42 夕食会
夕食時間。
久しぶりに女子と男子の全員が揃った。
アルード様も一緒。
話題は水泳の授業についてで、楽しい勉強だったと喜ぶ感想ばかりだった。
「ルクレシアがもっと早く勇気を出していればね」
アヤナがずっと黙っている私のほうを見た。
「一緒に水遊びができたかもしれないのに」
「そうね。最終日の午後ではどうしようもないわ」
「今思うと、もったいなかったかもね」
「ゲームのような授業だったので、大丈夫だと思えたかもしれません」
でも、最初はルクレシアが泳げない理由を知らなかった。
アヤナが他の三人から聞いてくれたおかげで、どうすればいいのかがわかった。
「一人になることで、過去の自分と向き合うことになったわ。このままじゃいけないって思うこともできたしね。これから少しずつ取り返したいわ」
「取り返す?」
「水泳を習うってこと?」
「まずは水遊びからね。楽しい経験をたくさんすれば、水は楽しいものと思えるようになるはずよ」
「そうかも」
「そうね」
「わかります」
「ですが、ルクレシアは火魔法の使い手です」
ベルサス様が言った。
「火魔法の使い手は水魔法が苦手です。火魔法を使いこなせるようになるほど、その影響は強くなります」
「属性影響論ね」
「私もそれは思ったわ」
「同じく」
「魔法使いにとって属性の影響は非常に大きな要素です。過去の出来事、不幸な事故があったということであれば余計でしょう。無理はしないよう勧めます」
ベルサス様は慎重派。
それはわかる。いきなり水が大好きになったらおかしいのもわかっている。
だけど、これで終わりにしたい。もう大丈夫だということにしたかった。
そのほうが私もアルード様も生きやすくなるはずだから。
「ご配慮いただきありがとうございます。無理はしません」
「そうしてください」
「でも、私だけボートに乗っていません。湖の景色を楽しみながらの夕食会にも参加できませんでした。とても残念です」
「悔しい?」
「残念どころではないわね」
「とても楽しい思い出になりました」
「離宮で一番の思い出にかもね」
女子たちの意見は容赦なし。
でも、一緒に離宮で過ごしているので、距離が近くなった気がする。
嫌味ではなく、友人同士で遠慮なく意見を言い合っているだけだと思った。
「アルード様、別館のバルコニーでもう一度夕食を取れないでしょうか?」
突然アヤナが提案した。
「そうね!」
「名案だわ!」
「参加できなかったのはルクレシア様のせいではありません。そのことをご考慮しただけないでしょうか?」
エリザベート、マルゴット、レベッカも食事会を開くことに賛成、アヤナの提案を支持した。
ベルサス様、カーライト様、イアンとレアンも同じ。
「わかった。明日、別館で夕食会を開く。天気次第だが大丈夫だろう」
皆のおかげで、別館のバルコニーで開かれる夕食会を経験できることになった。
「ありがとうございます。天気が晴れるように祈ります」
「火魔法で雨雲を焼くほうがルクレシアらしいけれど」
「そうすれば絶対に雨にならないわね」
「むしろ、ルクレシア様なら日照りになりそうな」
「レベッカは固そうに見えるけれど、冗談も言えるのねえ」
「ルクレシアの勇気に乾杯するのは明日に持ち越しだ。全員で夕食会を楽しめるよう決意の乾杯をする」
全員がグラスを手に取った。
「乾杯!」
高らかに上がったグラスの中にあるのは水。
でも、特別な水だと思えるほど美味しかった。




