくれない?」
「私に頼むなんて珍しいわね?」
あのエリザベートがそこまで言うのは事情があると思った。
「まさか……雷魔法の実験体にする気?」
「違うわ。魔力が多い人が必要なの」
「それなら行くわ」
「良かったわ」
エリザベートはホッとした。
「絶対に休まないでね?」
「約束は守るわ」
こうして私は雷属性の授業に行くことになった。
雷属性の授業は教室ではなく訓練施設で行われるようだった。
訓練施設に行くと、雷魔法を得意とする生徒たちが集まっていた。
「イアンも?」
「ルクレシアも生贄か」
「なんですって?」
先生が来た。
「なかなか良い生贄を選んだな?」
生贄確定。
「今日は楽しみながら雷魔法を実践する練習をする。ルールは確認したな?」
「はい!」
「わかっています!」
生徒たちが返事をした。
「チーム分けもできているな?」
「第一小隊はイアンを狙います」
「第二小隊はルクレシアを狙います」
第一小隊と第二小隊があるらしい。
なんとなく、戦う感じの競争だと思った。
「生贄は防具をつけるように」
エリザベートから紫色の三角帽子が渡された。
魔女みたいだと思うのは私だけ?
イアンも同じように帽子をかぶっているけれど、黄色。
色の違う帽子で第一小隊と第二小隊を分けているらしい。
「では、小隊ごとに分かれろ。生贄は椅子に座らせろ」
エリザベートに連れられ、私はすでに設置してある椅子に座らされた。
「これからゲームをするの。相手チームの対象物に雷魔法を当てれば勝ちよ」
「ちょっと! 話が違うわ!」
「大丈夫よ。ルクレシアには絶対に当たらないわ。帽子と椅子の効力で雷魔法が曲がってしまうのよ。床に三角錐の置物がいくつもあるでしょう?」
椅子を中心に据えた魔法陣があり、その中に三角コーンのようなものがたくさん置いてあった。
「あれは雷魔法を受けると色が変わるのよ。相手チームの三角錐の色を全部先に変えたほうが勝ちよ」
直接三角錐に雷魔法を当てるのではなく、相手チームの生贄役にめがけて雷魔法を撃ち、曲がった雷を三角錐の置物に当てる。
ようするに、屈折を利用して対象を攻撃する。
「雷魔法は直線的だからかわしやすいでしょう? だけど、屈折を利用することで対象に当てることができるようになれば、使い方の幅が増えるわ」
「なるほどね」
「とにかく、ルクレシアは座っているだけでいいの。帽子、椅子、魔法陣や三角錐に魔力を供給するだけだから」
それで魔力が豊富な私が誘われたのね……。
「ルクレシア~! 僕のチームが早く解放してあげるって~!」
イアンが叫んだ。
それはきっと早く勝負をつける、自分たちが勝つという宣言。
「イアンのほうを先に自由にしてあげるって言って!」
「自分で言えばいいでしょう?」
「相手チームに声をかけるのはダメなのよ。罵倒や挑発を防ぐためにね。だから、生贄役に言わせているの」
雷属性の授業も生徒も結構なひねくれ具合。
屈折を利用する攻撃の練習だからかもしれないけれど。
「イアンのほうを先に自由にしてあげるって!」
私はエリザベートに言われた通りに叫ぶと、相手チームが円陣を組んでやる気を出していた。
「気合が入っていますね」
「第一小隊、即勝よ!」
「おー!」
エリザベートたちも声を張り上げ、拳を突き上げた。
とりあえず、私は相手チームの雷を捻じ曲げるための生贄役。
椅子に座って観戦することにした。
第一戦は第一小隊が速攻で勝った。
開始の合図そうそうイアンを取り囲むような激しい雷が一斉かつ連続で降り注いだ。
そのせいで屈折した雷が全方向に拡散され、あっという間に第二小隊の三角錐の色が変わった。
事前にチームを分けていたのであれば、作戦を立てることもできる。
第一小隊は全員で雷を撃つ場所の担当を決め、生贄を中心にした全方向に屈折した雷が走るように考えて実行した。
その作戦がうまくいって勝利したけれど、一回きりの対戦ではない。
授業の時間が終わるまでは何戦もすることになり、負けたチームにはペナルティの課題があるらしい。
なので、一勝したからといって気が緩むことはない。
最後まで全力あるのみと、エリザベートが気合を入れ直していた。
でも、第二戦からは様子が変わった。
雷魔法を自分の陣地や相手の陣地に撃つことで邪魔するようになった。
そのせいで魔法のタイミングが取りにくくなり、屈折する方向や距離も変わった。
よりレベルの高い戦いになったということ。
「やられたわ……」
二戦目はかなりの激戦で、第二小隊が辛くも勝利した。
「一斉に撃つのは最初しかできないとは思っていたけれどね」
魔力回復と作戦会議のための休憩でエリザベートが言った。
「どうする?」
「何も策がないままじゃ、さっきと同じだ」
「粘り負けしそう」
「魔力の消耗も激しいし」
第一小隊は初戦で一斉に魔法を撃ちこんだ。
あっという間に勝利したけれど、あっという間に魔力も消費してもいる。
その差で二戦目が長くなるほど苦しくなっていったように見えた。
「どうしようかしらね……」
リーダーのエリザベートもかなりの消耗をしているのが明らかだった。
「何か方法はある?」
第一小隊の生徒は顔を見合わせるが、言葉はない。
「ルクレシアは?」
「私は生贄役でしょう?」
「第一小隊のための生贄よ。相手の魔法を一身に集めてくれる対象だから」
なるほど。
「ルクレシアのおかげで他の生徒は攻撃できるわ。だから、ルクレシアも第一小隊の仲間ってことよ」
「そうなのね」
「何か案はある? 雷魔法の使い手でなくても作戦は立てられるわ。むしろ、私たちのように激しく魔法を使っているわけではないから、考える余裕もありそうじゃない?」
「そんなこと言われても……魔力は減っているのよ?」
「わかっているけれど、また消耗戦になると不利だわ。こっちは魔力総量が少ないのよ」
チーム分けをした時に生徒の魔力総量が同じようになるよう調整したらしいけれど、完璧に揃えることはできない。
第一小隊のほうが少ないとのことだった。
「イアンが指示出しをしているわよね。そのせいでこっちの攻撃が的確に邪魔されてしまっているわ」
イアンは生贄役に甘んじることなく、全体を見渡せる立場であることを活用し、司令塔のような役回りもしていた。
「ルクレシアも指示を出してくれていいのよ?」
「こういったゲームをするとは思わなかったから……でも、作戦がないわけではないわ」
第一小隊の視線が私に集まった。
「作戦があるの?」
「一応話すわ」
私は考えついた作戦を説明した。
「休憩は終わりだ!」
先生が時計を見て叫んだ。
「ルクレシアの作戦で行くわ。いいわね?」
「了解!」
「わかったわ!」
「やってやる!」
「第一小隊、必勝よ!」
「おー!」
第一小隊は拳を突き上げた。
第三戦は第二小隊が圧倒的に有利な状況だった。
第一小隊は魔力の消耗がきついので防戦状態。相手のほうには一切攻撃せず、自分たちのほうに打ち込まれる雷魔法を邪魔することに専念した。
通常は攻める者と守る者に分けるけれど、状況によってはどちらかにするほうが効率的になる。
第二小隊の攻撃役だけでは攻略が進まなくなってきたため、イアンは陣地で様子を見ていた防御役に攻撃参加を指示した。
あと少しだと思っている第二小隊は完全に攻撃体勢になり、残り二つしかない三角錐の色を変えるための攻撃を何度も繰り返した。
「あと一つだ!」
ついに色が変わっていない第一小隊の三角錐が残り一つになってしまった。
「あと一つよ!」
私も叫んだ。
それが合図。
第一小隊は初戦と同じく、イアンに対し各自で担当する場所に一斉に雷魔法を撃ちこんだ。
第二小隊は完全に攻撃に専念していて、防御役がいない。
こちらの攻撃に即対応できるだけの技能者がいなければ、勝敗はすぐにつく。
イアンに落ちた雷魔法はまたしても全方向に拡散され、一気に第二小隊の三角錐の色を変えた。
「そこまでだ!」
先生が叫んだ。
「第一小隊の勝ちだ!」
「やったわ!」
「最高!」
第一小隊の生徒は大喜び。
「ルクレシアのおかげだ!」
「一発大逆転だ!」
その通り。
攻撃をわざと陣地に引きつけ、相手の隙をついて一気に形勢逆転。勝利を掴む作戦だった。
「全員、よく頑張った。生贄役も指示出しをするほど白熱した試合だった」
先生が全員を見渡しながら総評を述べた。
「だが、これは雷属性の授業だ。第二戦はイアンのおかげ、第三戦はルクレシアのおかげで勝利が決まった。一時的に生贄役で参加した生徒のおかげで勝利するのを許しては、甘い采配になってしまう」
ということは?
「第二戦と第三戦は無効。よって、第一戦の結果を踏まえ、第一小隊の勝利とする」
結果的にはやっぱり第一小隊の勝利。
だけど、雷属性の授業を担当する先生として適切な判断をしたと思う。
「第二小隊は今回のゲームに関するレポートの提出をするように」
ペナルティの課題も発表された。
「イアン、ルクレシア、協力してくれたことに礼を言う。二人の実力であれば、新しい属性を習得できるかもしれない。ぜひ、雷属性についても検討してほしい」
最後は雷属性への勧誘で授業が終わった。




