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04 主人公を探して



 翌日。


 午前中の授業が終わり、ランチタイムになった。


 最近の私は友人が増えたため、アルード様と一緒にランチを取ってはいない。


 私のグループもアルード様のグループも人数が多いため、それぞれのグループに分かれて食べていた。


「ルクレシア、今日は一緒に食べないか?」


 アルード様に誘われ、私はにっこりと微笑んだ。


「嬉しいですわ。ぜひ、私のグループと一緒にお願いします」

「良かった」

「でも、私だけは遠慮します」


 周囲にいたクラスメイトが驚いた。


「予定があるのです。ですので、友人たちにそのことを伝えるのを申し訳なく思っていたのですが、アルード様と一緒にランチを取れるのであれば喜んでくれます。アルード様、私のグループのことをよろしくお願いいたします」


 アルード様はためらいつつも、頷いてくれた。


「わかった。だが、予定というのはどのようなことだ? あとで食堂に来るのか?」

「今日は行きません」


 私はカバンの中からお弁当を取り出した。


「アヤナの様子を見に行くつもりなのです。友人が増えているといいのですが」

「そうか。わかった」


 私は急いで教室を出た。


 アヤナはすでに教室から出てしまっている。


 すぐに追いかければ大丈夫だろうと思っていたけれど、アヤナの姿はない。


「探さないと……」


 私は以前アヤナと一緒にお弁当を食べていた場所に行ってみた。


 でも、アヤナはいない。


 他の生徒たちがベンチの場所取りをしていた。


「ルクレシア様だわ!」

「今日はお弁当ですか?」

「よろしければご一緒させていただけませんか?」

「ベンチを確保しましたので!」


 次々と声がかかる。


「人を探しているの。アヤナを見なかった?」

「スピネール男爵令嬢のことですよね?」

「ここにはいません」

「私たちはいつもここで昼食を食べるのですが、彼女はいません」

「別の場所だと思います」


 別々に昼食を取ることになってから、場所を変えたようだった。


「ありがとう。探してみるわ」

「お手伝いしましょうか?」

「一緒に探します!」

「大丈夫よ。ランチタイムを楽しんで!」


 私はにっこり微笑むとアヤナを探しに向かった。


 でも、アヤナの姿は見つからない。


「穴場を見つけたのかしら?」


 魔法の訓練に使うような特殊な施設や場所もあるので、魔法学院の敷地は結構広い。


 つぶさに調べていると、ランチタイムが終わってしまいそうだった。


「困ったわ……」

「助けてあげようか?」


 振り向くとイアンがいた。


「アルード様と一緒じゃないの?」

「ちょっと気になってね。こっそり後をつけた」

「そう」

「アヤナのいる場所は知っている。ついて来て」


 私はイアンについて行く。


 到着したのは魔法植物園だった。


「天気がいいから外のほうかな。こっそり見るのかな?」

「最初はそのつもりよ」


 エリザベートの言葉を確かめるためにそうしたい。


「じゃあ、こっち」


 イアンと一緒に音を立てないようにして茂みに身を隠しながら進んだ。


「あそこ」


 アヤナは敷物を持ってきており、地面の上に敷いていた。


 気づかれないように後ろのほうから見ているので、アヤナの表情は見えない。


 でも、一人で昼食を取っているのは間違いなかった。


「なぜ、ここで食べることを知っているの?」

「アルード様に調べるように言われた」


 アルード様の提案で私とアヤナが別々に昼食を取ることになった。


 そこでアルード様は一人になったアヤナがどうしているかを調べるようイアンに命じたとのことだった。


「ルクレシアの様子は食堂内だからわかる。でも、アヤナは弁当だから食堂に来ない。調べないとわからないからね」

「アルード様は私のことだけでなくアヤナのことも心配してくださったのね。優しいわ」

「それ、本心?」


 イアンがじっと私を見つめた。


「随分変わったね。高慢な身分主義者だったのに」


 やっぱり……。


 悪役令嬢であれば、公爵令嬢として威張り散らしていそうだった。


 でも、私にはできない。


 主人公の女性をいじめたり、その邪魔をしたり、酷いことをするなんてもってのほかだと思っていた。


「将来のことを真剣に考えたのよ。魔法学院に入学する以上、本気で魔法を勉強したいし、自分を成長させたいの。そのためには今までの自分を変えることも厭わないわ。むしろ、そう思うことが成長の証でしょう?」


 言い訳でもあるけれど、本心でもある。


 私はルクレシア・コランダムであることを完全に受け入れてはいない。


 この世界がゲームアプリと同じであることはわかっているけれど、悪役令嬢になんてなれないし、そんな役回りもしたくない。


 ゲーム設定通りのルクレシア・コランダムらしく生きていく必要は全くない。


 私らしく生きていきたい。ただそれだけ。


「私のことを変わったという人もいるでしょうね。でも、私はいつだって私。自分が思うようにするだけよ。そうでしょう?」


 イアンは見定めるようなまなざしを私に向けたあと、にっこりと微笑んだ。


「そうだね。ルクレシア・コランダムはいつだって自分の思うようにするだけだ。他のことは関係ない。他人がどう思うかも気にしない」

「見た目はね。でも、心の中では違うこともあるのよ。悩むこともあるし、反省することもあるわ」

「反省だって?」


 イアンは驚きの表情を浮かべる。


「人間だもの。失敗することもあるでしょう? だけど、コランダム公爵家の長女として失敗を認めるわけにはいかないってこともあるのよ」

「それはわかる。名誉にかかわるしね」

「余計なことを話してしまった気がするわ。でも、アヤナの居場所を教えてくれたお礼よ。このことをアルード様に伝えるのかどうかは知らないけれど」

「意外な話が聞けて良かったよ」


 イアンは笑顔を浮かべた。


「てっきり高慢で鼻持ちならない令嬢だと思っていたけれど、変わったみたいだからね。ちょっとだけ興味がわいた」

「それはどうも。だけど、一緒するのはここまでよ。私はアヤナと話があるの。イアンは急いで食堂に戻って。ランチを食べ損ねるわよ?」

「追い払いたいわけか」

「そうよ。そして、イアンのことを本当に心配しているの。授業中にお腹が鳴ったら、紳士の名誉にかかわってしまうでしょう?」

「さすがルクレシア。カードの見せ方が利口だよ」


 イアンはクスリと笑った。


「紳士としてはここに留まって盗み聞きをするわけにはいかない。失礼するよ」

「ありがとう」

「どういたしまして」


 イアンが立ち去っていく。


 私はアヤナのところへ向かった。


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